銀の鈴 ~それは小さくも確かな光


先にアップしました「銀の鈴(ドメル×ゲットー)」をふまえてのバーガー×ゲットーです。この「銀の鈴」二作に
つきましては、pixivにて作品投稿されていらっしゃる飛沫ラオ様の素敵なゲトバガ作品より
お話を膨らませて創作しましたこと、謹んでお礼申し上げます。該当作品は こちら ゲットーとバーガー②【腐向け】 です。 (2014.2.14)


              

 ん、と、フォムト・バーガーは視線を斜め後ろに向けた。
その先にはすれ違い、通り過ぎた同僚のライル・ゲットーの後ろ姿が見えるだけだ。

「空耳か……」

「よっ、お疲れ」「ああ、お前もな」と、普段通りの簡単な挨拶と共にすれ違う瞬間、ちりん、と微かな
鈴の音がバーガーの耳を捉えたのだ。
ドメル将軍麾下の幕僚といえども軍服にアクセサリーを付けるなどもってのほかで、それ以前にバーガーの
知る限り、ゲットーにはプライベートにおいても装飾品を身につける趣味は無い。
しかし、何かの理由で彼が鈴を持っていてもさほど可笑しいことでは無いはずだよな、とバーガーは思った
ものの「おい、ゲットー」とあちらへと向かうゲットーの背に声をかけた。

そしてゲットーがこちらへと振り向いた瞬間。

『ちりん』

と、今度は先刻よりもあきらかにゲットーの身体から鈴の音がした。
「…なんだ、バーガー」
ゲットーもまたその鈴の音に勘づいたらしい。声がかすかに動揺している。
「鈴の音が……」
「さあ?……俺には聞こえな……」

バーガーの視線にゲットーが口籠もる。常に冷静で感情を露わにしない彼の白い頬にさっと朱が差したのを、
勘の鋭いバーガーは見逃さなかった。

「ふん。俺の気のせいかァ」
「……そうだ。で、何の用だ」
「いや、いい。たいした用じゃなかった」
「そうか」

頬に差した朱は直ぐに消え、ゲットーはいつもと同じ醒めた目をちらとバーガーに向けると再び背を向け、
立ち去って行く。

「ふうん……あやしいねぇ」

去ってゆく背に、バーガーは探る様な視線を向けたままにやり、と唇の端を歪めた。



 自室に戻ると、ゲットーは急ぎ襟元を緩めた。まさか、あんな場面で鈴が鳴るとは思ってもみなかった。
まだ気が動転しており、外そうと首にまわした手が震え、なかなか思うようにリボンが外れない。
先刻、ドメル司令の執務室で人には言えぬつかの間の欲望の交歓に耽溺していたのだが、緊急通信が
軍司令部から入った為ゲットーは取り急ぎドメルの元を辞した。
バーガーと鉢合わせたのは、そんな自室へと戻る途中のことだった。
「バーガーの奴…!」
ゲットーは滅多なことでは感情を揺らがしたりはしないのだが一度動揺するとなかなか立ち直れない
一面もある。今がそうだ。外したリボンを震える手に握りしめ、それを唇に押し当てることで動揺を抑え
ようと必死だった。
ちりんと鳴った鈴の音を聞き、リボンの深い緑色を見つめ、ゲットーはただ一人の男を思い出す。
彼を胸に思い浮かべるだけで、荒れた心が凪いでゆく。
「将軍閣下……」
そのままふらふらと寝室へと赴きベッドに倒れ込む。切なげに瞳を閉じ、ちりん、と鈴を鳴らした。
「……ドメル閣下……」

手が身体の中心へとのびる。そろそろと前を開き、猛りを見せ始めた己のものにそっと手を添えた。

「閣下………あなたが」

 ドメル将軍の逞しい肉体をまざまざと脳裡に呼び戻す。太い腕に抱きすくめられるだけで、あの逞しい手に
撫でられるだけで胸が高鳴る。片手に握った鈴へ唇を寄せるとまた鈴は軽やかな音を響かせた。

「あなたが、……」


 その後の言葉は、ああ、という喘ぎ声に重なり聞き取れない。それはクラルの鳴き声かもしれなかった。

 ひとしきり一時の孤独な快楽に溺れた後、ゲットーは掌に残った白い残滓を見、そして目を背けた。
敬愛するドメル将軍を心に描きながら欲望の対象にしてしまうことを、彼はこのときばかりは後悔するのだ。


 深緑の、ドメルの瞳の色の首輪はゲットーの大切な、特別なドメルとのつながりだった。
だのに、ある日迂闊にもバーガー等と共用しているロッカーに置き忘れてしまい、慌てて気付き取り戻しに
行くとそれは姿を消している。
「しまった」
ゲットーは清掃員にまで、該当のロッカーに何か残っていなかったかと尋ねたものの、怪訝そうに見られる
だけで何の成果も得られない。
もしかしたらロッカーに置いたと思ったのは己の勘違いで、ちゃんと自分の机にしまったのではないか、
私室に持ち帰りベッドサイドの小物入れに入れたのではないかと考えたものの、深緑のリボンは何処にも
無かった。

ゲットーは狼狽え、苛立ち机に両手をバン、と叩き付けた。
「ライル・ゲットー!貴様何と迂闊なことをしたのだっ…くそっ……!」
あまりの焦燥に指を噛む。一体どうしたら良いのだろう?

