嫉妬の向こう側


「幸せであるために」のフィッケル君とバーガー少佐は清い関係で……と思っていましたが
どこからか「過ちがあってもいいじゃない」というお告げが聞こえたような気がしまして、その場の勢いに任せた
二人を書いてみた次第です。 (2014.06.10)


              

このSS創作のモデルは、猫背三次さまの、 やんちゃなバーガー少佐を
陰に日向に、支え続ける割烹着の似合う軍人・フィッケルさん(既婚(死別)・娘あり)です。
いろんなゲトバガ・フィッケルさんにメルヒさんと可愛いガミラス軍人の作品が沢山ありますので
ぜひご覧ください!お名前がpixiv作品ページへのリンクになっていますv
三次先生、フィッケル&メルヒちゃんお貸しくださってありがとうございました(*´∀`*)
尚、本作はゲトバガ前提のフィケバガです。
 



 たまにはゲットー少佐の話も聞かせてくださいよ、と私は言った。

「べ、別にお前等の知ってるゲットーと何も変わらねぇよ。ある意味裏表の無い奴だよなぁ」

ゲットー少佐のことを知りたいわけじゃない。
恋人と過ごす貴方が、恋人の話をする貴方がどんな顔をするのか見たかっただけ。

「馴れ初めって何だったんです?告白なんてイベントがあったようには見えませんけど」
「…ん、ん-。ま、まあさ、そんなのどうだっていいだろ。いい歳した男同士の恋の馴れ初めなんかよ、
別に可愛くも何とも無いし」

 私は目を細め隊長を見つめた。私の質問に動揺し、きっと二人だけの秘密を思い出し、そして
頬を染める隊長。二人だけの、誰も知らない二人だけの秘密。

 私も立ち入ることを許されない。

「私なんかから見たら、あまり相性が良さそうには見えないんですけどね。ほら、ゲットー少佐は
いつだって冷静で、私たちもよく煩いって注意されるじゃないですか」
「まあな。ほんっとよくもあんなにいつもシレッとした顔してられるよな。きっとコックピットでだって
奴の顔は何も変わらないだろうぜ。あ、だがな、ああいう男だけど」
隊長はそこで言葉を止め、私をじっと見つめた。何だろう?何か、私にとって朗報なのだろうか?
私を見つめる青い瞳に吸い込まれそうになる。

「意外なとこで、デレてきやがるんだよ。へへっ、その後『しまった』って顔してさ、赤くなって可愛いんだぜ?
な?想像できるか?奴が照れた顔なんてよ」

 誰が。
 誰がそんな話をしろと言った。

「でさ、『ライル、どうしたんだよ?赤くなってるぞ?』って業とまとわりついてやったら『黙れ』ってますます
茹で蛸みたいになるんだよ。ほんとああいうときのライルってさ」

 さっきまで「ゲットー」と呼んでいたのに。
知っている、二人きりのときは「ライル」って呼んでることくらい。

ゲットー少佐があの官能的な声で『フォムト』と貴方に囁いていることくらい。

「あーはいはい。で、その後無茶苦茶セックスするんですか、ご馳走さまです。全然ご馳走じゃないですけど」
「ばっっっ!ば、馬鹿!何だよその『無茶苦茶セックスする』って!あからさますぎるぞお前!」
「何だ、図星ですか。ゲットー少佐もたいがいいろんな噂の絶えない人ですから、気をつけてくださいよ」
「何だよ」
「プレイボーイって奴でしょう。病気とか大丈夫なんですかねぇ」
「おい」

隊長の語気が強くなり、私は慌てて平静を取り繕った。相手を侮辱する言動は慎みに欠ける。
でも、腹立ちは収まらない。
これ以上ゲットー少佐を侮辱すれば、隊長が本気で怒ることは確実で、そんな確信にさえ私は腹を立てた。

「……ライルは…そりゃ、以前は俺も呆れるくらい取っ替えひっ替えだったけどよ、……」
「でしょう?今だってどうだか。隊長と離れてもう一週間経ちましたけど」
私たちは今、作戦行動中で第6空間機甲師団本隊とは離れ別行動中だ。定時連絡以外の私的な通信は
行っていない。

「嫌な事を言うんだな、フィッケル」
「だって、事実ですし」
「……あのな、ライルがああなのは……いつだって奴は死ぬ気でいるんだよ。恋人を遺して悲しませたく
ないんだ」
「おかしいですよ、なら恋愛なんてしなけりゃいいんです。知ってますよ、理不尽に別れを告げられて
暫く立ち直れなかった女性が一人だけじゃ無いってこと。それに……男でも女でも、って……」
「そりゃあさ、しょうがねぇよ」

