『過去からの手紙』

いつものように、強大な魔物を倒し、その奥にあるミルラの木から雫を採る。
何度この瞬間を迎えても、その輝きは見飽きる事がない。

長い期間を経て、やっと葉の全体にまで浸透し蓄積されてきた雫が、一滴一滴、ケージの先のクリスタルの光に誘われて落ちていくのを眺めていると、後ろの方から、ぱたぱたと軽い羽音がした。
「お手紙持ってきたクポ!」
「ああ、ありがとう」

今回は誰からだろうか。家族か、故郷の村の人だろうか、それともどこかの街で知り合った人だろうか。
いつものように、礼を言って受け取り、差出人の名前に目を通す。

普段なら、その後さっさと封を切って読み始めるのが習慣だが、今日はその手が止まった。
「……“りるてぃせんし?”」
聞き慣れない名前に、思わず眉根が寄る。

このような名前の人物に会った覚えは無い。世界中を旅している自分の事だから、出会った人すべての名前を完ぺきに覚えているとは言わないが、それでもこんな不思議な名前であれば、むしろ逆にインパクトから忘れるはずがないと思う。
眉間のシワはそのままに、若者は用心しながら手紙の封を開けた。

―― それは、過去のものからの手紙だった。
ひとりのリルティの戦士。おそらく、彼らが大陸を支配していた時代の終焉間際に書かれたのだろう。そこには、武力によって支配することの哀しみのようなものを感じた。
何故、彼はクラヴァットに未来を託したのだろうか。

その心は永遠に分からない。どう考えても、この差出人であるリルティが生きているとは思えなかった。リルティの武力支配の歴史は、今では遠い遠い昔の話になってしまっている。

一体どうしてこのような手紙が、自分のところに届いたのだろうと、若者は疑問に思った。古の時代の者が、若者のことを知っていたとはとうてい考えられない。

「ねえ、どうしてこの手紙を持ってきたの?」
「渡されたからクポ! お返事しないクポ?」
配達してくれたモーグリの返事は要領を得ない。返事を出さないのかと言われ、若者は余計に困惑した。何しろ、相手はとっくの昔に亡くなったであろう人物。返事を書いても仕方ないような気がする。しかし目の前のモーグリはまるで若者が絶対返事を書くと思っているのだろうか、早く早くと急かすばかり。
「そう言われても……」
ほとほと困り果てていた若者の脳裏に、ある一つの考えが浮かんだ。
「もうちょっと待ってね」
「早くするクポ〜」

荷物袋の中から筆記用具、新しい紙を取り出す。しばし考え、すらすらと短くも速攻で書き上げた彼は、素早く折って封筒に入れる。
「はい。これを頼むね」
「お手紙預かったクポ〜」
本当に、手紙が好きなのだろう。モーグリは嬉しそうに一声鳴くと、ひょこひょことその場を立ち去った。

一連の出来事を見ていたモグが、くるくると若者の周りを飛ぶのをやめ、不思議そうに尋ねる。
「誰に送ったクポ〜?」
「知らない人にだよ」
「知らない人にお手紙クポ?」
「そう。知らないけれど、たぶん、届くと思うよ」
出会ったこともない、古の人間からの手紙を受け取ったのだ。自分が出した未来への手紙も、会うことのないであろう誰かの元に届くに違いない。そう、若者は確信していた。

―― 未来のひとへ。どうか、あなたがこの手紙を受け取る頃には、その世界が瘴気のない平和な世界になっていますように……。

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