百年早い恋愛事情


ゲトバガちゃんペロリしたいだけのSSです。全く身も蓋も無いですね腐女子というやつは!(2013.07.11)
 主だった基地には充実した娯楽施設が併設してあり、こと前線において緊張を強いられる兵士たちが日常に
立ち返るのにそう苦労することは無い。
ほとんど全てのスポーツを楽しめるジムで、先日、小マゼラン銀河前線基地からこのバラン鎮守府に出向いて
きたゲットー少佐やバーガー少佐も、汗を流すのを好み通っている。

「よくやるねぇ、ライル」
偶然一緒になったバーガーが、ひたすら黙々とトレーニングに励むゲットーを囃した。
「……お前はもう終わりか?こういうものはちゃんと時間を守ってやらないと意味がないぞ」
受け答えはするが、ゲットーは手を休めない。
「まだ俺は若いから平気さ」

誰よりも自己鍛錬に余念の無いゲットーはいつ見ても細身の、しかし貧弱ではない、
研ぎ澄まされた刃のような身体をしている。

「そんなことを言って。バランに来て少し太ったんじゃないか、お前」
相手をしてほしいのか、傍を離れないバーガーを見、ようやくゲットーはトレーニングを中断すると傍らのタオルを
取り汗を拭った。
「えっ!」
慌てて自分の腹を見るバーガーへ、「ほら、気にしてるんだろう」とゲットーは笑う。
「あんたが太ったなんて言うからじゃないか!体重、さっき量ったけど増えてはないぜ」
「たるむぞ」
「よせよ」
口を尖らせたバーガーは、それでもゲットーのそばをウロウロし離れない。
「暇ならトレーニングしたらどうだ」
「1セットはもう済ませたんだ。……いいよ、もう1セットやるよ」

邪険にされさすがに居づらくなったのか、そう言うとバーガーはすたすたとゲットーから離れ、わざわざ遠くの
マシンに行きその場にいた兵士と談笑しながらトレーニングを始めだした。ゲットーはちら、とバーガーの背を
見やったものの、何事も無かったかのように中断する前に行っていたマシンでの規定回数をこなし、普段通り
トレーニングに没頭した。

無心にトレーニングを続けていると、いつの間にかトレーニングルームには誰もいなくなっている。
いつものことだった。ゲットーほど生真面目にジムを使う人間はいない。
もう1セットやる、と言っていたはずのバーガーの姿もなくなっていた。

いつもなら理由もなくすぐ隣にいるか、見えるところで待っているのに。


 胸のほんの片隅に、そんな小さなわだかまりを抱えたものの、ゲットーは傍らのボトルを手にとり飲料を
飲み干しタオルを手にジムを出る。しかしシャワーブースへ向かう途中、見慣れた男が脇からひょっこり
顔を出してきた。

「よお、遅かったな、ライル」
「バーガー」
こんな時、いつも自分が喜色を表に出していないかがゲットーの一番の気がかりだ。
何にしても調子に乗りやすいこの男に、弱味はどんな些細なことでも見せられない。
「毎度毎度そんなにトレーニングして何になるつもりなんだよ。待ちくたびれたぜ」
当の本人はゲットーの思惑に全く頓着することなく、普通に話していても煩わしい。
「……お前こそ何の用だ?一声かけてくれたら……」
「いや、だって邪魔しちゃ悪いと思ってさ」
「……」

「これでも気を遣ってるつもりなんだぜ、ライル。なあ、一緒にすっきりしない?」
「すっきり?」
「ああ、運動した後はさ。だから待ってたんだ」

 意味ありげに似合わないウインクなんかしてどういうつもりだ?

ゲットーは口をへの字に結んだまま平静を装い、この場合に最適な返答を必死に考える。

「……せめてシャワーを浴びたいんだが」
「…?ああ、そう?いいよ」

 待ち伏せていたばかりか、こんなに唐突に誘いをかけてくるなんて。
 色気の微塵もない、鈍感きわまりないバーガーが。



 ゲットーはつとめて、そしてさぞ迷惑だと言わんばかりに無表情を決め込んだが、そういうときに限って
バーガーはやたらとべたべた身体に触れてくる。
「ライルはほんと、太らなくていいよなー。それともドメル司令みたいになりたいの?」
別にあれほどになりたいとは思わない。基本戦闘機乗りなのだ、無駄な筋肉は必要無い。
「でも俺より筋肉ありそ。……おお、胴回りも細いなあ!すげえ」

腰を両手にするりと撫でられ、ゲットーの自制の箍がぱちん、とはじけ飛んだ。



「うわっ」
突如壁に押しつけられ、バーガーは思わず叫ぶ。
「な、何、ライル……っ……ん」
唇を唇で塞がれ、両腕は両腕に押さえつけられた。両足の間にぐい、と足をねじ込まれ、腰を押しつけられる。
「ん、……ん……な、なぁ、ライル、……一体どうしたの…」

