誓約


2199第4章にて、デスラー総統のドメル将軍への叙勲シーンがありましたが、今作も旧作同様
二人の間に何やら微妙な距離が存在することが伺えます。それが互いの牽制であるのか、ドメルのデスラーに
対する不信なのかはわかりません。2199はまだ先があるので二人の関係も何かしら明らかになればいいなと思って
いるのですが、それが待てません…(*´Д`)
 で、ついつい、二人の過去を想像しちゃったりして、きっとこんな繋がりがあったんじゃないかなと。(2013.02.14)
              
このSSは「エルク・ドメル×アベルト・デスラー」過去話です。また、エルク16、17歳、アベルト10,11歳程度の
設定で作成しておりますので、…いわゆるショタもの18禁となります。
お嫌いな方は、どうぞお読みになられませんようくれぐれもお願いいたします。











 静かな室内に、自分の浅ましい喘ぎ声だけが響いている。
美しい調度に囲まれた部屋。大柄な自分が横たわってもまだ余りあるベッド。美しい光沢を放つ敷布。
天井から豊かなドレープをもつ薄布が帳となっている。

「あ、あ……アベルト、…さ、ま……」

「…好いんだね、エルク。……こんなに……」

 武骨な自分にはまったく似合わぬこの部屋。
美しい我が主君、アベルト・デスラー閣下の部屋に私は居る。
誘われるままに彼の寝室へと赴き、心の奥底にあった、己でも気付かなかった欲望を彼は探り出して来、
私に見せつけた。


 一時間ほど前のこと────


「では本日はこれで失礼いたします。お疲れさまでした」

 私はアベルト・デスラー付きの武官としての一日の役目を終え、自室に戻ろうとしていた。
そんな私をアベルトは引き留めると、ちょっと来て、と寝室へと手を引いて行く。
子どもらしい、とは言いかねるアベルトの奇妙な行動に私は警戒と同時に好奇心を覚えた。

 彼の寝室はまるでおとぎ話の王子や姫のような美しく、愛らしい部屋で私は戸惑った。
そこで彼はいきなり言ったのだ。

「エルクは僕のことが好きだろう?」

 私はその言葉の真意を図りかねたが、「尊敬しております、閣下」と答えた。
「そうじゃないよ。君は、僕に欲望を感じて居るんだろう。わかるよ」
アベルトは平然と言いはなつ。私は狼狽えた。年端もいかぬ子どもにこんなことを言われ、
慌てぬ男などこの世にいるだろうか。

「ふふ、どうしてそう思うのかっていう顔をしているね。そう、君は真面目で、優秀な軍人だ。
決して幼女趣味も無いし、男色家でも無い……」
アベルトの瞳は妖しく輝く。
「でも、君にとって僕は特別なんだ。抗えぬ本能がそう言っている。ねえ、エルクは僕のことを
思って自慰をするんだよね」
「そ、そんなことは…っ!」

「見て」

 狼狽を越え恐怖すら感じはじめた私の目の前で、アベルトはゆっくりと服を脱ぎ始めた。
か細い骨格、まだ未発達の筋肉。すらりとのびた手足は清潔で、何の色香も纏ってはいない。
アベルトは躊躇うことなく、上着を床に落とした。
薄い皮膚、あるかないかわからぬ程の淡い乳首、もちろん体毛など見あたらない。

 私は目を逸らすどころか、食い入るようにその様に見入った。
情けない、なんと私は未熟なのだろう、と己を叱咤しながらそれでも目が離せない。

 するすると小さなズボンが少年の身体から下りてゆく。
「い、いけません、アベルトさま……」
さすがに私は思わず顔を逸らし、目をきつく閉じた。

「見ていいんだよ。だって僕は男だし、子どもだ。一般的な男性の欲望の対象じゃない」

狼狽える私をくすくすと笑いながらアベルトは言う。「ほら、見て。見るんだよ、エルク」

 妖精のような身体がくるりと一回転して見せた。
白い肌、なだらかな、でも女性とは全く異なる身体の曲線。細い骨。
そして、自分と同じものとはとても思えない、彼の中心にある年齢相応に未発達な性器。
まるで果実のように愛らしく垂れているその小さなものを、何故か口に含みたい衝動に駆られた。

 確かに、アベルトの言った通りだった。
私は彼の美しい顔の造作に、細い金色の髪に、青い瞳を覆う長い睫毛に欲情したことがある。
思わず帰宅し、独りになるやいなや狂ったように自慰をした。
射精の瞬間は、目の前にアベルトの美しい顔を思い浮かべた。
あたかも、その目や、鼻や、唇、金色の髪の毛を己の欲望で汚すかのように。

「今度はエルクが脱いで」
「えっ…いえ、…」
「僕だけ脱いで、君は脱がないなんておかしいよ」
「……」

 アベルトに比べると、自分の肉体は野獣のようなものだ。
他人より大柄で筋肉質の身体に細い箇所など無く、体毛もしっかりと生えている。
美しい、天使のようなアベルトを前にして私は己の醜い肉体を恥じた。
それよりも既に私の前は大きく腫れており、ズボンの前を押し上げている。
逃げられるものならば逃げ出したかった。