半ばパニックに陥ったゲットーは、先刻からドアを叩く音に気付かずにいた。
「おーい、開けるぞ」
その間の抜けた声にハッとし、そちらの方へ向くと同時にドアは開き、バーガーが顔を見せた。
「何だ!」
「おいおい、ご挨拶だなぁ、ゲットー?」
「俺は今忙しい、くだらない用事なら後にしろ」
「……へえ」
そう言うとバーガーはふふん、とゲットーを見下すように眺め、ポケットに手を突っ込んだ。
「これでもか?」
掴み出した手の先を見、ゲットーは顔色を喪う。

 バーガーが遠慮無く握りしめているのは、ゲットーが血眼になって探しているリボンだ。
「いい音がするぜ、これ」
粗雑に振られ、リボンに付いた小さな鈴はちりん、ちりん、とどこか悲しげに鳴った。
「……それは、俺のものだ。どこにあった?返してくれ」
言い終わる前に手を伸ばし、バーガーから奪い取ろうとしたもののいち早くバーガーは身をかわす。
「バーガー!」
焦るゲットーを尻目に、バーガーは「なんでこんな玩具に必死なんだよ?」と意地悪く笑い、リボンを振り回した。
鈴が鳴るたびにゲットーの色味の無い頬に朱が差すのを、バーガーは冷ややかに、そして凝視し続ける。
「俺のものだと言っただろう!」
なりふり構わず、ゲットーはバーガーに掴みかかった。が、お互い体力には自信があるもののこのような
取っ組み合いでは少年時代から暴れ者だったバーガーの方が上手で、ゲットーは床に押し倒され、腹の上に
乗られ動きを封じられてしまう。

「なあ、ゲットー?これ、クラルの首輪にしちゃあちょっとでかいよなあ」
「ふざけるのもいい加減にしろっ」
罵られても、バーガーの薄ら笑いは変わらない。
「たとえばさ、これ」
バーガーの手が慣れた手つきでゲットーの喉元をまさぐり、襟を緩めた。
「ここに、ぴったりなんじゃねぇの?ほら」

ゲットーは背筋を凍らせる。知っている。バーガーはあの秘め事を知っているのだ。

「な。丁度良い」

 器用にゲットーの首にリボンを巻いてやると、バーガーは喉の中央にある鈴をぴん、と弾いた。鈴は
軽やかな音を立てる。その瞬間、ゲットーの身体がびくん、と跳ねたのをバーガーは見逃すはずも無い。
「ゲットー。誰に首輪を嵌められたんだよ?」
見る間に色づくゲットーの頬がなまめかしい。
「情けねぇなあ。ガミラスのトップエースが嬉しそうに鈴付けられちまってよ」
冷たい言葉が、嘲笑が、のしかかる身体の重さがゲットーを絶望へと追い立てる。
「……何が……何が悪い…っ……貴様には、…関係の無いことだ」
全身から力が抜け、最早バーガーに逆らう手立てをゲットーは失っていたが、精神まで屈服する気は無い。
「あぁ、お前が誰に飼われていようが俺には関係ねぇよ。ただな」
バーガーはわざと顔を近づけると、鈴をちりん、と鳴らしゲットーの耳もとに唇を寄せ声を顰め囁いた。
「あんたが嬉しそうに首輪付けてにゃあん、って鳴くのを聞いてみたいと思ってさ」
「な……っ…!」
バーガーはその青い瞳をゲットーからいっときも逸らさず、その琥珀色の瞳に浮かぶ動揺を満足そうに見つめ、
「…鈴付けて、あんた一体何をしてるんだ?……」
と、ゲットーの上着をはだけてゆく。
「股を開いてるんならさ、」
指がベルトにかかったとき、ゲットーは手で防ごうとしたがバーガーはゲットーの手を乱暴に払いのけた。
「ケツを出してにゃあ、って誘ってみろよ。ゲットー」
「だまれ」
「鳴いてるんだろ?ドメル将軍に掘らせて気持ち好くてさ」
「だまれ!」
もう、悲鳴に近い叫びだった。
「なぜ、……なぜ、お前……」