私はかなり嫌なことを言ったのに、隊長は先ほどよりも随分穏やかな表情を見せた。

「あいつ、ああ見えて寂しがり屋なんだからさ」

なんて顔をするんだ。
いつも勇敢で、明るくて、勝ち気な私のバーガー隊長が、こんな表情を見せるなんて。

「なあー、お前だって判るだろ?男ってさ、案外脆いじゃねぇか。うまく言えねぇけど、ライルもそうなんだよ」
「……」
「ってよぉ!お前さっきから俺に何言わせてんだよ!もうライルの話は止めだ止めだ!な!」
「……すみませんでした」

 それから暫く別の話をし、隊長はハイデルン大佐からの通信で一度席を離れた。
私はその場に一人。
テーブルには飲みかけの飲料の入ったコップが二つ。一つは私、もう一つは隊長の。
私は隊長の帰りを待ちながら、瞬きも忘れコップをじっと見つめた。
コップを見つめながらズボンのポケットをまさぐる。薬の包みが触れた。
この惑星に来る前だったか、疲労が溜まっていたこともあり精神状態があまり良くないことを医者の友人に
相談したとき、
『まあ、根を詰めずにさ、たまにはパーッと遊ぶのもいいんじゃないか?』
と、飲めば気分が晴れるという薬をもらった。礼を言い受け取ったものの、しかしその薬は催淫効果もあると
友人が言うので飲むのは止めた。
『どうせ奥さんが死んでからあっちの方は全然なんだろ?わかるよ、まだ若いくせに爺さんみたいに
悟った顔しちまってるんだから。まあ、試してみろ。まだ枯れるには早いぜ』

 手の中にあるのは粉末の包みが一つ。

 私はそれをそっと開いた。
中身を少し指にとり、舐めてみる。味はほんのり甘い程度。
私はもう一度、二つのコップに視線をやった。そして、部屋のドアへ。まだ隊長は戻ってきそうにない。

 半量をコップの中に入れ、一気に飲み干す。簡単に溶ける薬剤なのか、舌に違和感は感じなかった。
口元を手の甲で拭い、薬の残りを隊長のコップに急いで振り入れ、手早くかき混ぜる。

 かき混ぜた飲み物の水面が落ち着いた頃、ようやく戻ってきた隊長は「やれやれ、親爺さんは話が
長げーよな」と大仰に肩をまわし、目の前のコップを手に取り何も疑いもせず中身を飲み干した。

 私は極めて冷静に、隊長の仕草を観察し続ける。あの医者が言ったように、催淫効果があるのだろうか?
もしかしたら私はあいつにからかわれただけなのかもしれない。
でも、もし、本物の媚薬だったとしたら……?

 動悸がしてきた。あの薬の影響なのだろうか。隊長もどこか落ち着かぬ風情で、しきりに足を組み替えたり
身体を揺すっている。
「どうしたんですか?」
業と問いただす私も身体の火照りを感じ始めていた。
「何でも無い」
目が泳いでいる。
「ちょっと……暑いですね」
「ん、ああ」
酒など飲んでいないのに目尻が妙に色づき始めた。ちら、と壁に付いている小さな鏡を見やると、自分の
顔も変な具合に染まっている。
「上着、脱いでいいですか」
「ああ、勝手にしろよ」

 半量でこのざまだとしたら、あの薬を全部飲んだら一体どうなっていたのだろう。自制心を無くし一気に
目的の相手に襲いかかっていたのかもしれない。
だが今だってもう、隊長を抱きしめたくてたまらない。
今まで必死に、欲望を包み隠してきた理性という名の薄紙が恐ろしい勢いで次々に剥がれてゆく。

「なんか、蒸し蒸しするんだよな。シャワー浴びてくる」
耐えられなくなったのか、隊長は席を立ち足早にシャワーブースへと向かう。
私はそれを目で追った。動悸で息が苦しい。
性欲に頭が爆発しそうになるなんて、少年のほんの一時期のことだったが今まさにそんな感覚だ。
なのに私は大人の小賢しさをもってタイミングを計っていた。
服を着たままなら逃げられてしまう。



 ”追い詰めるなら、まずは逃れられない状況を作れ。”
 ”手足をもぎ、牙を折れ。”

 ”やるなら徹底的にやれ。”

 そう教えてくれたのは、隊長。貴方でしたね。



自然と口元がほころんだ。さぞ浅ましく、醜い顔で笑っていることだろう。
鏡を見なくても容易に想像できる。
今の私は外道だ。







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