かつて四種族が集い、平和に暮らしていたという遺跡よりもまだ先に世界の果てがある。
いや、世界の果てだなどと思っているのはこちらばかりで実際には荒涼とした大地が広がっているとも言われているのだが、世界が瘴気に覆われてからというもの、その地に足を踏み入れ真実を目にした者も、また目にしたとしてもそこから無事に帰ってきた者もいないがゆえに、古い伝聞に頼るしかない。
事実上、そこは世界の果てで間違いないのだ。
だがそれでも、その地が何処よりも不可思議で危険であるということは付近まで旅したキャラバンの誰もが認めるところだ。
世界を断絶する何かが、確かに存在しているのだと。

『アタシの背中について来い』
Gift from Aplayer = Ayasato sama.

前を歩く逞しくも華奢な背中。
明日のために、村のために、世界を変えようと決めたのは一年前のこと。
二人で決めて、二人だけでこうして世界の果てであるヴィレンジェ山に足を踏み入れた。
星をも降らせるラケットを手に、ヴィ・ワは勇ましくも雄雄しく特攻を仕掛けてゆく。
いつもと同じように。
この、息苦しさすら覚える重く濃い瘴気の中でもそれは変わらない。
全くもって頼もしい限りである。
そんなことを考えつつ、ガーネットは手にしていたケージを抱えなおしヴィ・ワが動きやすいよう微妙に位置を調整する。
手伝おうという気はあまり無い。
今までと段違いに強い魔物を相手にしていても、だ。
寧ろ特攻を仕掛けているときには、ケージを持つゆえに動きの鈍いガーネットが足手まといになることさえあるから。
「ガーちゃぁん」
「ケアル」
することといえば時折、一人で魔物を倒し終え走り寄ってきたヴィ・ワが何かを述べる前に回復をするくらいで。
それは長年、旅を続けてきた二人にとっていつもと同じ光景で。
けれども再び特攻を仕掛けに行ったヴィ・ワの背中を追いかけながら、ガーネットはその感覚に違和感を覚える。
ここは確かに自分たちの知っていた世界の果てで、長年、誰も無事に戻ってきた者がいなかった地だ。
もちろん自分たちとて何事かあったときの保険をモーグリに託して、この山に臨んだ。
危険な場所だという事はわかっている。
確かに感じる重圧も、咽そうになるほどの瘴気も今までとは段違いだということは身をもって知っている。
それなのに、ガーネットはほとんど恐怖を感じていないのだ。
よっぽど初めてリバーベル街道で魔物に遭遇した時の方が怖かったように思う。
「ガーちゃーん」
「ケアル」
こうして駆け寄ってくるヴィ・ワが倒れる様も、ガーネットが膝をつく姿も想像できない。
傲慢だろうか。
自分たちの力を過信しているのだろうか。
そうかもしれない。
こうして戦っているヴィ・ワを見ていると楽に倒せる相手でないのは充分理解できる。
先程から小まめに回復魔法をかけざるを得ないのが何よりの証拠。
そう理解しているが。
「理性と感情は別物ってことよねっ」
ケージを投げ捨てて、ヴィ・ワと対峙していた三歩先の魔物の装甲を切りつける。
ガキィンと良い音がして、剣を持つ手が痺れたけれど目の前の魔物も倒れ伏す。
その勢いで跳ね飛ばされた小石が当たったのか、頬に鋭い痛みが走る。
「ケ、ケアルゥ?」
目を丸くし、慌てて呪文を唱えるヴィ・ワに不敵な笑みを見せてガーネットが前を行く。
立場逆転。
今度はヴィ・ワが回復係だ。
考えて答えが出るようなものでもない。
要はいかにガーネットがヴィ・ワのことを信頼してるかということだ。
ヴィ・ワが前を行く限り恐怖を感じることは無い。
だってヴィ・ワが前を歩けるように、心置きなく暴れられるように支えるのはガーネットの役目なのだから。
でも、だからこそ、ガーネットに背中を預けることがヴィ・ワの役目だ。
いっそヴィ・ワが目を瞑っていたとしても、目的地まで押し進めてしまえるくらいに。
二人で臨むことならば、叶わない事はない。
だから、
「アタシの背中についてくればいいのよ」
明日のために、村のために。
なによりこれから先も二人で楽しく旅するために。
面倒なことは、さっさと済ませてしまおう。

何処までも晴れ渡る、透き通るような青空の下。
世界の果ては、ティパの村のキャラバンの新たなる旅立ちの地となった。

管理人・田林から…

毎度お馴染み、「An even break」(ジャンルは違います)のあやさとさまよりメールにて戴きました。

娘っこ二人です。なんていうか……らぶらぶだよね。(ちょっと表現間違ってるような) あいかわらずガーちゃんが漢前でございます。そりゃヴィ・ワも惚れる。

あやさとさま、ありがとうございました。
2007年3月22日に頂戴しました。

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