『共有』

初めて、魔物の棲み処へと踏み込む前に、戦い慣れしている仲間が「一応ね」と言って、口を開いた。
何となく、言われる内容は予想できた。
何せこちらは初心者。
外の世界に出たてのほっかほか。
生まれたてのひよこのようなもの。
大体の内容は、先代キャラバンの人たちや村の老人たちに、出発前に口を酸っぱくして言われたコトと同じだろう。

曰く、魔物に油断するな。
曰く、つねに注意を怠るな。
曰く、生きるために必死で戦え。
曰く、仲間の足を引っ張ってはいけない。
曰く、旅の目的はミルラの雫を村に持ち帰ることだから、それを忘れるな。

…………何度も聞いて、正直耳にタコができるかと思うぐらいだったが、それでも「一応」だからと、向き直る。

「約束してほしーことあるんだけどさ」
「ん?なに?」
「……無茶、しないでね」
「うん、分かってる」

ああ、やっぱり心配してるんだな。そう思った。

「つか、少しならいーんだ、無茶なんか全然しても」
「?」
「死なないでねってこと。笑えないから」
「当たり前じゃない。私もそんなことで笑われるのはいやよ」
「違う違う。そーゆー意味じゃないって」
「どう違うの?」
「君に死なれたら、あたしもー二度と笑うこと、できなくなっちゃうもん」
「……………………」
「目の前でどんなに楽しーこと起こってもさ、みんなが面白い話とかで笑ってても、腹の底から笑えない」
「……………………」
「たぶん、全然楽しくない」
「…………そうね。たぶん、私もそうなるわ」

ずっと、忘れられることなんて、ないだろうな。
いっつも一緒に笑ってた友達と、外の世界に出て、帰ってきた時には傍らの存在がいなくなってるなんて。
それで、心から楽しむなんてこと、一生できなくなっちゃうんだろうな。
それを、怖いと思った。

…………そっか。
私たちはこれから、その恐怖を共有していくことに、なるんだ。
それはこの命が、自分だけのものじゃなくなるってことだった。

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