幸せであるために


pixivやツイッターで格好良くて可愛いゲトバガと第7駆逐戦隊を描いてくださっている猫背三次さんから
バーガーちゃんの部下、フィッケルさんとメルヒさんをお借りして書いたSSです。フィッケルさんはスヌーカ隊長機の
後部座席に機銃手として搭乗しています。声は南部君。"FICKEL" の名は隊長機に名前がガミラス語で記されており、
おそらくバーガーちゃんのモデルとなったのであろう、ドイツ空軍の魔王、ルーデルの副官フィッケルが由来なのではと
推察されています。ちなみにゲットー少佐のモデルはドイツ空軍の撃墜王、ハルトマンのようです^^



              

このSS創作のモデルは、猫背三次さまの、 やんちゃなバーガー少佐を
陰に日向に、支え続ける割烹着の似合う軍人・フィッケルさん(既婚(死別)・娘あり)です。
いろんなゲトバガ・フィッケルさんにメルヒさんと可愛いガミラス軍人の作品が沢山ありますので
ぜひご覧ください!お名前がpixiv作品ページへのリンクになっていますv
三次先生、フィッケル&メルヒちゃんお貸しくださってありがとうございました(*´∀`*)
尚、本作はゲトバガ前提のフィケバガです。
 



 私はごく普通に育ってきた、平凡な男だ。多くの男と同じように私は育ち、兵士となり、愛した女性と
結ばれ何にも替えがたい娘を授かった。私は幸せだった。
平凡で、ごく普通の幸せな生活がこのまま一生続いてゆくのだと思っていた。

そんな私の人生が変わってしまったのは、妻が亡くなってからのことだ。
妻の面差しに似た娘を見るのが辛くて、母親を亡くしたことを理解出来ぬ幼い彼女を持て余し、私は
逃げるように任務に没頭した。すると何時の間にか気がつけば国軍のなかでも随一の戦闘力を
誇る第6空間機甲師団へと編入され、中でもこちらから仕掛ける際に先陣を切る第7駆逐戦隊へと
配属されてしまった。

軍の任務など、そこそこつとめ、極力命を落とさぬように生きて還るのが私の主義だったのに、
周りは命を落とすことなど屁とも思わぬ荒くれどもばかりだ。
私はさして能力が優れている軍人では無い。じゃあなぜお前は隊長の機銃手として傍にいる
のだと聞かれれば、私はこう答えることにしている。

「私は悪運がずば抜けて強いのさ」と。

 しかし実のところ、はじめはこう考えていた。「隊で一番の実力者の傍にいれば、死なずに済む」と。
自分には何が何でも死ねない理由があったから。
愛する人から託された命があったから。

 普段は家庭があったことなど忘れてしまったかのような私だが、今でも亡き妻と、離れて暮らす娘に
対する愛情はほんの僅かも変わってはいない。妻が死ぬ間際に何よりも子どもの行く末を案じていた
ことも忘れてはいない。

 だがいつしか、いつも前を行く年若い隊長に、私は心を奪われてしまった。
恋心はいつも、どこからともなくひとの心に忍び込む。浮ついた色恋など、もう私には縁の無いものだと
思っていたのに、と私は己に呆れ、そして途方に暮れた。
彼には既に恋人がいる。彼と同じく若く優秀なその恋人と睦まじく過ごしているところを何度となく
目撃した。そのたびに私の心はちくちくと痛み、言いようのない嫉妬と羨望を芽生えさせてしまう。
後に残るのは虚しさと情けなさだけなのに。

 たとえ彼が私へと心を寄せてくれたとしても、私に彼を受け入れる勇気は無い。
私は普通の人間なのだ。娘をもつ父親なのだ。
この想いはずっと胸に秘めていればいい。部下として彼の傍にいることができればいい。
それだけで十分幸せなのだから。



