そして我、故郷に帰還せり


ドメル軍団が好きすぎで19話20話見る度に「どうしてこうなった」と苦悩する日々を送っています。
あの結末は仕方の無いものとして、自分なりに彼等への追悼の意を。(2014.08.23)
              

 激しく揺れる船体に幾度も足を取られ、尻餅をつき、壁に身体をぶつけながら俺は必死に格納庫へと向かった。
隊長機は第二甲板の奥に繋留してある。艦が大きく傾き、俺は窓の強化ガラスに身体を叩き付けられた。激痛に
声も出ない。横目でちらりと外を向けば、スヌーカがまるで板に乗せられた玩具のようにばらばらと雲海へとこぼれ
落ちてゆくのが見える。
「ちくしょう」
俺はもう、先刻からその言葉しか発することが出来ない。
「ちくしょう!」
叫んだ瞬間、ふわりと身体が宙に浮いた。
このエリアの慣性制御も解けてしまったのだ。
激しくアラートが鳴り続けているが回廊に人の姿は無い。元々、艦載機とパイロットを最大限まで積載するために
その他の設備は極限まで除けられ、自動化されているこの空母に乗っている工兵、整備兵は僅かしか居ない。

いち早く脱出していればよいのだが。
だが、この宙域で救命艇で脱出したといっても、誰が救い出してくれることか。
一体どうしてこんなことになってしまった。
数分前までは俺たちが優勢だったはずなのに。



 フォムト・バーガー少佐は制御を失い大きく揺れながらイオン乱流を彷徨う己の母艦、ランベアの内部で翻弄され
ながらも必死に第二甲板へと向かっていた。スヌーカで出撃したときのまま軍装を解かなくて良かった。緊急時に
備えヘルメットも携えていたのが今、こうして役に立とうとは。
「おっと」
様々な機械の破片が凶器となって飛来してくる。それをかわし、時にはぶつかりながらもバーガーは泳ぐように
もがきながら己の機の元へと急いだ。

電子制御で繋留していた艦載機はひとつも残っていないか、壁に激突し大破した破片が無残にそこらを漂っている
だけだ。だが、バーガーは信じていた。
自分の機は残っていると。



 バーガーは元々は戦術科が専門であり、ドメルの指揮下に入ってから航空機による戦闘の多くを学んだ。
対して同じ幕僚であるライル・ゲットー少佐は生え抜きの航空隊員であり内地での空戦も、宇宙空間での戦闘も
お手のものとするまさにトップエースだ。空戦技術については、彼に学んだことも多い。中でもいつもゲットーが
うるさく言うことがあった。
『一度飛び出してしまえば後はもう、運だけだ。新兵が生きて還り、熟練兵が死ぬこともある。
だが離着陸だけは別だ。特に空母を使用した機動部隊戦に於いて』

ゲットーはバーガーと同年代の若いパイロットでありながら、航空機の扱いに関しては妙に古いやり方に固執していた。
彼は母艦に自分の機を繋留するときには必ず金属ワイヤーを使った。他の者は一般的な電磁ワイヤーを使う。
摩耗で切れる恐れのある金属ワイヤーよりも電磁ワイヤーの方が確実かつ安全なのにだ。
『ガミラスの航宙母艦はあまりに脆すぎる。トラブルの発生率は戦艦の比じゃない』
と、彼は積載量に拘るばかりに安全性に疑問の多い空母の電気系統が故障しやすいことを懸念していた。
当然、着陸時にも彼はアレスティング・ワイヤーを準備させ、常に確実な着艦を心がけていた。

『アナログだねぇ、トップエースさんよ』
バーガーはそうやってよくゲットーをからかったものだが、彼の愚直なまでの慎重さが驚異的なスコアをたたき出し、
機体を無駄に損なうこともないのも理解はしていた。
そのゲットーが、この戦いに赴く直前、バーガーに神妙な面持ちで言ったのだ。
『機体は必ずワイヤーで繋いでおけ。車輪止めも忘れるな』と。
 

 やっとのことで第二甲板の格納庫にたどり着いた。彼のスヌーカは時代遅れの金属ワイヤーに繋がれたまま、
慣性制御が解除され足元のおぼつかない状況ではあるものの無傷の状態でバーガーを待っていた。
「よ、……よし!」
キャノピーを開きコックピットに滑り込む。丁度整備は一通り終わっていたようで、次の発艦準備は整っている。
エンジンをかけ、計器の点灯を待つ。