唇が離れ、大きく息を吸いバーガーはゲットーの薄い色の瞳に欲望を認めながら、気づかぬふりをし
「ちょ、ちょっと待てよ」とゲットーをふりほどこうともがいた。しかし、それより早くゲットーは自分たちのすぐ傍に
休憩室を見いだし、バーガーの腕をつかむとそちらに引きずり込んだ。
「ライル…え、ま、待てって……」
ゲットーは饒舌な男では無い。舌先で相手を拐かすようなことの出来ない男で、誠実といえば誠実なのだが
そのせいで一体何を考えているのかわからない事も多々ある。
もちろん、身体の関係は既に持っているのだからゲットーが自分を求めてくることに今更何の違和感も不快感も
ありはしないのだが、この性急さはどういうことだ、と、バーガーは戸惑いを隠せなかった。
「何故焦らす」
日頃物静かな男は、実はベッドの中ではひどく激しい。堪えに堪えていたものが溢れ出したかのように、
普段の鎧を脱ぎ捨てたゲットーは奔放にバーガーを弄ぶのが常だ。
「俺を思い通りにしようだなんて生意気な事を考えるな」
「……うるせえ…っ、誰がそんな」
反論しようにも、そのタイミングに合わせたかのようにゲットーはバーガーの、すっかり勃起した性器を
トレーニング用のゆったりしたズボンの上からぎゅ、と握ってきた。唇から発せられるはずの文句は甘い
喘ぎにかき消えてゆく。
「こんな……こんなところで、やるのかよ」
「……誘ったのはお前だろう」
シャツを捲り上げ、ゲットーは平らな胸に唇を滑らせる。小さな乳首を舌で捉え、転がすように舐めてやると
バーガーは手の甲を口に押しつけ「ばか、やろ……んっ、んんっ」と身をよじり悶えた。
神経は図太く性格は図々しい癖に身体はとても敏感だ。
文句を言いながら身体は愛撫に蕩けてゆく。そんなバーガーがゲットーを夢中にさせる。
「でも、さ、……ねえ、ライル」
「何だ」
「シャワー、浴びなくて……いいのか…っ…」

ふ、とゲットーの手が止まった。

早々にトレーニングを切り上げていたらしいバーガーからは既にシャワーを浴びたのか、汗の匂いはしない。

ゲットーは黙ったままバーガーの身体から離れた。
「ライル?」
「……俺としたことが。……シャワーを浴びてくる。待ってろ」
「えっ」

 ゲットーの日常生活は、彼独自の正確なスケジュールに支配されている。よほどの事が無い限り、彼は
その生活に変化を求めないし、むしろ忌み嫌っている。だいたい、彼の生活リズムを乱すのはバーガー
なのだがそれでも彼はきっちりと軌道修正を行い、判を押したような生活を是としていた。
トレーニングの後はシャワー、というのは絶対変えられないスケジュールだ。
それなのにバーガーが余計な誘いをかけてきたために、あろうことか重要なつとめをすっかり忘れてしまって
いたのだ。

「全く……なんてことだ」

汗まみれの身体で恋人を抱こうだなんて論外だ。くそ、何と迂闊なことを。
ブツブツ呟きながらベッドに半分服が脱げかけのバーガーを置き去りにし、ゲットーは足早に部屋を出ようとする。
「おい、待てよ!俺をほったらかしにするなよ!」
「いいからそこで待っていろ!」
「ふざけんな、……嫌だ!」
自分がゲットーを我に返らせたくせに、いざゲットーが離れてゆくとバーガーは慌てて叫んだ。
まさか本当にシャワーを優先させるとは思わなかったのだ。
「あんたは俺より自分の方が大事なのかよ!シャワーなんて後でいいだろ!」
次第に声の大きくなるバーガーを手で遮り、「後でいいものか」とゲットーは彼らしく冷静に返答した。
「汗に濡れた身体で恋人を抱くなど、非常識も甚だしい!」
「え」
「汚れた身体をお前に押しつけたくない」
「……」

 バーガーは不意打ちに赤面した。よもや、ゲットーの口から「恋人」とという言葉が出てこようとは。しかも
その、ゲットーの言うところの「恋人」が自分を指す言葉であることになぜか驚愕したのだ。
日頃は自分のことをけなすか、煩がるか、叱るかで、ベッドを共にする関係になっても今ひとつゲットーが
自分をどう思っているのか判らずにいたところにこの台詞で、さすがのお調子者もただ面食らうしか無い。

「直ぐに戻るから、待ってろ」
「……あの…、あのさ」
きっと今の俺は不細工だろうなと思う。頬に残る傷を恥じたことは一度も無いが、やはりこのような濡れ場には
不似合いだ。いや、そんなことはどうだっていい。
「俺、今すぐにあんたが欲しいんだよ」

