我が魂よ、幾年流離おうとも


旧作シリーズ第一作~さらば宇宙戦艦ヤマトを繋ぐデスラー総統の物語です。さらばの方は
以前にズォーダー大帝×デスラー総統としてSSをアップしていますが、今回は親しくさせていただいている堀井甚五郎先生の
ご本「ガミラス生まれの侵略者」から「鎮魂」に至るまでの設定を元に創作させていただきました。堀井先生がご本の巻頭で
述べられております、「さらば宇宙戦艦ヤマト」のタランの不思議な存在感の解釈も使用させていただいております。
着手したのは2199が始まる以前で、およそ総統ものの二次創作をやり尽くして行き詰まっていたところ、堀井先生が
このネタをくださったという経緯があります。
昨年はすっかりドメル軍団に転んだり、堀井先生のドメデス本販売とのタイミングを見計らっていたらすっかり月日が経って
しまいました。さらばの総統の散り際はいろいろ悩むところではありますが、個人的に今回の解釈が一番気に言っています。 (2014.03.19)
              
本作は堀井甚五郎先生作「ガミラス生まれの侵略者」と「鎮魂」をつなぐ物語であり、既出の
「さらば愛しき者よ」とは全く異なる作品です。タランの存在についても今回独自の解釈を試みて
おりますが、決してタランを否定したり、嫌っているものではなく、ひとつの解釈であることを
ご理解いただければ幸いです。
ドメル×デスラー、ズォーダー×デスラー、モブ×デスラーを含みます。当然18禁です。







 彗星帝国ガトランティス帝国中央作戦司令本部ではズォーダー大帝を玉座に頂くと、総勢150余名の
将校・閣僚らを代表し、帝国支配軍総司令官ゲーニッツが号令を発した。

「我等彗星帝国ガトランティスはズォーダー大帝の御名の元、銀河系オリオン腕内縁の太陽系へと進路
を採る。目標は第三番惑星、地球。ナスカ艦隊を前衛艦隊、ゴーランド艦隊はテレザート星域守備艦隊と
する。ゲルン司令はプロキオン方面駐留空母艦隊を指揮せよ」

 この広い司令本部の末席にはガトランティス人将校とは異なる容貌の軍人らしき一団がある。
彗星帝国が攻め滅ぼしてきた星々の中で、帝国が見込んだ者たちはこのように拾われ、必要があれば
洗脳され、帝国の手兵にされているのだ。
その中に、明らかにただの軍人ではない、青い肌に金色の頭髪をした、灰色の軍服にくるぶしまである
長いマントを羽織った長身の男がゲーニッツの号令を聞き、目を見開いていた。

「…タラン、聞いたか……!彗星帝国は地球へと向かうのだ……!」

 そう呟いたのは大ガミラス帝国総統、デスラー。
地球の戦艦ヤマトに母星ガミラスを破壊され、自身もヤマトの反撃により瀕死の重傷を負い宇宙を彷徨って
いたところを彗星帝国の哨戒艇に救われ、ズォーダーに忠誠を誓う事を条件に帝国の禄を食む事になって
いたのだった。

 しかし彗星帝国がどれほどの大帝国であったとしても、デスラーは本気でズォーダーに忠誠を誓っては
いない。ただ生き延び、何としても地球に、ヤマトに一矢報いたいが為にズォーダーの前に膝を折った
までのこと。
きっと彗星帝国は地球に目を付ける。たとえそれまでに何十年、何百年かかったとしてもだ。
そのときこそヤマトに相まみえ、勝利し、そして再びガミラスを再建する。それだけが今のデスラーの悲願
であり、彼の唯一生き存える意味であった。

 彼の傍らにはいつも影のように、ガミラスの臣下で唯一生き延びていたタラン将軍が控えていた。
デスラーが彗星帝国で目覚めたとき、タランは涙を流し神なる総統の無事を喜んでいたのを憶えている。
しかし、どういった経緯でタランが救われ、この場にいたのかは聞いたような気もするが記憶に無い。
だが、どうでもよかった。ガミラス人が彼ただ独りではないという事実は、デスラーを大いに奮い立たせる
ものだった。