「バーガー隊長」

馴染みの声にハッと外を見ると、いつも機銃手としてバーガーとペアを組んでいるフィッケル大尉の姿があった。
慌てて立ち上がり、「フィッケル!無事だったのか!早く乗れ!」とバーガーは叫ぶ。

「駄目です」
「あぁ?いいから早く来い!ヤマトの野郎にせめて一撃見舞うんだ!」
凄むバーガーに対し、フィッケルは静かに首を振った。
「私は行けません。それより発艦準備はよろしいですか?」
「おい!」
「このワイヤーを外さなければ」
「お前が乗らないなら俺も行かないぞ」
バーガーは険しい表情でフィッケルを睨み付ける。
「隊長」
「俺は隊長なのにほとんど全ての隊員を死なせた。メルヒももういない。お前だけなのに……残して行けるかよ」
ぐらぐらと揺れる船体の中で、フィッケルは不思議にも足元をよろめかせたりはしていない。
「お前別に怪我もしてないだろう?いいからワイヤーを外して直ぐ乗れ!」
「しかし」
「上官の命令だぞ!」
「……ザー・ベルク、バーガー隊長」
バーガーの説得にようやく応じる気になったのか、フィッケルは小さく頷くと機体を結ぶワイヤーを断ち切り、そして
直ぐに戻って来るとバーガーの後ろに乗り込んできた。
「そうだ、それでいいんだ」
バーガーは安堵した。もう仲間には死なれたく無い。
「隊長。……ありがとうございます」
「馬鹿、何だよ、しおらしいじゃねぇか。だがな、礼はヤマトに一発見舞ってからにしてくれ」
システムが発艦サインを告げる。「よし、行くぜ!」 バーガーとフィッケルを乗せたスヌーカはエンジン音と共に
甲板を走り始める。
「仇を……討たずに死ねるか…!」
甲板は水平を保ってはいなかったがバーガーはものともせずスヌーカを猛然と走らせ、ランベアからの離艦に
成功し、荒れる宇宙空間へと飛び出した。

「何処だ、ヤマト!何処に居る!」
レーダーは一切を感知出来ず、バーガーは必死に目を懲らしあの鈍色と赤の二色に塗られた奇妙な形状の
戦艦を探した。もしかしたら既にドメル司令とハイデルンの親爺さんが決着をつけたのだろうか。
あの史上最強の戦艦、ドメラーズが墜ちるはずは無い。ドメル司令が野蛮で科学力も劣る異星人に負けるはずは
無いのだ。
「へ、へ……もう親爺さんたちがヤマトを沈めちまったのかなァ?」

万に一つの可能性を口にしてみたが、何故か彼の胸を占めるのは絶望だ。思いたくもない、もう勝利の女神は
自分達を見放したなんて。俺達は幸運の女神の髪の毛を掴み損ねたのだなんて。

そんなことは俺の間違いであってほしい。
俺の予測なんて、あのドメル司令や親爺さんには通用しないと思いたい。

「フィッケル!」
恐怖を振り払うように大声を出し、後部席にいるはずの部下を呼んだ。
「はい」
至極冷静な返事が返ってくる。
「ヤマトは何処だ!そして司令は何処だ!探せ!」
バーガーはかつて無い恐怖に半狂乱だった。自分の命が惜しいのではなく、常勝を誇ってきたこの第六空間機
甲師団の落日を見届けることが恐ろしかった。

「……ドメラーズ、視認できません」
「嘘付け!」
「イオン乱流に巻き込まれた確立が高いです」
「軽々しくそんなことを言うな!ならヤマトは何処だ!」
「それは……隊長!あれを!ドルシーラです」

フィッケルの言葉に我に返り前を見ると雷撃機ドルシーラが飛んでいる。機体の配色からクライツェ隊長機である
ことがわかった。
「クライツェ!クライツェ!」
バーガーは通信機に向かい必死に呼びかけた。彼等の母艦、シュデルグは爆発し既に無いことなど、どうでも良かった。
仲間が生きている、それだけでも己を奮い立たせることが出来る。