それなのに。





 酒の力は恐ろしい。絶対に口にはしないと心に決めていたはずの言葉を易々と紡ぎ出してしまう。
「私はね、隊長を愛しているんですよ」
私は酔っていた。酒に、そして「愛している」という言葉に、隊長に。
そんな私に、愛しい隊長は優しかった。「そりゃあ、ありがとよ」傷跡のある左側の唇の端をつり上げて
彼はニッと笑う。
「部下から慕われるってのは上官冥利に尽きるよな」
「いや、そうじゃありません」
「はぁ?」
「ひとりの人間として、いや、男として男のあなたが好きなのです」
隊長の顔から笑みが消える。
「フィッケル」
どこか責めるような調子の隊長の声に、私はようやく己の失態に気がついた。だがもう、撤退する余地も
無い。
「いけませんか」
徹底抗戦を私は選んだ。もう、後先のことなど捨て、私は隊長に向き合った。
「……」
ほう、とどこか感心したような隊長の顔。
「お前、知ってるだろ」
「ゲットー少佐との事ですか。知っています。だからどうだって言うんです」
此所が外部の酒場なら良かった。外聞を気にして私は自分の意思をこれ以上あからさまにはしなかった
はずだ。だが残念なことに此所は私の部屋、完全に私のテリトリー。
私が図に乗っても阻むものは何も無い。


「ンなこと言うとはな、驚いた。ふん、見直したぜ」
一旦は真顔になっていた隊長の顔に再び不敵な笑みが浮かんだ。
格好の獲物を見つけたときの猛獣のような顔をテーブルに肘を突いたその手に乗せ、こちらを見上げてくる。
「で、どうしたいんだ?ゲットーと別れてくれ、とでも言うつもりかよ」
「……」



 軍人のはしくれとして、私は戦闘機乗りのトップエースであり優れた指揮官であるゲットー少佐を尊敬
している。彼を侮辱するような真似は私には出来ない。
それを目の前の隊長は知っていて、わざと言っているのだ。
「私が別れてくれ、とお願いしたら別れてくれるのですか」
だが挑発に乗ってみる。売られた喧嘩は高く買い取るのが我が第七駆逐戦隊のモットーだ。
答えは分かっている。


分かっている。

「いくらお前の頼みでもそれは無理だ」

分かっている。

そんな事くらい。


「俺はゲットーが好きだ」



分かっている。




「……困りますよ、もっと気の利いた答えを期待していたのに。そんなストレートに言われたら……」
笑うしか無い。私は笑った。でも、私の目からは何故か涙が溢れ出ていた。

「だが、お前も好きだぜ。フィッケル」
「同情なんか、」
「尖るなって、」
「隊長が馬鹿正直に言うからです」
「おい、…なぁ」

厄介だ。酔っているせいで、感情のコントロールが効かない。
さぞ今の私は醜い顔をしているのだろう。構うものか。

「フィッケル」

すっかり感情の昂ぶってしまった私とは違い、隊長は非常に落ち着き払った声で名を呼ぶと、私の肩を
掴み引き寄せ、何の前触れも無く唇を重ねてきた。それは想像していたものよりもずっと簡単で、
拍子抜けするほどあっけない。

すごく淡泊で、まるで少年のような清潔なキスだと思った。肉欲など微塵も感じさせぬ、親愛の情の上に
成り立つ、そんな口づけ。

「俺が欲しいのか」
はい、と私は頷いた。罵られたっていい、このときくらい、自分の欲望に忠実になってみたい。
「くれてやるのは簡単だ。抱きたいなら抱けよ」
私の困惑を確かめるかのように大きな目でこちらを射貫くように見つめながら、にこりともせず続ける。
「だが、俺はモノじゃ無い。ゲットーのものでも無いし、お前の物でも無い」
「それは……そうです」
「それでもいいんなら抱けよ。俺の尻を掘ってお前が満足するならいいさ」
そう言うと立ち上がり、次の瞬間には愛しい隊長は椅子に腰掛けたままの私の膝にするりと跨がってきた。

「そーら。獲物はお前の目の前だぜ?」

ああ、と私は息を吐いた。
隊長の戦闘のくせだ。必ず相手を挑発する。相手の頭に血を上らせておいて、叩きのめす。
見下ろす青い瞳も得意げに結んだ唇も自信に満ちている。私はこの表情が大好きだ。そしてこの顔をしたときの
隊長は絶対に負けない。あるのは勝利だけ。

