うらのおと 関西風景

おとなのための男同士の恋愛小説
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人生はいつも途中


29


 「それで、あんたら、セックスはどーやってやってんの?」

 瀬那っちが躊躇ひとつせず、人のプライバシーに踏み込んできやがったので、おれも躊躇ひとつせず、ちんこ挿入以外にやれること全部、と答えた。

 隣で聞いていた柏原さんは、あー、と言って目を逸らし、シュウは真っ赤な顔をしてうつむいた。

 本日、おれとシュウとは瀬那っち宅におよばれ。シュウはこないだ買ったばかりの赤いワンピースを着て、おずおずと瀬那っち宅の玄関の敷居をまたいだ。左手の薬指には、おれが見立てたサンゴの指輪。シュウも気に入ってくれているようだし、おれ的にも我ながらナイスチョイスの満足品。今日のシュウはいつにも増して可愛いと思ってしまうのは、彼氏の欲目ってやつなのかね、これは。

 瀬那っちはともかく、シュウのようなタイプの人間にあまり免疫のない柏原さんは、最初こそにこやかに落ち着いた顔を見せていたが、その口を開いたが最後、えーと、すね毛とかはやっぱり全部剃ってるんだよね、全部、全部……? ど、どこまで剃ってるの? 境界線はどこ! あそこまで剃ったら温泉入るとき困るし……て、あそことか何言ってんの、おれー! と、どんどん崩れまくった挙げ句にひとりぼけつっこみの妙技を余すところなく披露し、おれと瀬那っちとを大いに笑わせた。

 「SCとかでばんばん女装してる人ぐらい見たことあるくせに、里哉」

 「そりゃせやけど、でも、日常の場で一対一で話すことはさすがにあらへんし……」

 瀬那っちと柏原さんがときどき行くことのある、京都にあるSCという店では、月に一度パーティーがあって、仮装大会のような様相を呈しているらしい。あらゆる性別の人があらゆる格好で集って楽しむ会で、もちろん女装男装なんでもありなんだそうな。シュウはその話を聞いて、きらきらと眼を輝かせた。

 「行ってみたい、行ってみたい。ねえ、ヨウさん、一緒に行くのはあかん?」

 そういう場なら、さすがのシュウも、普段の外出ではなかなか着づらい、がっつりロリ系の服も着られそうだ。おれの調子さえダウンしていない時期だったら、そういうのもアリかな。一緒に行ってみる? と誘ってみると、行く行く、きゃーきゃー、と騒がしい。

