我等凱歌と共に還らん


2013年の年始早々から2199にどっぷり浸かっております。全てはバーガー少佐がいけない。
可愛すぎるんですよね彼。元気な柴わんこみたいです。勝手にフォムたんフォムたん呼ばわりしてもう、自分の萌えっぷりが
痛々しい限りなんですが萌えの発露がついにSS化しましたよ。2199はまだ先が見えないので、彼が生き延びるのか
旧作通りにお亡くなりになるのかわかりませんが、まあ第4章公開時点での萌え作品ということで。
また、クールに爪を磨くゲットーさんもまたツボにヒットしました。2199ガミラスは萌えの宝庫ですねえ。(2013.01.30)
              
このSSはヤマト2199第4章公開時点に作成したものであり、
まだ本編の全容はわからないままに想像のみで書いておりますこと、ご了承ください。
また、私の脳内ではゲットーさんはクールビューティーな撃墜王です。腐ィルター強めですすみません(笑)
なんとなく、ゲットー×バーガーでよろしくおねがいします。











 ツヴァルケが軽やかに宙を舞う。

 テロンの戦艦、ヤマトからも戦闘機が迎撃して来、激しい戦闘を繰り広げていた。
中でも第4航空戦隊長ライル・ゲットー少佐の機体は中でも目覚ましく俊敏な動きを見せ、敵機を次々に撃墜してゆく。
空を舞う大鷲のように、また、大海を自在に泳ぎ回る魚のようにゲットーの機体は何ひとつ無駄の無い軌跡を描いてみせた。

「ふふ、この戦いも俺たちがいただきだな!」

 誰に向かうでもなく呟き、第7駆逐戦隊長、フォムト・バーガー少佐は安心して戦闘機同士の戦いに見入っていた。
数機やられはしているが、主力となるゲットーの直属部隊は健在だ。
しかし、ガミラスのトップパイロットであるゲットーの後背を取った敵機が現れる。

「馬鹿な!ライル、振り切れ!」

 食い入るようにパネルに映る二機を目で追う。気付いた友軍が援護射撃をするものの、敵機は巧みにそれをかわし、
ゲットーの機に照準を定めた。

「ライル!」

目の前でゲットー少佐のツヴァルケが爆破し、機体は四散した。

「ライルっ!」





 バーガー少佐は己の悲鳴で目を覚ました。
「あ、…あ、夢だったのか……」
珍しくうたた寝をしていたらしい。安堵のため息をひとつ吐き、バーガーは保冷庫から水を取り出すと一気に飲み干した。
恐怖で汗まみれになったシャツを脱ぎ捨て、新しいものを取り出し身につける。

 明日はいよいよヤマト討伐に向けて出陣だ。
ガミラスの智将ドメル将軍の元、完璧な戦術を練り上げた。
相手は一隻の戦艦だが容赦はしない。手加減も無用。いつもと同様、敵は完膚無きまでに叩きのめす。
宇宙に敵無しと謳われたドメル軍団に万が一にも負ける要素など無い。

 なのに何故あんな夢を。

 それだけ俺はあの地球の戦艦に脅威を感じているというのか。



 まんじりと数十分を過ごしたが寝付けず、バーガーは悪夢の張本人である数部屋となりのゲットーを訪ねることにした。



「なんだ、こんな夜更けに」
「……すまない」
「まあ、入れよ。俺はまだ眠る時間じゃないから構わん」
「ああ、知っている」
「出撃前にしてはしょぼくれた顔をしているな、お前らしくない。どうした」
普段なら出撃前には気分が高揚するのかいつもより余計にうるさくなるバーガーに敢えて冷淡に振る舞う事の多い
ゲットーだが、何か気落ちした様子のバーガーを怪訝に思い、気遣ってやる。
「……ライル」
戦略会議の時ですらふざけた言動をしてハイデルンの親父をやきもきさせるバーガーの神妙な表情に、由々しき
事態でも発生したのかと、ゲットーは気を引き締めた。
「一体どうしたというんだ」
バーガーは真顔のまま、唇を噛んでいる。
「フォムト?」
「……明日、あんたは残れ」
「何だと?」

 冗談にしては最低の出来だ。一体何の思惑があるというのだ、と酷い悪ふざけにゲットーはバーガーに対し
気遣いを見せたのを一瞬にして後悔し、険しい目を向け舌打ちした。

 またこいつの悪い癖が出たのか。
不意を突いて変な冗談を言う癖がバーガーには有り、仲間は何度か騙されている。
ゲットーだけはそんな悪ふざけに乗ったことが無い。

「よりによって何で出撃前夜にそんな冗談を言うんだ。いい加減にしろ」
へらへらと笑い出すかとゲットーは思ったが、バーガーは「違うよ」と真顔のまま言う。
「死にたくないだろう。残れよ」
「おい、お前、自分が何を言っているのかわかってるか?それとも寝ぼけてるのか?」
「寝ぼけてるもんか!」
バーガーの表情は強張ったままだ。
それでもゲットーは、自分を騙したいが為に迫真の演技をしているのかと疑いの目を向け続ける。

