午睡


フォムト・バーガー少佐萌えSS第二弾。ライル・ゲットー少佐とのイチャコラ妄想が楽しすぎます。(2013.02.14)
              

 第6空間機甲師団第4航空戦隊長ライル・ゲットー少佐は、午前の出撃を終え昼食を済ませると
兵舎の自分の部屋へと戻り、寝室を覗くと苦笑した。

自分のベッドに、親友である第7駆逐戦隊長フォムト・バーガー少佐が昨晩の姿のまま眠っている。

「やれやれ、呑気な奴だ」
部屋の主が朝早く出動していったにもかかわらず高いびきとは厚かましい、と思いつつその原因の
所在は自分にもあるのでいきなり叩き出すのは勘弁してやりゲットーはふう、と小さくため息をつき、
ベッドの脇に腰を下ろした。

「おい、バーガー少佐。もう昼だぞ」

すう、とバーガーは寝息で返事をする。

「起きろ。昼飯を食いっぱぐれる」

若者らしく、「昼飯」という言葉には反応したのか今度は「う、…うーん」と答えてきた。

「……ライル…?」
寝惚けた目を半分ばかり開き、バーガーは不思議そうにゲットーを見上げる。
「昼だ」
「……なんであんたがここにいるの」
間の抜けた言い草にゲットーは思いもかけず、自分の頬が熱くなるのを感じた。

こいつ、憶えてないのか。


「何で、じゃない。ここは俺の部屋だ」

もう一度ぽかんとゲットーを見上げ、その目で部屋全体を眺めまわし、再びゲットーへと視線を戻す。

「……えーっ?」



 恐らく、第7戦闘隊の仲間と酒を飲んできたのだろう、酔っ払ったバーガー少佐が自室と間違えて
ゲットー少佐の部屋に入ってきたのは昨晩遅くのことだった。
自室に連れ帰ってやるのも面倒で、「俺はもう寝る。お前はシャワーでもあびてそこで寝ろ」と、
長椅子に横たわったバーガーを放置して自分はベッドに入ったのだった。

シャワーを使う音を聞きながらゲットーはまどろみ、しばし眠っていた。

が、何やら背後からごそごそとベッドに入ってくる者がいる。
「誰だ」と振り返ると、素っ裸のバーガーがそこにいた。

『狭いんだから向こうで寝ろ。それか部屋に帰れ。邪魔だ』
『やだ』
『やだじゃ無い』
『だって、寒いよ』
『服を着ろ』
『いいじゃないか』

そうして擦り寄って来られ、ゲットーは妙な気分になってしまう。

『…なら、暖めてやろうか?』
『うん』

とろんとした目を向け、バーガーはゲットーの首に腕を巻き付けてくる。


『ライル、好きだよ』



アルコールの混じった甘い囁き。


『……フォムト』


据え膳は喰うのが礼儀だよな、とゲットーは自分に言いきかせながら緩く開いた唇に己を重ねて
いったのだった。




「だから、昨日はお前が誘ってきたんだ。俺は悪くない」
「……相手にしなけりゃいいのに」
記憶が甦ったのか、バーガーは真っ赤になっている。
「可愛かったからな」
「!」
何か文句を言いたいらしいが、いっぺんにせりあがってきた罵詈雑言を整然と吐き出すことができない
ようだ。しばらく赤面したまま口をぱくぱくさせていたバーガーだったが、耐えきれなくなったのか
ベッドにつっぷした。

「どうしてあんたは男に向かって平然と「カワイイ」なんて言えるんだよ……」
ゲットーは淡々と「俺は両刀だから仕方ない」と答え、「でも可愛くないものをカワイイなんて俺は
言わないがな」と、悪びれもせず続けた。
「さ、もう目が醒めたろ。昼飯の時間が終わってしまうぞ」


しかしバーガーは上掛けを頭からひっかぶったまま「…今日は、いい」と呟いた。
「どうした?腹具合でも悪いのか?」
「それは…ないけれど……恥ずかしいじゃないか」
半泣きの声に、ゲットーの頬が緩む。

だから、可愛いって言ってるんだ。


「本当に俺、昨日そんなこと言ったのか?あんたが好きだ、とか、あっためて、とか」
「言ったよ。残念ながらお前ははっきりと、『ライル』って俺の名を呼んだね。女の子の名前
じゃなかったなあ」
「……だって、……今、あんた以外に、いないから……他の名前が出るわけないじゃないか」
「それはお気の毒に」


お前は自分が素っ裸でベッドに入ってるところを見た誰かが欲情するなんて、思いもしないんだろうな。




「馬鹿だね、フォムトは」
「なん……」

ゲットーは上掛けを被ったままのバーガーに覆い被さり、その布ごとバーガーを抱きしめた。

「いいか、昼間素っ裸でベッドに入ってるってのは誘ってるのと同じだぞ。気をつけろ」
「誰に気をつけるって言うんだよ」
果物の皮を剥くように上掛けを剥ぎ、真っ赤になっているバーガーの顔を自分へと向ける。
「俺にだ」

答えを聞く前に口づけた。

身体が強張るのははじめの10秒ほど。以前に比べてだいぶその時間は狭まってきた。
「わかっているくせに無防備なのはどういうことだ?」
額に、頬に、顎に唇を落としながら、ゲットーはバーガーを詰る。詰りながら、亀のように引っ込めていた
バーガーの手足を開いてゆく。
「…多分、……いいんだよ」
愛撫に悶えながら自信無さそうに答えたが、肩にまわるバーガーの両腕が本心は何処にあるかを雄弁に語っている。

「次の出動は夕方からだ。お前は今日は非番だったな」
「そうだよ」
「時間があるな」
「……そうだね」


両手が軍服のあわせを開いてゆく。
「今度はお前が俺を暖めてくれるんだろう?」
先程まで眠っていた掌はほんわりと温かい。
「別に今は寒くないと思うけど」
「寒かったんだ」
「どこが」
「宇宙がだよ」

ベルトが外され床に落とされる。その手が、張り詰めた自分の欲望に優しく触れた。

「何だよ、宇宙空間で素っ裸になってたの?」
「いや」
「機内にいれば寒くないだろ。それとも、風邪引いたのか」
「いや。いたって健康だ」
「あんたの言ってることがわからないよ」

そう言ってバーガーはくすくすと笑う。
「わからなくていい」
ゲットーは唇を合わせながら衣服を脱ぎ捨て目の前の男と手足を絡める。

「ライル」
向き合う青く澄んだ瞳が柔らかな光を孕み、自分を映し出していた。

「もしかしてさ、それって機内の空調がうまくいってなかったんじゃない?」
「馬鹿。そんなわけあるか」


 母艦から射出され宇宙に飛び出した瞬間、上下左右に拡がる無限の闇に自分は未だ慣れない。
ひたすら孤独感が押し寄せてくるのだ。
孤独と暗闇から逃れるように、俺は敵を求め飛び続ける。敵機が被弾したときの閃光に俺は安堵する。


還れば、やはり俺は果ての無い、虚無の宇宙の記憶から逃れるように人の肌を求め彷徨う。

「俺を温めてくれ。………フォムト………」
「寒がりなんだな、ライルは。ほら、どう?あったかい?」



俺は暗闇が嫌いで、もしかしたら寂しいのかもしれない。

孤独が怖くて、本当はお前に傍にいて欲しいのかもしれない。



 そんなことを思いながら、ゲットーはバーガーの身体を抱きそのぬくもりに己の身を浸し目を閉じた。






────────終────────