『行き場のない手紙』

それは喜びを。
それは悲しみを。
それは楽しみを。
それは怒りを。
遠く遠くへと運んでいく。
小さな郵便屋さんが持ってきてくれる、それは、
遠い遠い家族からの報せを、運んできてくれる。
遥か遥かな友の声を、教えてくれる。

「ありがとう」の言葉を糧に、今日も小さな郵便屋さんは、手紙を届けにいく。
どこまでも、とてとてと、飛んでいく。
お手紙を受け取る人の笑顔が、見れますように。
どうかその手紙が、笑顔を咲かせてくれるものでありますように。

苦しみながら、正気を失いかけながら、渡された手紙は、瘴気の雨に湿りながら。
その手紙を受け取った人は、驚きと不安で顔を曇らせ、震える手で返事を差し出した。
小さな郵便屋さんは、まるでその不安までも受け取ってしまったかのように感じながら、再び沼地の奥へと向かった。
けれど、そこにはもう、人影はなかった。

郵便屋さんは困った。
届ける相手が居ない。見つからない。
郵便屋さんは、その手紙を持っていった。送る相手のない手紙が集まる場所へ。
届ける相手のいない手紙は、たくさんあった。
いつしか、そういう手紙だけが集まる場所ができた。
郵便屋さんたちに預けられる手紙は、必ずしも相手がいるものばかりではなかったから。
遠いところへいってしまった人への手紙も、もう会えない人への手紙も。

郵便屋さんたちはその小さな羽を懸命にはばたかせて、行き場のない人の想いも、運んでいく。

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