「……夢を、見たんだ。…ヤマトの戦闘機に後ろを取られて……あんたが…あんたが……」
ゲットーは呆気にとられ、後輩であり親友である目の前の男をまじまじと見つめた。
「何だ、夢の中で俺がやられたから明日行くなって言ってるのか?」
馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てるように言われ、バーガーの頬が上気し眉間に皺が寄る。
「やっぱり寝ぼけていたんじゃないか。もういいからさっさと寝床に帰れ。つきあいきれん」
「俺の勘はよく当たるんだよ!」
うんざりだ、とゲットーは右手を邪険に振る。
「夢の話はママにでも聞いてもらえ」
「ライル!ひとが心配してやってるのに何だよ!」

 当人も変な言動だとわかっているらしいな、とゲットーは彼の冷静沈着な性格をもってしてバーガーの行動を
分析した。
才気に溢れ、その若さと行動力で大胆に小隊を操るバーガー少佐の直情さを時に煩わしく感じることもあれど
自分には無いその性質をゲットーは好いている。

「俺が負ける夢を真に受けるなんて無礼も甚だしい」
そう言うとゲットーはつい、とバーガーから離れ奥へと行った。
「わかってるさ、あんたはガミラス一のエースパイロットだって!だけど……」
「わかっているなら余計な心配をするな」
戻ってきたゲットーの両手には湯気の出ているグラスが二つ。
「……あんたが後ろを取られるなんて、思ったことも無かったから……」
ゲットーは無言のままバーガーにグラスを押しつけ、「座れよ」と促した。
「…すまない」と、さすがにバツが悪いらしく先程とはうってかわってバーガーは大人しく椅子に腰掛ける。
「飲みな。落ち着く。ホットワインだ」
そう言うとゲットーは微笑み、自分のグラスはテーブルに置いてバーガーの向かいに腰掛け、脚を組んだ。

「ヤマトの艦載機はほんの数機だけで冥王星基地を壊滅させたそうだ」
「……」
「二等装甲艦もやられているらしいぜ。フォムト、他人の心配より自分の心配をしろ。お前のことだ、
調子に乗って飛び出していって敵機にあっさり包囲されかねないじゃないか」
そう言うと憮然と構えるバーガーに向かってゲットーは笑った。

「俺は負けないよ、フォムト。向こうのエースと張り合ってやる。お前は俺を心配してくれているようだが
俺は実のところ奴等と対戦するのが楽しみでたまらないんだ」
「ふざけてるのはあんたの方じゃないか」
「まあそう言うなよ、戦闘機乗りの性だ。お前たち艦船乗りとは違って落命率は高いのは解りきっている。
もし万が一俺に何かあったとしても、気にするな。ツヴァルケと死ぬなら本望だ」
バーガーは両手にグラスを持ち、唇を尖らせる。
「わかってる、わかってるさ。……」

 自分だって自艦と共に撃沈されるならば本望だ。
死の際を綱渡りしながら戦ってきた。それでもなお前線に出ることと誇りとし、ガミラスの為先陣の一投たらんと
奮戦してきたのだ。
自分の生き方に悔いは無い。
引き留める者が無いではなかった。

目を閉じれば懐かしい眼差しが優しく自分を見つめている。
いつも自分を温かく迎えてくれる人のことを、忘れた事はない。

 彼等もきっと、今の俺のように「行くな」と言いたかったのだろうか?



 ふと、初陣の時に見た母親の涙を思い出した。

 宇宙での実戦に心躍らせていた俺は母親の涙を疎ましく感じた。子ども扱いをするなと言いたかった。
だがあの涙があるから俺はここまで生きてこられたのだと、今ならわかる。
生命の危機を感じたとき、ふと脳裏に甦るのはあのときの母の涙だ。あの姿を思い出すと、不思議と折れかけた心に
闘争心が甦る。
そうして俺は今まで生き延びてきた。


「ライル」
「何だ」
「……俺があんたを守ってやる。援護する。だから、絶対に後ろを取られるな。いいな」
「フォムト」
「いいだろう、それくらい言ったって」
ゲットーは眩しそうにバーガーを見、そして穏やかな笑みを浮かべた。
「……そこまで言うなら勝手に俺を守れ。…約束だぞ」
「ああ。任せろ」
グラスをかちり、と合わせた。グラス越しの相手の顔を凝視し、そして二人は笑う。

