君よ知るや我の心を


しばらく前、もう総統もいいけど土方さんマイラヴ!!!ってなってた時期がありまして(*´ω`*)
その頃に第一章見てない癖に書いちゃった、沖田さんと土方さんの別れの一コマです。
微妙に沖田×土方ですが、ナニかいたしたりはしておりません。土方さん格好いいわぁ……(でもズォーダー大帝にちょい似てる!)。
土方さん土方さん言ってたころ、チャットでつばるくさんと沖田×土方話に萌えましたv 沖田艦長、土方提督、腐女子でごめんなさい!!(2012.08.15)

              

 「全く、お前は相変わらず危なっかしい奴だ。どれ、見せてみろ」
「……構うな、かすり傷だ」
土方はレポートの端で傷つけた指から垂れる血をぞんざいに拭いながら笑った。
一歳年長の沖田は剛胆な土方と違って意外なところで細やかな気遣いを見せる。
こういうところが沖田の非凡たる所以なのだろう。
「いいから見せろ」
「止せ、子どもじゃあるまいし」
土方は柄になく頬が上気するのを感じ、慌てた。
大昔のことだ、彼と親しい関係にあったのは。
士官学校を卒業して、自分は宇宙航海を繰り返し、沖田は地上任務の傍ら防衛本部で
知り合った女性と結婚した。
以来、務めて沖田と親密な雰囲気にならぬよう気をつけてきた。
たとえ沖田に度を越した想いを抱こうとも、彼の奥方や子どもたちを傷つけるような
真似はしたくなかった。

「竜、ほら」
「……沖田……」

 名前を呼ばれ土方は迂闊にも傷ついた指を沖田へと差し出してしまう。
彼が名を呼ぶそのたった一言で、土方の中で封じ込めていた沢山の感情が溢れかえる。
沖田はそんな土方の心情を知ってか知らずか、じろり、と土方を見上げた。

「傷のある手でタイを汚してはいかんよ、土方提督」

そう言うと沖田は土方の手を掴み、傷の入った人差し指をそっと己の唇に咥えた。

「お、…沖田……」

生温かく湿った舌がざらりと土方の指に絡まる。

「…あんたの、…髭に…血が」
「何故?竜、お前の血じゃないか」
「いつまで舐める気だ」
手を引き戻そうとするが沖田はその手を離さない。一層強く吸い上げる。
「……」


 昔のことだ。お互いに若く、無謀で、未知の存在に対し貪欲だった。


 執拗に指を舐られ土方は小さく息を呑む。封印したはずの甘い記憶を沖田の舌は掘り返し、
暴こうというのか。

 甦る記憶を退けるように、土方は再び沖田にヤマト乗艦を思いとどまらせようと口を開く。

「沖田。…どうしても行くのか」
「ああ。…竜、先程『もう何も言うまい』と言わなかったか?」
「すまない、俺はしつこい男なんだ。沖田、考え直せ」
「何度考え直そうが、変わらんよ」
「残される者の身になれ」
「……」

 沖田の強く握った手の、傷ついた指の先から僅かに血が滲み沖田の白い髭を汚す。
だが二人ともそれに気付かない。

「もう私には残してゆく者はいないよ、…竜」

土方の目をのぞき込み、沖田は穏やかに微笑んだ。

「お前なら私の心を……判っているはずだ。どれほど離れようともな」

 込み上げる感情を押し殺すのには慣れている。

 肉親を奪われたときも、手塩にかけて育ててきた部下を失ったときも、涙を流しはしなかった。
それが己の矜持なのだ。

「ならば、やはり俺も行く。貴様だけで子どもの守は骨が折れるだろう」
「駄目だ」

沖田はつれなく土方に答えながら、そっと土方の体を空いた手で抱き寄せる。
自分よりも大きな逞しい体は頼りなげに寄りかかってき、体重を預けてくる。

「なあ、竜。お前は昔から頑固な奴で上官たちの嫌われ者だったな。だが私はお前のその気概に惚れ
込んでいた。お前のどうしようもないその性格は今の地球には必要だ」

 沖田は幼子をあやすように武骨な手で土方の硬い髪を撫でた。

 いつの間にあの利かん坊の土方、と先達に揶揄されたこの男の髪は白くなったのだろう。
彼は溌剌として自信家で、時に無鉄砲でさえあった。
湧き上がる情熱をそのまま、自分にぶつけてきたこともあった。
それを受け止めた。
土方は私を求め、私もまたこの男を求めた。
あたかも砂漠を彷徨う旅人がただ一滴の水を求めるかのように、我々は互いを渇望したのだ。


 心が惹かれあい、身体が惹かれあった。



 いつしかそれを恐れ、我々は静かに互いから身を引いた。




「俺をけなしているのか、褒めているのかどちらなのだ、……」

沖田に子どものようにあやされながら、土方は少し拗ねたような言い方をする。

「褒めているに決まっているじゃないか、竜。私はお前をけなしたことは一度も無いぞ」
「沖田……俺を、…買いかぶるのは……」

言葉が途切れるのは何故だ。
唇が震えるのは何故だ。


「竜。もう、何も言うな。お前は私の心を判っているし、私もお前の心を判っているよ。十分にな」

「………」

 土方は沖田に抱きしめられたまま、天を仰ぎ、目を見開いていた。瞼を下ろせば涙がこぼれ落ちるのでは
無いかと土方は恐れていた。
女のように涙を流すことは出来ない。



「……必ず戻って来い。……必ずだ」
「当たり前だ。ヤマトは必ず地球に帰す」


 涙は流れない。
ただじんわりと熱を帯びた目頭が煩わしいばかりだ。
我ながらよくも訓練されたものだ、と自嘲しながら土方は静かに目を閉じる。


そして、二度と帰っては来ないであろう親友の身体のぬくもりを己の身に記憶させるかのように、
彼は沖田の肩に腕をまわし、固く抱きしめた。




───────終────────