 己の眼下で、ゲットーが今まで見たことの無い絶望的な表情をしている。
たまらなく愉快だった。この男はいつでも超然と他人を見下ろし、そして決して他人と交わろうとはしない。
簡単に言えば、「いけすかない野郎」なゲットーを、嫌ってはいないものの、どうにも見下されているようで、
それがバーガーには不服だった。幕僚として迎えられた初めての日のことは忘れられない。
自分とすれば随分腰を低くし、頭も下げた。そして右手を出し、「よろしく」と声をかけた。
だがこの男はちらりとこちらを一瞥しただけで、バーガーの握手には応じなかった。
『何だお前?』
そう憤ったバーガーをハイデルンとクライツェが宥め、その場は怒りをおさめたものの、今なおゲットーと
今ひとつ打ち解けられないのはあの時殴り合わなかったからだとバーガーは信じている。

そのゲットーが今、愚かしいほどに狼狽している。そして、彼にはもう為す術が無い。絶体絶命だ。

しばし優越感に浸ったバーガーは再度リボンをほどき、鈴を手にしたまま器用に片手でゲットーの衣服を
剥いでいった。
よほど鈴が大事と見え、ゲットーは瞳に憎悪を滾らせているものの一切の抵抗をしない。
先程ドメル将軍の名を出したのは単なるハッタリだったのだが、この様子を見るに鈴を与えたのはドメル将軍で
間違い無いらしい。呆れたもんだ、とバーガーは鼻で笑った。
「勝手にしろ」
ゲットーはバーガーを睨み付け、低く言い捨てた。
「へいへい、こんなにされてもプライドだけは元のまんまか。つまんねぇなぁ、早くクラルに代われよ」
悔しげに唇を噛むゲットーの亜麻色の髪をくしゃくしゃと撫で、バーガーは険しく光る金色の瞳をのぞき込んだ。
「あー、判ったよ、撫で撫でしてやんねぇと鳴かないんだな?」

 空中戦では並ぶ者無し、とまで謳われたガミラス空戦隊の撃墜王、ライル・ゲットーが今や不様に
床に押し倒されてやがる。
まるで羽根をもがれた鷹じゃないか。


 バーガーは馬乗りになったままでゲットーの頬を撫で、そして唇を寄せた。ゲットーはぷい、とバーガーから
顔を逸らす。
「嫌がるなよ、仲間だろぉ?」
言葉尻に嘲笑を乗せ、あちらを向いた頬にわざと、ちゅ、と音を立て口づけた。
ゲットーが身体を硬くする。「将軍はいいが、俺はだめってか?」肉の無い頬は柔らかくも何ともない。
構うものか、とうそぶきながら唇を耳へと滑らせぺろりと舐める。うなじからゲットーのいつもつけているらしい
コロンの良い香りがした。

「前々から怪しいと思ってたんだ」

軍服の下に着ている、ライトグリーンのシャツは下ろし立てのように糊付けされ、襟もピンと立っている。
そんな潔癖症のゲットーと洗いざらしをそのまま平気で着用するバーガーとは対照的だ。
相反する性格故に戦略会議の時も衝突することが多い。

そのボタンを一つずつ外しながら、バーガーは勝ち誇ったような顔をしていた。
「女の話にもちっとも乗ってこないと思ったら、あんた、心は女の子だったってわけか」
「ふざけるな」
「だって、ドメル将軍に惚れてるんだろ?」
「……」
ゲットーは何も答えないが紅潮した頬が彼の想いを雄弁に語っている。
「奥さんに申し訳ないとは思わないのかねぇ」
ボタンを外し終わると、その下の肌着をまくりあげた。そのまま小さな乳首を摘まむ。
「感じる?」
「……」
顔を逸らしたままのゲットーの耳元で鈴を鳴らし、「か・ん・じ・る・の・か?」と幾分乱暴に乳首を捏ねた。
「うっ……っ……」
「へへ、意地っ張りなクラルだな。いいぜ、面白い」
乳首を弄った指をつう、と滑らせ鎖骨から首筋を遡る。細い顎を捕まえると、強引に口づけた。
「うっ、ううっ!」
唇を塞がれゲットーは呻くがバーガーはものともせず舌をねじ込む。更に抵抗を見せながらゲットーは
バーガーが握っているリボンを取り戻そうと手を伸ばしたが勘づいたバーガーはさっとよけた。
「返してほしけりゃクラルの真似して誘えって」
かたく閉じた薄い唇を舐めながら囁き拳にリボンを巻き付ける。バーガーがその拳を振るたびに、鈴は
愛らしい音を立てた。
「だっ…誰が…っ…あ、ああっ…」