『……ドメラーズは沈んだ』

耳障りな酷い雑音に混じり、クライツェの声が聞こえてきた。
「嘘だ!」
『お前は、帰れ』
「駄目だ!帰るならお前も一緒だ、クライツェ!」
『いいから、帰れ』
そう言うや否や、ドルシーラが急旋回しバーガーの乗るスヌーカに対峙した。
『行かねば、撃つ』
「おい!」
機銃が火を噴く。「クソッ」とバーガーは直ぐ様機体を傾け射線から反らした。と同時にイオン乱流の煽りを受けあらぬ
方向へ機体が流れてしまう。「クライツェの野郎!何考えてやがる!」と悪態をつきながら、無理に機体を立て直す
ことはせずある程度流れに任せ、抵抗の弱まったところで一気に乱流の渦を突き抜けた。
後方に去っていったイオンの嵐の渦を振り返る。
「……クライツェ…?」
あのドルシーラは何処に行ったのだろう。レーダーは使い物にならず、視界も不良だ。先ほどは通じたクライツェとの
通信も、今は何の反応も無い。
そして相変わらず、あの巨大なドメラーズの姿も何処にも見当たらなかった。
「……沈んじまったのかよ……」
「隊長。先を急ぎましょう、燃料も限りがあります」
後部のフィッケルの言葉はバーガーに悲嘆に暮れることを許さなかった。
そこそこの艦ならば動力はゲシュ=タム機関が備わっているし多少の余裕もあるが、こんな小さな攻撃機でこの
七色星団からガミラス本星に帰還することはまず不可能だ。
「そんなことは分かっている」
帰れはしない。それに、ドメル司令や仲間達を亡くして、どの面を下げて帰還しろと言うつもりか。
「ヤマトを追う」
奴等にとってみればこんな機など、羽虫の攻撃でしかないだろう。
だがこんなところで、おめおめと死に絶えることなど出来るはずもない。

「しかし隊長、この宙域を一体どうやって進んだものか……」
航路図も既に失われている。闇雲に進めばあっという間に燃料は尽き、乱流に飲み込まれるだけだ。
「……くっ……」
万事休す、と思われたそのとき、分厚いイオン層の隙間から何か見覚えのある、白い、なだらかな曲線を
持つ円盤がちらりと姿を見せた。
「……あ、……」
全身から力が抜けていく。見慣れたあの優雅な白い艦。円盤状のものはドメラーズの艦橋だ。
「司令!ドメル司令!親爺さん!」
生きていた。みんな、無事なのだ。
きっとクライツェもドメラーズに拾われているに違いない。ゲットーもだ。
みんな生きている。みんなで、ガミラスに帰還出来る。
バーガーは急ぎドメラーズへと通信を繋いだ。
「へへっ、心配しましたよ親爺さん!ったくクライツェの野郎がさ、ドメラーズは沈んだなんて言うから」
しかしドメラーズからの応答は無い。いつもならば「調子に乗るな、バーガー!」とハイデルン大佐の怒鳴り声が
返ってくるはずなのに。
「なあ、誰か!返事してくれ!」
ドメラーズは無言のままだ。しかし、バーガーの呼びかけに答えるように、ドメラーズ艦橋の両端に備えられた
瞬間物質移送器が明るく光り始めたかと思うと何の予告もなく光線がバーガーの乗るスヌーカに向けて発射された。

 疑問を感じる間も無かった。
視界がピンク色の光に覆われたかと思うや否や、身体が酷く狭い空間に押し込められ、また極限まで引き延ば
されるような気味の悪い感覚に襲われる。
その時間は無限のように思われたが、唐突にその空間からぽん、とはじき出された。
一瞬ぼうっとしたものの、直ぐに意識を清明にし辺りを見回す。
七色星団ではない、静かな宙域だ。
「フィッケル、座標確認!」
不測の事態に即、臨機応変に対応すること。
第六空間機甲師団に配属され、ドメル司令の幕僚にまでなったバーガーが骨の髄まで叩き込まれ身につけた
一番の力だ。彼は今、不思議なほどに冷静だった。
しかし、幾度も死線を共にしてきた腹心の部下から返事は無い。

「フィッケル!?」
振り向くことが出来ない代わり、バーガーは即座に己のコンソールパネルを操作しレーダーを発動させ位置確認を行う。
驚いたことにガミラス本星からほど近い宙域に彼等は帰ってきていた。
「……なんてこった……ガミラスが目の前だなんて」
本来、瞬間物質移送器にゲシュ=タムジャンプほどの威力は無く、近距離のジャンプを目的に開発されたものだ。
七色星団から数光年離れたこの宙域まで一体どうやって飛ばされたのか不可解だった。

それにこのスヌーカに瞬間物質移送光線を発射したあと、ドメラーズは何処に行ったのか。ドメラーズもゲシュタム・
ジャンプでどこか別の宙域に戻ってきているのか。
まさか、ドメラーズもあの雲海に沈んだなどと。