 「柏原さんもそういうときは、ドレスアップしてお出かけですか?」

 水を向けると、柏原さんは、いやー、ははは、と遠い目をして、おれはパーティーには行きません、と断言した。こういうところ、柏原さんはとてもおかたい。

 「そう言う樋口はなに着てくつもり? 普段の服装ではあかんねんで」

 「ドレスアップってことなら、おれ、いっくらでもやりようがありますよ。ボンデージレザーとか、普段そうそう着られる場所ないですからね」

 おれをやりこめようと攻めの姿勢に入った柏原さんを簡単に返り討ちにすると、柏原さんはもごもごと、そーか、樋口ならそーだよな……という、訳のわからない感想を述べた。

 ボンデージレザーという言葉を耳にとめ、シュウの顔がほわんとピンク系になる。

 「ヨウさん、絶対似合います。おれ、見てみたいです」

 「そ? 今度ふたりきりになったとき、おれの正装見てみる?」

 「見たいです。見ます」

 「シュウもカワイイかっこして見せてな。じっくりねっとり、脱がせてやるから。おれのも脱がせて」

 シュウの顔がほわほわとエロピンク系になる。うーん。可愛すぎる。

 柏原さんはいたたまれなくなったと見え、お茶、お茶のおかわりと言って、キッチンに引っ込んでしまった。

 「ヨウ、あんた、本気でタチに目覚めたんちゃうん」

 瀬那っちの言葉に、それはない、と首を振る。

 「じゃ、ええもん貸してやる。使てみる?」

 瀬那っちに手渡されたのはおとなのおもちゃ。スイッチを押すと、ぶぶぶと震える。シュウは顔を真っ赤にしつつ、眼は釘づけだ。

 「やってみる? ここで入れる?」

 シュウの眼の前で振ってみせると、シュウの顔がとろとろになった。やっべ。こんなことしてると、おれもその気になっちゃうよ。

 「せっかくやから、柏原さんも入れて、4Pとか……」

 「おれはやらん!」

 オープンキッチンから柏原さんの怒りの声が聞こえてきた。試してみたらあの人、絶対にはまると思うんだけどな。ちぇっ。



 瀬那っち宅からの帰り道、シュウと手をつないでゆっくりと歩く。シュウが、あ、満月、とあいた手で頭上を指したのを追っておれも顔を上げ、ふたりでぼんやりと月を眺めた。

 「おれの田舎、すっごいきれいに星見えますよ。ヨウさんに見せてあげたいです」

 シュウが楽しそうに言うのに、ふーん、と相づちを打ってみる。

 けれどもそれは夢の話。シュウがこの格好をしたまま田舎に帰ることはない。だからもちろん、おれを連れて帰郷することもない。

 夢は夢。けれどもおれたちは夢を食べながら生きていくことができる。人間に与えられた前向きな逃避方法だ。

 ほのぼのした空気をまとったまま、おれのマンションまで戻り、ワンピース姿のシュウの手を引いてベッドの上に倒れ込み、絡み合う。シュウとキスを繰り返しながら、その背中のファスナーを下ろし、ワンピースの裾から手を差し入れ、めくりあげて脱がす。恥じらいを見せるシュウの下着を取り去り、その奥深くに、瀬那っちからもらったおもちゃを差し入れる。

 シュウはおもちゃ初体験。普段おれの指を入れたりはしてやっているが、ここまで太いのを咥えるのは初めて。指で少しずつゆるめてやって、ゴムをかぶせてローションまみれにしたおもちゃを、シュウの呼吸をはかりながら押し込んでやる。

 「あっ、あっ」

 「ええとこあたってる? 気持ちいい? 痛くない?」

 「んっ、あっ……イイです……ヨウさん……」

 「気持ちよさそ。おれのもしてよ」

 「ん……」

 乱れた息をしているシュウの手を取り、おれの中心に導く。シュウは振動するおもちゃを後孔に咥えたままおれの上に乗りあがり、おれのかたくなっているところを口に含んで舐めあげる。

 シュウが呑み込んでいるおもちゃの角度を変えてやりながら前をいじってやり、シュウもおれのモノを口に咥えたまま、おれの後ろに指を伸ばす。

 どちらがタチだとかネコだとか、どちらがどんな格好をしているのかとかは、おれたちにはどうでもいいことだ。ただ、互いに気持ちのいいことを相手に与え合う。互いに欲を交わし合うことで愛情を伝え合う。

 たぶんセックスの本質ってそういうもんだと思うよ。

 シュウをおれの膝の上に脚を開かせて乗っける。互いのものを一緒に握り、絡め合わせながら擦りあげる。ふたりであえぎ声を上げながら、頂点に達するまでの快感を味わう。

 「も、イきそ……」

 「待って、待って、ヨウさん、おれ、おれ……」

 「あとでやってやっから、先にイかして……」

 「あ、それ、駄目、ヨウさん、おれ、も、キちゃう、やっ……」

 「シュウ、シュウ……可愛い……好き……キスさして……キスしながら、イかせてよ……」

 「あ……ヨウさん……ん……あ……」

 「シュウ、も一回、キス……ん……は……ごめ……先、イく……」

 「ん……あ、ヨウさん、ずる、い、待って、て、言った、のに……あ……や……おれ、も、イっちゃ、う……やっ……あっ、ああっ……」

 「シュウ、可愛い、こっち見て……も一回、キスさせて……」

 「あ……ヨウさん……ヨウさん……好き……好きです……」

 吐息とともにシュウの口から漏れ出る告白。それをおれの唇で吸いとる。

 お互いに何回も好きだ好きだと繰り返しているうちに、心がぽかぽかしてくる。だから、きいっちゃん、おれたちのあいだには愛が存在しているって考えていいんだよね。



 シュウをつれて、きいっちゃんの墓参りに行った。誰のお墓ですか? と聞かれたので、おれの大事な人、おれを産みなおしてくれた人、最愛の人、と答える。シュウはそれが誰のことを指しているのかわかったのか、ふーん、とだけ言い、おれに倣って手を合わせた。

 きいっちゃんのおかげでまだおれは生きているよ。そしてまた愛しい人ができた。この子とあなたとの歳の差は二八。あなたが初めておれに声をかけてくれたとき、この子はまだたったの二歳だよ。笑っちゃうよね。

 でもずっとこの子と一緒にいたいと思っているよ。この子のために長生きしたい。ずっと大事にして。

 そうだね、おれが死んだあとも。この子に遺せる何かを。この子が生き続けるために力になるような何かを。

 おれが人を愛せるようになったのは、全部、きいっちゃん、あなたのおかげです。

 好きという言葉を、好きという気持ちを、おれに教えてくれてありがとう。

 おれはこれからも生きていくから。あなたを心のなかでずっと大事にして、生きていくから。

 だから、あなたに会えてよかったと、生まれてきてよかったと、そう思える今の自分を導いてくれたことに、感謝します。



   (了)




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