「しかしそんなに不安になるほど俺に惚れていたのか?もっと早く告白してくれたら付き合ってやったのに」
「じょ、冗談は止せよ」
「なら、お互い無事に生還し凱旋したら何をしてくれる?」
「何でだよ、どうして俺が!」
バーガーの頬が赤くなったのはホットワインのせいではあるまい、とゲットーはほくそ笑む。
こうして有能ながら意外に単純な後輩をからかうのは我ながら悪趣味だと呆れつつ、腰を上げるとむくれ顔の
バーガーの頬に手を当てた。
「ライル、」
バーガーの言葉が途切れる。



 すう、とゲットーの顔が近づいたと思った瞬間、唇を塞がれた。

 ほんの数秒間の唐突な口づけから解放されても、バーガーは言葉を忘れたかのように押し黙り、ゲットーを見つめる。
「キスくらいしたって罰は当たるまい?」

 男同士だ、とか、恋愛感情なんて無いのに、という疑問が湧かないではなかった。
だが、バーガーはただ黙ってゲットーの言葉に頷いた。
不思議な感情がそこにあり、それは確実に今、二人の心を繋いでいた。

「……もう一度」

 再びゲットーの手が今度はバーガーの頭を引き寄せ、先程よりは大胆に唇を求めてきた。
バーガーもまた、ゲットーの肩を引き寄せ唇を深く重ねる。
「…ん……」


 幾度も唇をあわせ、離し、やがて二人とも照れくさそうに互いの身体を押しやり、離れた。
ちら、と相手を見ながら笑いを噛み殺す。
「何やってるんだろうな、俺たち」
先程の行為を冗談で済ませよう、とバーガーの目は語っている。
「なかなか良かった」
ゲットーはやはり、普段のように静かに微笑んだ。


「じゃあ、突然すまなかった。邪魔したな」
「ああ。あ、ちょっと待て」
「何だ?」
ゲットーは脇の机の引き出しから小さなヤスリを取り出し、「その手を寄越せ」と言う。
「どうして?」
と、怪訝そうなバーガーに、ゲットーは答える。
「さっきお前の爪が顔に当たって痛かった。どうせ爪の手入れなんかしないんだろう」
「別に…伸びてなんかないし…」
「切ればいいってもんじゃない。手を寄越せって」
渋々ゲットーに右手を差し出すと、ゲットーはその手を掴み、慣れた手つきで爪のひとつひとつを丁寧に磨いていった。
「そら、左手も出せ」
「も、もういいよ。そんなに……」
「中途半端は嫌いなんだ。さあ」
「あ……あ、」
空のグラスを置き、バーガーはゲットーの隣に腰掛け、飛行機乗りの癖にすらりとしたゲットーの指が自分の手をとり、
爪を整えてゆく様を見た。
それは日常の行為ながらも、非常に非現実的な光景だった。
目の前でゲットーが真剣な顔で爪ヤスリを扱っている。彼の亜麻色の細い髪の毛がさらさらと揺れる様まで
夢の光景のようだった。

 これが夢なら、戦場で撃ち落とされてゆくゲットーが現実か。

 為す術も無く、四散してゆくツヴァルケをただ呆然と見つめる自分はあまりに非力だった。



「フォムト」
ゲットーは視線を爪から外さぬまま話し始める。
「戦線から帰還したら、また綺麗にしてやるよ」
「……」
「女性とデートする前は特に綺麗にしてやる。ちゃんと言え」
「ああ」
「何だ、また変な顔をして。爪なら綺麗に出来るがその顔はどうにもしてやれない」
「……あんたとデートする前も、してくれよな」

真顔で呟くバーガーに、ゲットーは一瞬、ぽかんとしたが「ああ。してやるよ」と微笑んだ。
「大丈夫だ、俺は帰る。必ず帰る」
「うん」
「だからお前も無茶をするなよ、第7戦闘隊の切り込み隊長どの。頼りにしている」
「わかった」


「さあ、済んだ」
ゲットーはそう言い、己の仕事に満足し顔を上げた。
「丁寧に爪を手入れしたところでしばらくは女の肌もお預けだろうがね」
バーガーは両手を拡げ、見違えるように綺麗になった己の爪を照明に照らし見た。
「……生きて帰ってきたら」


 そう、いつものように圧倒的勝利をおさめてガミラスへ帰還するのだ。
 誰一人欠くことなく、国歌を誇らしく歌いながらガミラスへ帰るのだ。

 家族の元へ、友人の元へ、愛する人の元へ。  

 

「…帰ってきたら、一緒に祝杯を上げよう。俺がおごる」
「ああ。そして皆の前で土下座してもらう。俺が死ぬなんて言った罰だ」
「何だってしてやるよ、ライル」




 ガミラスは永遠だ。


 そうだ、俺たちは決して敗北しない。神は常に俺たちと共にある。







────────終────────