ミーゼラ


2199もストーリーが佳境に入ってまいりました。2199オリジナルキャラのミーゼラ・セレステラさん、
彼女は異星人なのに何故アベルト閣下の一番の側近なのか、どんな過去を経て今があるのか、というのをちょっと妄想…
14話のラストで「これで私はひとりぼっち」とうなだれ、涙を一筋流すミーゼラさん、そして15話で「たとえ一人になっても
貴方に忠誠を尽くします」というミーゼラさん、このへんとても切ないですね。公式設定は後々明らかになるかどうかはわかりませんが、
わからないうちはこういう妄想アップしてもいいかな?と(^_^;。 書いたのは2013年1月です。ずっとアップするの迷いましたが
妄想屋さんの戯れ言と思っていただけると助かります。(2013.06.06)
              

 獰猛な猟犬が一人の男を追いたてる。
時折、地面の突起に足を取られるも男は必死に追手から逃げる。
逃げ場の無いことは判っていた。
だが、上手く逃げおおせることが出来れば解放し、奴隷の身分から市民へ格上げしてやると言われ、
足を止める者などいようか。


猟犬が集まってきた。

仲間は皆殺されたのか。

銃声が響く。

嘲笑と罵声。




心臓が破れんばかりに男は走り続ける。

が、巨躯の猟犬が一匹、男の前に躍り出て来、男の足を止め彼の希望をも打ち砕いた。





「ようし、良い子だ、ゴーゴム。最後の一匹を見事止めてくれたね」
猟銃が男に向いている。
「ははは、やはり最後は閣下の名犬が仕留められたか!」
「さすがで御座います。いくらすばしこい狐でも閣下には敵いませぬなあ」

しかし周囲を猟犬に囲まれ、猟銃を向けられて尚男は心を奮い立たせた。
己の身の為ではない。

愛しい娘の為だった。

最後の力を振り絞り、駆け出す。




 取り巻く貴族達のどよめき。

「ほほう、なかなか骨のある奴だ」

猟銃の主は少しも慌てる事無く銃身を優雅に振り向けた。

「君の生への執着心は見上げたものだよ」

小さく呟き、逃げる男の背に向け引き金を引く。

巨体の猟犬は男の右手に食らいついた。男には叫ぶだけの力も残っていない。

「ミーゼラ……!」

視界が赤く染まってゆく。

男はまだ駆けている、つもりだった。
しかし左手は空を掴み、足は痙攣しながらぐずぐずと大地に堕ちてゆく。

「ミーゼラ……」

男は走り続け、自由を手にし、娘と共に普通の人間として暮らすところまでを想像しながら息絶えていった。

「お見事です、デスラー大公!」
「さすがは大公!」


 最後の一匹が見事にデスラー大公の手により仕留められ、この日開かれた宴の余興である「狐狩り」は盛会のうちに
幕を下ろしたのだった。


 大マゼラン銀河のサンザー星系、第8番惑星はその地の人間により「ガミラス大公国」と命名され、900年の後、
現大公であるエーリク・ヴァム・デスラー大公がガミラス全土の統一を成し遂げた。更に武力に長けたガミラス人は
自国の発展の為、近隣の惑星にまで侵略の手を延ばし、次々と多様な民族を己の傘下としていた。

 ある者はガミラス本星まで連行され、見世物や奴隷として惨い扱いを受けていた。
先に行われたガミラス帝星支配者であるデスラー大公主催の「狐狩り」では、300余名の奴隷が集められ、
大公の庭園に放たれ、そして客人たちに狩られた。
悪趣味な遊興に意見する者はいなかった。ガミラスの統治者である大公を諫める者など、この地には存在しなかった。


「終わったようだね。エルク」
「はっ」


 子どもだからという理由で庭園の離れに席を設け、優雅に茶を嗜んでいた金髪の少年は遠くにきこえるざわめきへと
顔を向けた。紫色の瞳の美しい少年だ。
「アベルトさま、狩りの成果発表にはお出ましにならねば」
「そうだね。煩わしいが仕方が無い」




 それから数日の後────



 粗末な身なりをした、あきらかにガミラス人ではない少女が小さな、穴倉のような部屋から空を見上げている。
一緒に暮らしている父が何日も戻って来ない。

 もしかしたら、と不吉な予感が時が経つのと同時に彼女の小さな胸一杯に拡がっていく。
数日前、出かけて行く父親は「もしかしたら、この生活から解放されるかもしれないよ」と言っていたが、その顔は暗く
沈んで、彼女はとてもその表情に希望など見いだせなかった。

 貴族が「狐狩り」と称して奴隷狩りを愉しんでいる事など、市井の人間が知る由もない。
それでも、民族性故か彼女個人の勘の良さ故か、非常に物事に聡いその娘は、貴族の遊興に奴隷がどのように扱われて
いるかを察していたし、恐らくは父親はその犠牲になったのだと暗澹たる思いに囚われていた。

 娘は空を見上げて思う。
異形の者としてこのガミラスに生を受けた自分の人生に、あの宇宙に燦めく星のような輝きに満ちた希望はあるのだろうかと。
それでも彼女は泣かなかった。
絶望の中に生まれ出でてきた、それ以上に不幸で悲しいことなどなかったから。









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