休日は二人で


ドメル幕僚団のゲットーちゃんとバーガーちゃんだいすきprpr それだけのSSです~ (2013.05.30)
              

 ライルの部屋はいつだって綺麗に整頓されていて、他の奴等が言うには「趣味の良い」ものしか無い。
俺から見ると、居心地の悪そうなものばかりに思えたので、
「あんた、ほんとにこんな部屋でくつろげるのか?」
って俺が言ったらあいつはすごく嫌な顔をして言い返してきた。
「お前こそあんな部屋でよく身体が休まるな!」

俺の部屋はまあ、誰もが想像するとおりで適度な生活感に溢れている。
だからライルは俺の部屋に滅多なことでは入って来ない。

お互い惑星外任務がほとんどだから自宅に帰ることなんかあまり無いし、ましてや二人が揃いも揃って
休暇をもらえることも滅多に無い。

「滅多に無い休日をお前の豚小屋で過ごすのは御免だ」

にこりともせずライルは言う。「悪かったな!」と俺が顔をしかめると、あいつはそこで初めて笑う。
可愛くも何ともない、むしろ底意地の悪い笑顔なので俺は全くいい気がしない。

 なので滅多に無い貴重な休日は、自然とライルの自宅で過ごすことになる。
ライルの作ってくれた料理を食べて、二人で片付けて、酒を飲みながら生活感の無いリビングで音楽を
聴いたり映画を見たり。ライルは自分専用のソファでくつろいで、俺は床に寝そべってたりと思い思いの
スタイルで時間を無駄に過ごすのだけれど、いつの間にかくっついてるんだよね。
どちらが擦り寄ってくるわけでもなく。

 出動のサイレンも、ハイデルン親爺の怒鳴り声も聞こえてこない静かな夕暮れ。
 ライルの、本のページをめくる音がまるで子守歌のように俺を眠りへと誘い俺は目を閉じた。
「おい、床で寝るな」
ライルの声が聞こえる。
「ああ、…わかってる、ちょっとだけ。……ライル…」






 だらしなく間の抜けた顔で寝ていたあいつはむくりと起き上がると、俺のキッチンをさも当然のように使い、
自分だけ飲物を作ってやって来た。そして了解も得ずに爪の手入れをしていた俺の膝に乗ってくる。
俺が不満そうな顔をしてるのが面白いのか、ニヤニヤ笑っている。不快な奴だ。

「どうしていっつも爪磨いてるんだ?」

何度俺に聞いてきたことか。面倒なので最近は答えてやっていない。
こいつにはそんな理由なんて実のところどうでもいいことがわかってきたし、俺にしてみれば爪を整える
のは朝起きて顔を洗うのと同じくらいに当たり前の身だしなみなのだ。
フォムトは俺の手を取りまじまじと眺め、不思議そうに何度も爪を撫でる。
「女の手みたい」
「そんなことはない」
「実は爪に色付けたりしてるんだろ?」
「するもんか、爪を整えるのは身だしなみの一環であって化粧じゃない」
ふうん、とわかったような、まるでわかっちゃいないような体でフォムトは俺の手を弄くり、自分の頬に押し当てた。
「ライルの爪、すべすべして気持ちいい」
不意に見せる子どもみたいな仕草に悩まされる。
「そういや、誰か言ってたぜ。ゲットー少佐が頻繁に爪磨きするのは女の為だって」
「女?」
「女を抱くときの為、だってさ」
「……」

唇が俺の手に押し当てられた。相変わらずこちらの本心を見透かすかのような青い瞳で俺を見る。

 女、じゃない。

「言ったらどうだ。ゲットー少佐は俺を抱くのにせっせと爪を磨いてるんだぜ、って」

ちょっとくらい慌てるかと思いきや、フォムトは目を細め唇の端を吊り上げた。
「言ったところで誰も信じないさ、そんなこと」
俺の手を離さぬまま、フォムトは大きな目で俺を覗き込む。
「俺のために爪を磨いてるの?」
唇がやわく俺の指を食む。
「……そうだ、と言ったら?」

研磨具合を確かめるかのように、奴は舌先を出して爪を舐め俺の目を凝視する。ふてぶてしいほどのまなざしだ。

「光栄ですな。撃墜王どの」

だが俺は好戦的なこの瞳がたまらなく好きだ。
挑みかかってくるような強い光を放つ青い瞳が、そして感情をそのままに映し出す鏡のような瞳が。

そしてベッドの中ではふと、強さが消えすがるような頼りなさを見せてくる。
こいつはそれくらい正直な男なのだ。

 さっきからずっと手にしていたカップを、フォムトは俺の前にあるテーブルに乱雑に置いた。
中の液体が跳ね、ガラスのテーブルに丸い小さな水玉を作る。

こぼさなかっただけましか。

「ライル」

焦れた声が呆れるほど色っぽいことを、こいつは知らない。
もっと聞きたくてわざと焦らしてしまうことも、こいつは知らない。

肩に両腕を絡ませてきたフォムトが「なあ、」と顔を寄せてくる。
「何だよ」
「しようぜ」
軍服姿だと絶対に言わないようなことも、完全なプライベートでならば別だ。
「何をだ。いい加減降りろ、重たい」
「ライルは冷たいな」

拒絶が嘘だってことはとっくに見抜いているのだろう。
本心を隠すことは得意なはずなのに、なぜかこいつには通用しないことが多い。

「だってお前、俺より重いじゃないか」
「そうだっけ」
とぼける割にせわしなく寄せてくる唇に軽く応えながら、より一層攻撃的になってくる相手の態度にほくそ笑む。

「でも、あんたの方が先輩だ」
「だからっていつまでも膝に乗るなよ」

荒くなる息づかい。次第に俺の言葉もろくに聞かなくなるフォムト。
横向きに乗っかっていたのを、こちらが重いと文句を言っているのに体勢を変え、跨ってきた。

「なあ、ライル」

のしかかる身体が熱い。

「いいだろ」

声が低く湿り気を帯びて来、俺の下腹を直接煽ってくる程に官能的になる。
フォムトの手は節の立った男の手で、爪も適当に切られて四角形になっている。俺はそれを横目に見、
ああ、またこいつの爪を磨いてやらなければと考えていた。

いたずら好きな両手が俺の襟もとを開いてゆく。

「何をしている」
「脱がしているんだ」

俺の言葉なんかうわの空といった様子で、フォムトは体を絡ませてくる。熱い吐息が耳にかかる。

「ライル」
反応してこない俺に苛立ってきたようだ。顔をあげ、眉を顰めて唇を尖らせている。

「お預け喰らわすの、あんた好きだよな。……そのたびに俺がどれだけむかついてるか知ってるか?」

からかわれて不愉快だ、と本気で怒ったような表情を見せた次の瞬間。


「満足したか?」

やんちゃ小僧の大きな瞳が得意げに笑う。

俺は奴の、頬の傷で引き攣れ上がった口角を思い切り捻ってやり、小生意気な唇を塞いでやった。
ああ、欠点だらけの後輩に何故かいつも振り回されてしまう。

でも、それでいい。
「フォムト、……」






────────終────────