始めはちょっとした悪戯のつもりだった。
「ごめんなさい。今日のご飯失敗しちゃった…」
夕暮れ迫る街道で、野宿の際のご飯係となっているガーネットが珍しくもそう言った。
旅の最初から料理をしていた彼女が、料理を失敗したらしい。
「いいよ。いいよ。待つよー」
暢気に珍しいこともあるものだと思っていたヴィ・ワに次の瞬間衝撃的事実が告げられる。
幌の中を覗き込み、申し訳なさそうな顔でガーネットは言った。
「ごめん。材料も無くなっちゃった」
小首をかしげて、てへ、なんて笑っているのは可愛い。可愛いけれど死活問題ではなかろうか。
街まで行くにはちょっと遠い。
このままでは夕飯抜きは確実で。
そこに思い至るとともにヴィ・ワは徐に立ち上がり、近くにいたモグをむんずと掴むと一陣の風となって幌を飛び出していった。
後に残されたのは呆然とするしかないガーネットばかり。
彼女の背後で赤々と燃える炎に熱せられているのは、ぐつぐつと煮えるほしがたにんじんのシチュー。
「ちょっとした、冗談のつもりだったんだけどなぁ」
いくら特攻隊長とはいえ、もう少し周りの状況を確認して欲しかったと、ガーネットは溜息をついた。
とはいえ、騙したのはガーネット。
どこに向かったかは知れないが、お詫びにデザートでも作っておこうかとしましまリンゴを手に取った。
1時間後。
意気揚々とヴィ・ワが食料品を手に戻ってきた。
入手先は「あの盗賊から私のリンゴを返してもらってきただけだもん」とのこと。
正確には、盗賊たちから盗み返してきたらしい。
今度彼らに出会ったら、お詫び代わりにしましまリンゴのパイでも差し上げようと思ったガーネットだった。
毎度お馴染み、「An even break」(ジャンルは違います)のあやさとさまより日記掲載形式で戴きました。
四月一日にエイプリルフール小話でございます。うん、ヴィ・ワは猪突猛進オバカやから……!
あやさとさま、ありがとうございました。
2009年4月1日に頂戴しました。