『木の下で』

男は、峠の里に残してきた孫娘がひとり、いるのだと言いました。
女の知らない、男の子どもの、娘が。

女は男の目をじっと見つめ、そして微笑んで言いました。
私には、村に残してきた、たくさんの子どもたちがいました、と。

もう大人になった大きな子どもから、
まだ生まれたばかりの小さな子どもまで、
たくさんの、“子どもたち”。

何の因果か、余所者であったはずの自分が、
纏め上げ、育てることになった、“子どもたち”。

外見は決して、種族の違う女に似ることは無かったけれど。
内にはそのしたたかな強さを秘めて。

大丈夫、あの子たちは、生きていける。しっかりと、自分の足で、歩むことができる。
女の知らない、男の子どもの、娘も。
男の知らない、女の子どもたちも。

濃い瘴気の中で、まだ、ただ唯一蒼い葉をつけていた木の下で。
二人は笑みを交し合ったのでした。

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