彼のペースに乗せられて、そして、叩きのめされたい。
直ぐにそう思った。奇妙な情欲だった。

「どうするよ、フィッケル?」
ごくり、と自分の喉が鳴る。背中に汗を感じた。
事態は私の想像よりも遙かに簡単に進めることが出来そうな気がする。



 挑むような眼差しに引き寄せられるかのように、私はあなたを力一杯抱きしめ、そして口づける。
 私はもう、気が触れてしまったのだ。酒のせいで。そしてあなたのせいで。
 そう叫びながら私はあなたの服を引き千切るように剥いでゆく。
 ああ、とのけぞる柔い喉に牙を立て、あなたの肌を溢れる血ごと舐め取ろう。
 私があなたの肌に歯を立てるごとに、あなたの肉体は汗を流し、その中心に熱を漲らせる。
 私はそれを導こう、あなたの欲望を解放しよう、私のこの手で、この舌で。
 そして私は己の醜い欲望を、あなたの身体の中に放とう。
 この時を浅ましき夢にまで見、待ちわびてきた私の欲望を全てあなたにぶつけよう。
 
 そして私の持つ全てを投げ打ってでさえも、価値のあるあなたをこの私の手に、私だけのものに。


 フォムト……!




 そんなよこしまな想像を巡らせたのは一瞬だったのか、それとも長い時間を要したのかは定かではない。
隊長は青い瞳を一瞬も曇らせたり、逸らしたりすることなく私を見据え続けていた。
私もずっと彼の瞳を見つめ続けていた。身体は素肌を晒し、絡み合うことはしなかったがこの見つめ合う
視線のうちで、私たちは静かに融け合い、そして一体となった。そんな気がした。

「隊長。大人をからかうもんじゃありませんよ」
私の声は、私が思うよりもずっと冷静だった。もう酔いも醒めたらしい。
「からかってなんか無いぜ。しかも何だ、俺を子ども扱いか?」

 わかっていた。
私を挑発し、自らも欲情していたかのようにみえた隊長の瞳の青は、どこまでも静かだったのだ。
ドメル軍団きってのお調子者と揶揄されようが、浅慮な奴だと評されようが、私は知っている。
獲物を見定めたときの彼の瞳がどれほどに冷徹であるかを。図に乗っているだけのように見えて
その実、彼の頭脳は目まぐるしく演算を繰り返し勝利の方程式を導き出しているのだ。

今も同じ。
私を相手に、隊長は極めて冷静に、優秀な指揮官として作戦行動を執っただけのこと。

「完敗です。バーガー隊長」

そう。それでこそ我が隊長。

 私の膝に跨がったまま、隊長は静かに微笑んだ。
「まあ、な。こんな局面で無理はするもんじゃ無い。らしくないぜ、フィッケル」
「そうですね。懲りましたよ、恥ずかしい」
「別に恥ずかしがらなくったっていいだろ」
そう言いながら隊長は、いよっ、と軽いかけ声と共に私の膝から下りた。
「お前はほんと良い奴なんだ。ま、だから俺は助かってるってもんだがな」
「隊長の助けになっているなら本望ですよ」
「へへ、ありがとよ。あー、俺も今日は飲み過ぎたぜ。明日は起こしてくれよな」
「ザー・ベルク、バーガー隊長」

 私の想いなど実るはずもなかったけれども、心はどこか軽い。
脚に残る隊長の体重を、間近で見つめ合ったあの距離を、そしてほんの一瞬触れあった唇の感触を、
忘れることはない。私の愛おしい記憶となり、私と共に生き続けてゆくことだろう。
決して悔し紛れでも、負け惜しみでもない。
隊長を愛するのと同時に、私はやはり亡き妻と、かけがえのない娘を堂々と愛し続けていたいのだから。




 そうして今までと同じ明日がやってくることに安堵したフィッケルはベッドに入ると間も無く穏やかな
寝息を立て、眠りに就いたのだった。







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フィッケルさんの産みの親・猫背三次さまよりワンシーンいただきました♪ ありがとうございます!