『光』

ぱちぱちと、焚き火のはぜる音が暗闇に響く。
海から吹き上げてくる潮風が、風除けにと作られたこのルダの村の窪地にも微かに吹き込み、炎を揺らす。

今夜の火番を請け負った彼は、消えないようにと薪を継ぎ足しながら、そっと炎の向こう側に座る彼女を見つめた。
セルキーのような服装に似つかわしくない、その意志の強そうな青い瞳はまだ、じっと夜空を見つめている。

先ほど、この星空の……星のようにと彼女は言った。だが、きっとその姿は太陽のように輝くことだろう。
その輝きを自分は直視することができるだろうかと、彼は、らしくもないことを考えた。

「……そろそろ、宿に戻った方がいいんじゃないのか?」
もう、彼女の探しものは見つかったのだ。明日には城に帰るだろう。あの髭づらの、口うるさいリルティの老兵士と共に。
慣れない肌の露出が多い異種族の衣装を身につけ、長旅をした身が、意外に冷え込む潮風にこのまま当たり続ければ、体調を崩すのは目に見えていた。
もう寝たらどうだと、暗に促す。

「そうね。……ありがとう」
ゆっくりと、立ち上がる。が、炎に背を向けようとして、彼女は躊躇する様子を見せた。
「ええと……」

「宿がどれか分かるか?」
立ち上がり、側まで行くと、そこから見えるひとつのテントを指差した。近づいた白い肌から何かが夜風に薫る。

「一応、あそこがこの村でよそ者が泊まれる場所さ。けれど気をつけないと、色々と盗まれるからな」
よそ者には容赦するな。隙あらば、かっさらってしまえ、が信条の、盗賊たちの末裔の住む土地。

「分かったわ。気をつけます」
軽い会釈をし、彼女はゆっくりと、しかし確かな足取りでテントに向かって行った。

その姿がテントの中に消えるまで見届けた彼は、
「……鈍ったかな」
自らも盗賊の末裔でありながら、何故か獲物を盗り損ねた自分の手を見つめ、ぽつりと不思議そうに呟いた。

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