そのときのフォムトの表情に、姿に、俺は我を無くした。
雄の欲望を放つ力強い瞳、不敵に引き攣れる頬の傷跡。
滑らかな曲線などひとつとして持たない男の身体が悩ましげによじれ、俺を誘う。
不似合いにも程がある女ものの衣装を引き裂き、俺は猛然とフォムトの身体に己を埋めた。
先ほどまで泣いていた男が、喘ぎながらも果敢に俺の頭を掴み口づけてくる。
唇を離せば唾液の糸が延び、どちらからともなく舌をのばし絡め取ってゆく。
「もっと、俺を……抱けよ、……」
掠れた声が内包している熱い溶岩のような欲望に呑まれそうになる。
だから俺はこの男に女の格好をさせたくなる。牙を剥くかのような激しい欲望に、戒めを与えたくなる。
そうしなければ俺が負けてしまいそうになるからだ。

 そんな男の顔とは裏腹に、フォムトの後孔は暖かく俺を包み込む。強力な入り口の締め付けを超えると
柔らかく蕩けた肉襞が嬉しそうに俺を迎え入れてくれるのだ。
あまり言葉に出して言わないものの、奴もこの行為が好きならしい。
幾度も抽送を繰り返していくと、その締め付けさえ緩んでき、奴の全身が快感に蕩けてゆく。
俺はだから、勝手に一人で好くなるフォムトを許さない。
だらしなく伸びた身体を仰向けにし、乳首をぎゅっと抓る。そうするとフォムトは顔を歪め、びくん、と身体を
震わせて後孔をきゅっと締めてくる。
「痛ぇよ、抓んなよ」
「ならば、これならどうだ?」
くりくりと指の腹で擦る。
とたんにフォムトは無言になり、身体をくねらせた。
悩ましげな眉間の皺、物欲しそうに開き甘い吐息を漏らす口元。汗の粒の浮かぶ額。
乱れた柔らかな女物の衣服、その下の男の裸身。
スカートの裾がめくれ、小さな、本来は女性のたおやかな腰を包むはずの下着が伸び、この男に取っては
もはや何の意味も成さぬ布きれと化し、汗と潤滑剤に濡れ、素肌に張り付いていた。
「気持ち好さそうだな」
俺は乳首から手を離し、代わりに奴の両手をあてがってやった。
「自分で好きなだけしたらいい、……俺はこちらを好くしてやるから」
「……ライル……」
フォムトの腰を自分の脚に乗せて浮かせ、多少無理な体勢だが俺は彼と向き合い、そして抉るように
突き上げる。
「ああっ!」
甘い悲鳴を耳に留めつつ、手に奴の、すっかり存在を無くしてしまったかのように萎えているペニスを携えた。
女のように扱いつつ、それでも俺はフォムトが男だから好きなのだ。
もう、達したかった俺は荒々しく腰を打ち付け、道連れとばかりに奴のペニスを揉んだ。
「いっ、あ、ああっ、ら、ライル、っ!」
奴の両手は己の乳首を擦っている。
「好いのか?」
俺はもう、休む間を与えない。
赦しを乞うかのようにこちらを見上げたフォムトは、「う、うん、……」微かに言葉を発し、あとはその瞬きで
意思表示をして見せた。
「ライル」
苦しげな息の合間にフォムトは俺を呼んだ。
「キス、して」

潤んだ青い瞳に俺の顔が映っていた。
「抱きしめろよ」
歪んだ表情さえ今は劣情を煽る一因となる。
「フォムト」
たまらなくなり、思い切り抱きしめた。待ち構えていたように、フォムトの唇が俺を求めてくる。
俺を逃すまいと両脚を腰に絡めてくる。
「もう、……このまま、……」

あとは二人で駆け上がるだけだ。
「ライル、ライル」
小さな子どものようにまとわりついてくるフォムトの頬に、首筋に口づけながら俺は尚も腰の振りを止めず、
俺を呼ぶ声や、悩ましく喘ぐ声に導かれるように達した。
「ライルっ……!」
固く抱き合ったまま、余韻を愉しむ。奴の身体のなかで役目を果たし、緩やかに萎えてゆく。
「……フォムト……」
「……女じゃ、ねぇ、っつうの」
すぐ目の前で、フォムトが苦笑いをしていた。
「あんたはいろいろおかしいぜ、…」
いつもの、傷跡のある左側の口角を引き攣らせた笑み。
「なあ、俺を女みたいにして楽しい?」
唇を重ねながら訊ねてくる。
「…不快なら謝る。だが、女の格好をした男のお前は好きだ」
「ったく、ちっともわかんねぇよ」
ようやく冷静さを取り戻してくると、下腹にぬめりを感じた。
「……イった…?」
「女の格好させられたって、所詮は男だからな、……」
へへ、と照れ隠しに笑う様があまりに愛しくて。




「ちょ、おい、……なんかまた大きくなって無ぇか!?」
「勝手にイったお仕置きだ」
「な、何言って……や……ぁ……」


 だから俺はこの男に夢中なのだ。


 馬鹿野郎、と喚きながらも俺の身体に抱きついてくるこの男に。




 フォムト。




────終────