『はじめまして』

昔々、それは大昔のこと。
ある若者が、とあることに気付きました。

この世界に、人間は四つの種族がいると言われている。
クラヴァット、リルティ、ユーク、セルキー。
けれど、誰がこの四種族“だけ”だと決めただろう。
「人間」という生き物を、言葉によって他者との意思疎通をはかれるモノだとして、
もしかしたら、そういう人たちは、もっともっとたくさん、この世界にいるかもしれない。
まだ、自分たちが知らないだけで、実は、どこかで生きているかもしれない。

そう考えた若者は、思い立ちました。
探してみよう、と。

そんなモノが存在するかと馬鹿にし、笑いモノにする人たちを尻目に、
若者は世界中を旅しました。
西へ、南へ、東へ、北へ。

そして、北の北の端の大地で、出会ったのです。

「はじめまして」と、挨拶を返してくれる存在を。
その体は真ん丸く、毛足の長い緑色の体毛で覆われ、若者の背よりも高く、もっと大きかったのですけれど。
頭のてっぺんには不思議な紅い石を宿していたのですけれど。

これは、誰も知らない話。
とてもとても大昔過ぎて、もう誰も覚えていない話。
そして、眠り続ける者たちの、大切な想い出。

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