 彗星帝国の中にあって、デスラーが心を許せるのはタランただ独りだ。
彼は何でもタランに話し、タランはそれを忠実に聞き留めた。
「タラン、ヤマト撃滅を大帝に申し出ようではないか。今こそガミラスの恨みをはらす好機だ」
デスラーが小声でタランへと囁くと、タランは「はっ」と短く答え、目くばせを返す。
「遂に時は来たのだ、……ヤマトよ、待っているが良い…!」

大ガミラス帝国総統ということで、はじめのうちは帝国の重臣たちもデスラーに興味を示していたが、地球
の事しか言わぬデスラーに皆失笑を隠さず、いつしかデスラーは帝国の末席に追いやられ、今では大勢の
中の一人でしかない。それでもデスラーはひとり雌伏の時の終わりに目を輝かせ、拳を固く握りしめた。


 作戦会議が終了し、各々が持ち場へ戻り行く中、デスラーはその流れに逆らい首脳陣の元へと向かっ
たが、ようやく掴まえる事が出来たのは帝国軍参謀総長をつとめるラーゼラーのみだった。

「ふん、誰かと思えばデスラーか。血相を変えてどうしたのだ」
「…ラーゼラー参謀総長…。彗星帝国が地球への進撃を決定したとの由。私は過去に地球と戦った。
ヤマトは私に任せたまえ」
ラーゼラー参謀総長はデスラーを上から下まで無遠慮に見渡し、可笑しそうに口を歪めた。
「ああ、それは良く知っているよ、デスラー。君はあんな小さな惑星の古ぼけた戦艦一隻にしてやられ、
ガミラスも何もかも失ってしまったのだったな?そんな体たらくで我々の役に立つだって?」
ラーゼラーはデスラーの言うことなど全く本気に捉えようとせず、目の前の男を嘲笑った。
しかしデスラーは皮肉に応じることなく、ラーゼラーに冷ややかな一瞥を投げる。
「ヤマトは私のものだ。誰にも渡さん」
「……まあこちらに来たまえよ、デスラー。ゆっくり君の話を聞いてやろうじゃないか。ゆっくりとな」
含みを持たせたラーゼラーの言葉にデスラーはぴくりと細い眉を痙攣させたが、ぐい、と腕を掴まれると
それに抵抗することなく引きずられるようにして、彼等のいた通路からほど近いラーゼラーの居室へと
姿を消した。




「大帝。本気であのデスラーを使うと仰せですか?」
皆が去った後の作戦司令本部で、床一面のパネルに広がる大宇宙を眺めながら腕を組むズォーダーへ
脇に控えていたサーベラー総参謀長は非難めいた口調で問い直した。
「あれは過去にはガミラスの総統であったかもしれませんが、今や……」
「ほう、氷のサーベラーにしては珍しい。あの男に温情をかけているのか?」
小姓の運んできたグラスを手に取り、ズォーダーは玉座に腰掛ける。
「逆です、大帝。あれは狂っています。ろくに艦隊指揮などできやしません」
「他にあの男の使い道などあるまい。私はお前達の手慰みにあの男を飼っているつもりは無いのだぞ」
グラスを呷りながらもズォーダーの目はサーベラーを見据えたままだ。
「あら、手慰みだなんて、大帝……」
サーベラーは冷たく整った美貌に、ほんの僅かに笑みを浮かべて見せる。
「私はあのような愚か者に興味はありません。……しかし、大帝……」
床一面のスクリーンに広大な宇宙図が投影されている。白いスーツをまとったサーベラーは軽やかに
その上を歩み、地球への進路において一番の難所になるであろうテレザート星域に足を止めた。

「…あの男、捨て駒には丁度良いかもしれません」

ズォーダーは僅かも表情を変えることなくサーベラーの足元を見つめている。こちらを向きながら何も
答えぬズォーダーを彼女は不審に感じ、
「大帝、いかがなされました?」
と、問いかけた。

「……死に場所に不足あるまい……」

ズォーダーは厳かに呟き静かに目を閉じた。
己を宇宙の絶対者と豪語するズォーダーに似つかわしくない、どこか厳粛な表情を見て取り疑念を抱くも
サーベラーは押し黙る。


このようなとき、彼女にはズォーダーの考えている事が何一つわからない。







NexT→