バーガーの愛撫は自己中心的で乱雑だ。嫌悪すべき行為であるはずなのに、鈴の音がそれを邪魔する。
「俺が気に入らないか?なら、気に入るようにしてやる」
乱雑ではあるが馬鹿では無いらしく、ゲットーの反応を見定めやり方を変えてくるのはさすがと言おうか。
脇腹をなで上げ、柔く爪を立て肌を擦る。ゲットーは何も言わないがびくん、と細い身体が跳ねた。

 執拗に素肌を撫でながらバーガーはベルトを抜き取り、ズボンの前を緩めその中に手を突っ込んだ。
下着の上から明らかな昂ぶりに触れ、ほくそ笑む。

「ほーら、こっちも撫で撫でしてやんぜ」
バーガーはゲットーを見下ろし、性器の膨らみに沿わせあてがった手をそろそろと動かし始めた。
「っ……!」
ゲットーの両脚が暴れ出し、殺気を感じ取ったのか「おいおい、これはいいのかよ?」とリボンを巻いた
拳をゲットーの目の前に振りかざすと、彼は瞳に怒りを滾らせるも、とたんに大人しくなった。
「可愛がってやってるんだから、いい顔しろよな、ゲットー?」
手の下で次第に硬さを増し、熱くなるペニスを徐々に手で締め付けてゆく。
「…ん……く……ぅ…」
と、食いしばる口元から色味の増した吐息が漏れる。
「我慢しないで、鳴けって」
ぐい、と握った。大きく身体が跳ねる。だがバーガーは手を離さない。馬乗りになったまま、下りようともしない。
彼のもう片方の手がゲットーの乳首をかりかりと掻く。
「ふ、…ぅ、……ぅ、……」
ゲットーの身体が断続的に震え、次第に青白い肌が赤みを増してきた。
「なんだ、鳴かねぇのか?つまんねぇな。…じゃあ……」
馬乗りになったまま、バーガーはずい、と身体をゲットーの胸へと移動させた。
「クラルは舐めるの好きだよなぁ?」
目の前でバーガーはズボンの前を拡げ、己の興奮に勃起した自身を掴み出した。そのままゲットーの
口元にぐい、と突き出す。先端が口元に当たりゲットーは顔をしかめた。
「ほら」
りん、りん、と鈴が鳴る。
「……それを、返せ」
「上手に出来たら返してやるよ」

りん、りん。
頭の中で鈴が鳴る。

鳴らしているのは。

『お前はいい子だ。……ゲットー』

閣下。……ドメル閣下…


 ゲットーは息を止め舌を出した。充血しかたく腫れているバーガーの性器がすぐに当たる。

「ん……」
ぺたりと舌を当てられ、バーガーは小さく呻いた。下腹に甘い緊張が拡がってゆく。
見下ろせば、あのゲットーが自分の男根を舌を出して舐めている。自分でやっておきながら、そんな
状況にバーガーはどこか気の遠くなる思いがした。
ぺろ、ぺろ、と先端の敏感な部分を舐めていた薄い舌が次第にその範囲をひろげ、尖った舌先が割れ目に
沿って下りてゆく。
ゲットーは執拗にバーガーが過敏に反応する箇所を舐めた。口の中に突っ込まれそうになったが、唇で
それを阻止し、ただ舌先で翻弄する。下半身のこわばりに、相手が焦れているのを感じ取った。
「ん…な、なあ、……もう、がぶっと咥えてくれよ……気持ちいいが…良すぎて……」
言うことを聞かず、舌をちろちろと根元まで這わせ皮膚の奥で脈打つ強張りをなぞると「う、っ……あぁ……」と
バーガーはますます苦しげに喘ぎ、身を震わせる。
「ちくしょ…う、……ゲットー……ぉ……」
ドメルならばゲットーの気の済むまで好きにさせてくれるがバーガーは性急だった。
「挿れてやる」と低く呟き、ゲットーから離れその身体から衣服を奪い去る。「バーガー、止せ」と言うも
ゲットーは強くは逆らわなかった。細身だが良く鍛えられた裸体を舐めるように見、バーガーもまた全裸になる。
「いい身体してるじゃねえの」
鈴は相変わらずバーガーの右手に巻き付いたままだ。彼が手を動かすたびに鈴が鳴り、その音にゲットーは
にやついているバーガーを睨みつつも、記憶にあるドメルの愛撫を思い起こし密かに身を焦がす。

『君は今日から私のクラルだ』
撫でてくれる掌の温かさ。
額に落とされる優しい唇。

『おいで。私の可愛いクラル』

深く、胸に染みる太く低い声。
互いの間に絶対に越えることを許さない一線をもうけ、互いの傷を舐めあい孤独を埋めた。
触れているのに届かない、都合良くももどかしい関係だった。


俺は本当に、それで良いと思っていたのだろうか?





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