「いや」

バーガーは頭を横に振った。有り得ない。ドメル司令が、ハイデルンの親爺が死ぬなんて有り得ない。
「ヤマトを見つける余裕は無い。悔しいが戻ろう。仕切り直しだ」
無為に時を過ごしヤマトに一矢も報いず果てるよりも、一旦ガミラスに戻り、再度攻勢をかけるべきだとバーガーは
いち指揮官として冷静な判断を下した。
「な、フィッケル」

 先ほどから後部席が異様なほどに静かだ。七色星団では黙っていても呼吸音が聞こえていた。
恐る恐る、脇にある搭乗員の生体モニターへと目をやる。
心拍も、呼吸も、何の生体反応も無い。
「……フィッケル……?」
おかしい。パイロットが搭乗し、背部のコネクションで機体と連結されると同時に生体モニターが起動し、常に
搭乗員の計測値がモニタリングされる手筈になっている。なのに、目の前のモニターに表示されているのは
バーガーの生体情報のみであり、後部席のモニターは接続の痕跡も無い。

確かに見た。フィッケルがパイロットスーツを着、この機体に乗り込んだのを。何より、自分に先駆けてクライツェの
ドルシーラを発見し、何度も声を掛け合ったではないか。
覚悟を決め振り返る。
そこには誰もいなかった。

 バーガーは目を剥き、こみ上げる嘔気をこらえ何とか状況把握を試みようとする欲求をかなぐり捨てた。
この時点でフィッケルの安否の確認などできっこない。
自分はランベアの中で、奇妙な幻影を見ていたのだと思うしかなかった。
クライツェだってそうだ。あれは幻だったのかもしれない。
ドメラーズはどうなのだろう。転送される直前、見えるはずのないドメラーズの艦橋でドメル司令とハイデルン大佐が
こちらに微笑みを向けていたのを見た気がした。おかしな話だから、自分はその記憶を破棄していた。
一体何が真実なのか。ヤマトは何処へ行ったのか。かけがえのない仲間達は何処に行ったのか。

突如、スヌーカのアラートが激しく鳴り始めた。機体の損傷が危険な状況らしい。
急速に機内圧が低下していくのをバーガーは呆然と見つめるしかなかった。
もう少しでガミラスが目視出来るはずなのに。
「ここまで……ここまで、戻ってきたのに……」
皆の想いを乗せ、ここまで来たというのに。ガミラスを目前に俺は不様に死ぬのか。

酸素濃度が落ちてきたらしく、意識が遠のいてゆくのを感じた。
「へ、へ……まあ、このまま、…意識が落ちて死ぬなら、辛くは無ぇよ、な……」
思考することさえ億劫になってきた。いいじゃないか、もうお終いだ。
きっともう皆死んだんだ。俺ももう逝く。粘ってはみたが、駄目だったよ。ごめんな。手足の先が痺れて動かなく
なっちまった。ああ、ここじゃあ破片すらガミラスには届かない……───── 




 漆黒のモニターに明るく輝く光点が突如出現した。朦朧とした意識の中でバーガーはそれを見た。
小さな機体。敵では無い。ガミラス艦ではなく、このスヌーカと同程度の戦闘機のようなもの。
哨戒艇か。俺は命を拾うのかな。
バーガーは必死に目を懲らした。救援信号のスイッチを震える手に渾身の力を込めて押す。

『バーガー。大丈夫か』
聞き覚えのある声が通信機から入ってきた。
『帰ろう』

「……ゲットー……?」
『ガミラスに帰るんだ。大丈夫だ。問題無い』

前を向き、目を凝らせば見覚えのある緑色の機体がある。尾翼をオレンジと白に塗り分けたゲットーのデバッケだ。
喜びと同時に悟った。

俺はもう、とっくに死んでいたんだ。これは夢だ。死者の夢なのだ。
そうだろ、ゲットー。いくら何でもヤマトの艦載機を陽動し戦ったデバッケがここまで飛んで来られるわけがない。
第一次攻撃隊の隊員でまともに戦えるのはお前くらいなものだった。バルグレイが健在ならばお前だって戻って
くることが出来ただろうが、バルグレイは戻ってこなかった。デバッケも戻ってこなかった。
もちろん、お前もだ。


