ぽん、ぽん、くるり。
ぽん、ぽん、くるり。
同じセルキーの子どもの合図に合わせて、足元の崖の合間に張られた網に身を沈め、反動に乗って再び宙に跳び上がる。
その繰り返し。
ぽん、ぽん、くるり。
ぽん、ぽん、くるりくるり。
海から吹き上げてくる風が、体の脇をくすぐりながら吹き抜けていく。
宙に浮く感触も、落下する感覚も、押し上げられる勢いも、すべてが気持ちいい。
高揚していく気分も、楽しい。
ぽん、ぽん、くるり。
ぽん、ぽーーーーん……。
ふと、その視界に飛び込んできたのは、青い青い空。
どこまでも蒼く澄み切った、空。
「あ……」
―― 飲み込まれる。
そう感じた。
伸び上がっていく体を、包み込むように、はてしなく続いている、蒼。
しかし、無限の空に飲み込まれる瞬間。
体は落下し始めた。
ぼんやりと、意識を空に飲み込まれ力の抜けた肉体は、やさしく収縮をくり返す網に、絡めとられる。
まるで、自由の空から引き離され、蜘蛛の巣に捕まってしまった蝶のように。
軽く上下しながら見上げていると、終わってしまった跳躍に、
「あーあっ、失敗しちゃったね!」
少しだけ残念そうに、子どもたちが声をかけてくる。
その言葉に、曖昧な笑みを返し、蜘蛛の巣から抜け出た。
ずっと自分たちも跳躍したくて仕方なかったのだろう。入れ替わるように、跳ね始めた子どもを眺めながら、まだぼんやりとしたままの頭で考える。
自由にはなれない。
否。
多分、自分は自由になりたいとは想わないだろう。
この空を、恐れてしまったから。
何もない、縛り付けるものの存在しない空を、はてしない空を、怖いと感じてしまったから。
この身は、自由を求める民であるというのに。
「どうしたの?」
何とか村人にギルを盗まれずに買い物を終えたらしき姿が、栗色の瞳で心配そうに顔をのぞき込んでくる。
「……別に。何でもないよ」
そんなに情けない表情を見せてしまっていたのだろうか。
無言でじっと見つめてくる様子が、「全然そうは見えない」と雄弁に物語っていて、思わず苦笑を洩らした。
「本当に、大丈夫だって」
そう、大丈夫。
だって、今の自分には、まだ“大地<あなた>”があるんだから。
大丈夫。
だから、もう少し。
“あなた<大地>”の側にいさせて。
了