碧の風景/Homme fetale


第20話の痛手から全然立ち直れないまま第7章上映開始が辛すぎて。自分の真心を利用されたとしても
他に愛おしい者の存在があるのに惹かれてしまう己の弱さに深く傷つくのも、不器用なほど実直なドメル司令に
合っているなあ、と思いました。そして、それほど彼を狂わせるのはやはり、デスラー総統であってほしいな、と。
七色星団前の夜のお話です。(2013.08.24)
 

 主力艦隊の不在と迫り来る脅威に、総統府は終始落ち着きを欠き騒々しく、日頃の秩序を欠いていた。
が、今、このデスラー総統の私室にはただ、イスカンダルの青い光と静寂だけが室内を満たしている。
時折、微かな衣擦れと静かな吐息が豪奢な寝台から聞こえていた。
寝台の上には二つの影。

「エルク」
デスラーの甘い声がドメルの耳を優しく撫でた。

 

 長時間の閣議を終え、私室に戻りいつものようにソファに腰掛け目を閉じていると、外で衛兵が
「お待ちください!」と悲鳴を上げた。足音が響き、デスラーが目を開くとそこにはエルク・ドメル将軍が立っている。
「総統閣下、申し訳ございません!ドメル閣下が突然…」慌てる衛兵に対し、デスラーは「よい、下がれ」
とだけ答え、下がらせると目の前のドメルに向き合った。彼は先刻、総統暗殺という不名誉な濡れ衣からようやく
解放され、そして再びヤマトとの決戦を自ら願い出たところだった。
「どうしたのだね?」
ドメルは黙ったまま、その場に跪く。
「……貴方に逢いに参りました」
「用は無い」
「私は、有ります」
「何のことだね。ヤマト征伐の艦隊編成に関しては全てヒスとタランに任せているはずだ」
「……アベルト様」

 デスラーは不機嫌なまなざしを向けたまま、それでも一瞬息を呑んだ。
ドメルは結婚して以来、何があってもデスラーの名を呼ぼうとしなかった。どんな時でも、かたくなに「総統」と
呼び続けていたのだ。

「……」
「貴方が欲しくて、参りました」

見据えてくる深い緑色の瞳は忠実な臣下のものでは無く、獲物を前にぎらつく狼の双眸。

「一夜の慈悲を」
「……ふん、これは珍しい。君ともあろう男が」
膝を床につき、こちらに熱い視線を向けるドメルを悠然と見下ろし、デスラーは薄い唇をゆがめた。
「慈悲、とはね」
逞しいドメルの太腿を踏みにじる。
「今更どういう了見だ」

「貴方が欲しいのです」デスラーの足を太腿に乗せたまま、手をそっとあてがう。
デスラーは微かに甘い吐息を漏らし、その動きを凝視する。ドメルの手はブーツを優しく脱がしてゆく。
浅く、早い呼吸が部屋に響き始めると、来訪の真意などどうでもよくなってきた。
愛おしげにふくらはぎを撫でる手は次第に腿へとのびてゆく。衣服の上から触れられるのがもどかしい。
もどかしいのはドメルも同様のようで、彼はたまらずデスラーの膝に口づけてきた。

「エルク。…先ほど、私の名を呼んだね、……」
「呼びました。……昔のように。アベルト様」

デスラーは、まるで神が慈悲を与えるかのようにドメルの眼前に屈み、柔和な笑みを端正な顔に浮かべると
己の忠実な狼を見下ろした。
「アベルト様……」
眩しそうに目を細めるドメルの、いささか物欲しそうに小さく開いた唇を指でなぞる。その指を手で掴むような
不躾なことはせず、ドメルは唇でそっとデスラーの指を追い、柔く噛む。しかしそんな動作に、数秒と
耐えられず彼はやおら立ち上がるとデスラーを思い切り抱きしめた。

 引きちぎるように上着を剥がれ、食い破るように口づけられた。
「ふ、ふふ、エリーサが不在で火照りを解消できないようだな」と、憎まれ口を叩いたものの、ドメルはそれに
反応することはなく、さほど筋肉の付いていない腕を掴み寝室へと向かった。彼はデスラーを大きな寝台に
押し倒し狼の所行よろしくその腹に跨がる。しかしデスラーは寸分も怯えることなくドメルの胸ぐらを掴み引き寄せ、
自ら唇を重ねた。
わざとらしくぴちゃぴちゃと音を立てながら舌を絡ませ、手は喉元のファスナーを引き下げてゆく。欲望に飢え
獣と化したドメルの肌の匂いがデスラーの鼻腔を満たす。
「アベルト様」
「エルク……」
逞しい肉体に圧迫され、デスラーはうっとりと瞼をおろし、熱情の奔流に身を委ね溺れてゆく。

 この狼が自分を激しく抱くのは何時以来だろう。
結婚という形で自分との間に距離を置き、離れてゆくお前を繋ぎ止めようとあがいたが、何をしても無駄だった。
お前はひたすら私に背を向けた。
命じなければ、お前は私に触れようともしなかった。
愛撫する手が熱い。求めずとも、唇が私の肌に種火を置き、舌が私を焦がす。
今や私とエルクを隔てるものは何一つ無く、無防備な裸の肉体を存分に絡ませあう。

「熱い、……アベルト様……」
私の中心で硬く腫れたものをエルクは乱暴に掴み、その手に力を加えた。
「う…っ」
「こんなに硬くなさって……火照りを納められぬのは一体何処のどなたか」
私を言葉で嬲りながらエルクは眼前に己の猛った肉棒を突き出してきた。横柄な要求に私は嬉々として口づける。
太く逞しい幹に尖らせた舌先を這わせ、不意に先端を唾液を溜めた口に含んだ。
押し殺したエルクの吐息は私を煽る。私はエルクに愛撫されながら、夢中で口淫に没頭し、エルクに尽くした。
私の自身を握り、扱くエルクの手は熱かった。寝台に横たわり、男の性器を咥え、乳首を弄られ、勃起したものを
男の手に弄ばれる様を見下ろされているだけで、私もまた余計に肉体の芯を熱くするのだった。

しかし、達するのに時間はかからなかった。「だめだ、……止…め…エルク、あ、あ」と私がエルクの手を払おうと
するも、間に合わず迸った精液が彼の手を濡らす。
「アベルト様、……私も」
ほどなく、エルクも私の口からずるりと性器を引き出すと、了解も得ず私の顔に放った。生臭い匂いが鼻を突く。
「なんと情けないお顔なのです、アベルト様」
さすがに二の句も告げず呆然とエルクを見やる私に、彼は微笑むと顔に散った精液を指にとり、私の唇に
塗りつけた。
「……最低だな、エルク」
舌を突き出しその指を咥え、ねっとりと舐める。懐かしい、エルクの味。
「今だけは、……私だけのものに」




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