『余計なことは詮索しなくていい。お前はガミラスに帰るんだ。誘導する』
「駄目だよ。……へ、へ、せいぜいガミラスの大気圏で燃え尽きるさ」
『再突入モードがあるだろう』
「パネルが表示出来ない。壊れた」
『手動入力すれば済む話だ。……見ろ、ガミラスが見えるぞ』

斜め前方を行くデバッケを見つめ、そして顔を前に向けた。
「……ガミラス……」
緑色の、穴だらけの星。地表の岩盤があまりに脆弱なので、先人達は地下に都市を築いた。
優秀な指導者の下、そんな星に住むことを悔やむこともなくガミラス人は栄えていった。
美しい星じゃあない。隣のイスカンダルはまるで宝石のようなのに、ガミラスは醜い老婆にも見える。
それでも愛おしい、自分を育ててくれた星だった。
「ガミラスだ」

遠のきかけていた意識が甦る。耳に、己の苦しげではあるが呼吸する音が初めは微かに、そして次第に明瞭に
聞こえてきた。

『そうだ、還って来たんだ』
「……死んだと思ってたのに」
破損し、暗転していたコンソールが再び明滅を始める。機体も自動操縦モードになっていた。
「おかしいよ、なぁ……」
「おかしくありませんよ、隊長」
驚き振り返るとフィッケルの姿がある。
「何を弱気になってたんです。隊長らしくない」
「お、お前何処に行ってたんだよ?」
「え?ずっとここにいましたよ、バーガー隊長」

絶望と孤独に張り詰めていた緊張の糸が一気にほどけたように、バーガーはふう、と肩を下ろした。
「何だよ、ったく……俺、どうしちまったんだろ」

『バーガー!何をもたもたしている!さっさと突入準備をしろ、置いて行くぞ!』
「えっ?……親爺さん!?」

レーダーに巨大戦艦の影が映る。見慣れた、そして憧れの純白の艦だ。
「親爺さん!ドメル司令!」
『バーガー、待たせたな。さあ、皆で還ろう』

もう我慢の限界だった。涙がとめどなく流れだし、年甲斐も無く声を上げてバーガーは泣いた。

「何だよ、畜生!みんな生きていやがったんじゃないか!」
『妙な奴だな、一体どうしたんだ』
クライツェの言葉にゲットーがフフ、と笑っている。

『全艦に通達。これよりバレラスへ帰投、順次我に続け。……諸君の奮闘に感謝する。この戦争が最後だ。
我々の使命は遂げられた。……帰ろう。故郷が待っている』

ドメルの声はいつものように厳粛、かつ優しく心に沁み、バーガーを安堵させる。


「ね、隊長。ほら、バルグレイも、ランベアも、シュデルグも」
フィッケルの言葉に後方を見ると三隻の航宙母艦が僅かに傷ついているようだがドメラーズの後方にいる。
最後尾に戦闘母艦ダロルド、そしてその甲板にはガルントが載っていた。
「は、……んだよ、あのジジイも生きていやがったのか」


ああ、俺はきっと悪夢を見ていたんだな。

当然じゃないか。俺達が負けるわけ、ないじゃないか。


『バーガー。フラフラするな。部下達が困ってるぞ』
ハッとモニターを見るとスヌーカ隊がバーガーの後方に隊列を作っている。
『隊長、しっかりしてくださいよ!』
からかうようなメルヒの声。左隣に隣接してきた僚機を見ると彼が片手をひらひらさせている。

「ああ。ああ、へへ、還ったら祝杯だ。なぁ、みんな」と言い、バーガーは手元のコンソールを操作し突入モードに
切り替えた。
『俺も隊に戻る。じゃあな、バーガー』
先導していたゲットーのデバッケが大きく高度を上げた。上方にはデバッケ隊が美しい隊列を保ち飛行している。
「ありがとよ、ゲットー」

「帰ってきた。俺たちは帰ってきたんだ」
バーガーは瞳を閉じた。脳裡には先ほど見たままのガミラスの姿が浮かび、そして仲間達が笑っている。
先ほどまでの絶望が嘘のようだ。

「なぁ……、故郷って、いいよな……」
目を開けばドメラーズを先頭に、仲間たちが順次大気圏に突入してゆくのが見える。
これ程までにガミラスを愛おしいと思ったことは無かった。バーガーは両腕を広げ、己を迎え入れる母なる星の
懐へと身を投じる。


 ただいま、俺の故郷。────……

 やがてバレラスの上空にひときわ明るい光が輝いたが、それに気付いた者は誰もいなかった。




────────終────────