今度はゲットーが頬を染める番だ。

「俺は全然気にならねえし、それに……汗臭いライルって……なんか、いいじゃん。新鮮で」
いつもゲットーは身体から良いにおいをさせていて、それが気取っているようで鼻持ちならないと
思っていたのはいつのことだったろう。今はもう、離れているときはその匂いが恋しくてたまらない。
そんなことは絶対に言わないけれど。

でも、たまには素のままのゲットーが欲しい。
自分を求めてなりふり構わず雄の匂いを発散させて欲しい。本当にこの、男の俺が欲しいなら。


 軽くズボンを履き直し、バーガーはさっとベッドを下りるとゲットーの右手をつかんだ。
「フォムト」
「…早くこの手で俺を可愛がれよ」
自分で言って気恥ずかしいのか、変な色に顔を染めたバーガーは滑稽だが、それでも。

この、自分とは正反対の男は何と魅力的なのだろう。

「この指で……俺を」
掴んだ手を離さず、細長く品の良いゲットーの指に己の指を絡ませ、バーガーはゲットーに口づける。
はじめは浅く、そして次第に深く唇を交差させ、舌で互いを求め合った。
遠慮無く見開いたままの瞳は吸い込まれそうな澄んだ青い色だ。その中に自分の姿を探す。彼の中に
いるのは今、自分一人だけなのだ。
「気にならないのか」
「全然」
再びベッドへともつれ込む。先ほどよりも性急に互いの服をむしり取った。




「それにしてもあけすけな誘い方だな、『すっきりしよう』とは」
事後のけだるい空気の中、二人の身体は汗を滲ませ上気している。先刻、トレーニングをしていたことを思えば
かなりの運動量をこなしたことになるな、とゲットーは独りごちた。
「え?あけすけって?あ、そうだ、今から行こうぜ、すっきりしに。丁度いいや」
「どういうことだ?」
「鎮守府の地下に大浴場があるんだってさ。何でもゲール閣下が自分のためだけに内密に作らせたらしいけどな。
それが今回、ドメル司令の異動のおかげで、副司令殿の豪華かつ品の無い大風呂が全隊員へ開放されたってわけ」
「……」
「あれえ、知らなかったの?」

ぷい、とそっぽを向いたゲットーの耳が赤くなっているのを見、バーガーは口の片端をきゅ、とつり上げた。
「へえ、ライルは俺とヤってすっきりしたかったんだ」
「……お前が紛らわしい言い方をするから」
ゲットーが「すっきり」をいかがわしい意味合いに勘違いしたことを知り、有頂天になったバーガーは余計に口を軽くした。
「おい、スッキリした?したよなあ、タップリ出したもんなぁ」
「黙れ」
よほど恥ずかしいのかあちらを向いたままのゲットーににじり寄り、バーガーはその肩へ両腕をまわした。
「言えよ。俺とヤってスッキリ、気持ちよかった、って」
「……」
答えないゲットーのうなじに唇を這わせ、息を吹きかけるように「ライル、どうなの?言ってくれよ」と囁く。
その囁きはゲットーの身体の芯を痺れさせる。そして再び欲望をかき立てる。
「なあ、ライル。……俺のこと、欲しくてヤってんの?それとも、女の代用?」
少し陰りを帯びたその物言いに、たまらなくなりゲットーは「馬鹿だな」と呟いた。

「お前としたかったんだ。それくらい判れ。……本当に、お前は馬鹿だ。馬鹿で図々しくて無神経で」
「何だよ、言いたい放題言いやがって」

「好きだよ」

気色ばんでいたバーガーの動作が止まる。瞬きすらしなくなり、ゲットーに寄りかかったまま硬直した。

「さっきも言ったじゃないか。恋人を汗まみれの身体で抱きたく無い、って。何度も言わせるな馬鹿」

「………」
目を見開いたまま変な顔をし真っ赤になったバーガーをくすりと笑い、ゲットーはその紫の髪の毛を
くしゃくしゃとかき乱す。柔らかな毛は指の間でするすると踊る。
「では当初の目的であった副司令殿の豪華な浴場へ行こうか。な、バーガー少佐」
「……あ、う、…ん……」
ゲットーは自分が先にベッドから下り立つと、すっかりおとなしくなったバーガーの手を取り握った。
「ほら」
「………よ、止せよ、手ェ離せよ!恥ずかしい!」
「いいじゃないか、何も恥じることはない」


 地下への道中、バーガーは恥ずかしげにキョロキョロと辺りを見回している。それでも手は離れない。
ゲットーはほくそ笑んだ。
フォムト、まだお前が俺をたぶらかそうなんて百年は有に早いんだぞ、と。








────────終────────