「早く、ズボンも下ろして」

変声期をまだ迎えていない、鈴を転がしたような軽やかな声で、アベルトは私に命じた。
主君の命令は絶対だった。

私は消えてなくなりたいほどに恥じ入りながらズボンを下着ごと下ろした。
己の、かたく上向いた性器が跳ねる。

「ああ、……エルク……どうして君のそこはそんなになっちゃったの?」

にっこりと微笑み全裸のまま近づいてくるアベルトは最早天使ではなかった。
悪魔だ。

「ベッドに……」

 アベルトは私の手を引き、ベッドへ横たわるよう命じた。
「エルクの身体はとても逞しいね。僕もいずれ、こんな身体になるのかな……」
小さな掌が肌理の粗い男の肌を撫でる。
「身体は大きいけれど、乳首は小さいんだ。女じゃないもんね」
アベルトは私の身体をいいように弄び上機嫌なようだ。

「閣下、……お止めいただけませんか……」
掠れた声で気弱に呟く。こんなことは止めなければと思う反面、恐ろしい程の情欲がふつふつと湧き
上がってくる。
「いいの?エルク、ここをこんなにしたままで」
アベルトは笑いながら、私の性器をちょん、と指で弾いた。思わず腰を退いてしまう。
「してあげるから」

 私は耳を疑った。

が、アベルトの言葉を確認する間もなく、小さな手は私のものに触れ、小さな指で、きゅ、と握る。

「あ、っ……!アベルトさま、や、止めてくださいっ!」

取り乱し大声を上げた私に、アベルトは口の前に伸ばした人差し指を押し当て「しいっ」と小さく囁いた。

「男の人は、こうすると気持ちいいんでしょ」
「な、なりません、こんな…こんな穢れた……」
「エルク」

嫣然と微笑む様は手練れの女のようだ。でも私はまだ、女性と肌を重ねたことは無い。
そんな私の欲望を、この少年はいとも容易く導き出してゆく。


 アベルトはドメルの両脚を割って入り、彼の逞しい太腿にしなだれかかり、己の頬を擦り寄せた。

「僕と、こうしたいのだろう?」

ドメルの、脂肪の無い引き締まった内股にアベルトは唇を滑らせる。その瞳はドメルをしっかりと
捉えたままに。

握った手をゆるゆると動かし始めた。ドメルは目を閉じ、息を呑む。
「どんどん…大きくなっていくよ、エルク」
ドメルの片脚を曲げ、そちらに寄りかかったままアベルトはその小さな手にあまるほど逞しくなった
ものを、まるで焦らすかのようにゆっくりと扱き続けた。

「あ、ああ…、どうして、このような……」

ドメルは罪の重さに怯えつつも、アベルトの手淫にすっかり身を任せ、官能に溺れていく。
アベルトは静かに笑みを浮かべたまま、ドメルを見やり、「これ、見て」と言う。
「何か、…溢れてきた……ふふふ…エルク、これはなあに?」
「……さ、触らないで……」

 困惑しつつも本能に逆らえないドメルはアベルトを引き離そうとはしない。
その、葛藤に歪む表情を愉しみながらアベルトは握った手の中のものにとろり、と透明な唾液を零した。
握る手を蠢かせると唾液に濡れたそれはくちゅ、くちゅと卑猥な音を立てる。

「あ、だ、だめです、ああっ、アベルトさま、あ」

今にも気を遣りそうになりながらドメルは必死に上体を起こし、自分を弄ぶアベルトの薄い肩を両手で掴んだ。
「お、お止めください、…!」
アベルトは意外そうな目をし、ドメルを見上げる。
「どうして?」
「貴方の手が穢れます!こんな…こんなこと……!」

 どうかしている。相手が誘ってきたからと言って。子どもじゃないか。
汚れを知らぬ、まだ変声期も迎えていない子どもに俺はなんてことをさせているのだ。
しかもただの子どもじゃない、アベルトさまに。


 ドメルの必死の形相に、アベルトは完爾と微笑んだ。
行為に反して、無垢な、愛らしい笑顔だった。

「エルク。君は僕のことが本当に好きなんだね。好きでたまらないんだね」
「……」
なんと答えてよいかわからず、ドメルは黙ったまま頷いた。
「じゃあ、どうして止めようとするの?これはどうするつもり?」
「……自分で、…処理します」

先刻までこのあどけない顔に精液が散る様を想像していたというのに、私は何という偽善者だ。
「でも、僕もエルクが好きなんだよ」

 アベルトの声はどこまでも澄んで、どこまでも美しく、禍々しい。
この少年に好意を寄せられ不快に思う輩などこの宇宙に存在するのだろうか?

「好きでも、……なりません」

ドメルの顔は葛藤に歪み、震えていた。
アベルトを拒否した自分を褒めつつも、呪っていた。
良いと言うなら、良いではないか。欲望の赴くままに、この細い身体を壊さんばかりに抱いても
構わないではないか。
そう囁く自分が、偽善者の自分を嘲笑っている。

アベルトはドメルに拒否され、悲しそうに目を伏せた。

「エルクは…エルクは僕に何もしてくれてないじゃないか」

なんと愛らしい非難。

「僕を好きなら、キスをしてくれてもいいじゃないか。抱きしめてくれたって、いいじゃないか」

細い肩が寒そうに震える。

「ですが、…私は貴方の部下です。恋人ではありません」
「エルク」

 弱々しくこちらを見上げてくる双眸に、ドメルは息を呑んだ。
長い睫毛がゆっくりと持ち上がってゆき、宝玉に似た青い瞳がこちらを向いてくる。

「エルク」

聞こえるか聞こえないかくらいの微かな声でアベルトはドメルの名を呼んだ。



 ドメルの中で何かが弾けた。

「アベルト様!」

破滅の鐘が鳴り響く。

 押し倒した身体はあまりに軽く、のしかかれば折れてしまいそうだった。
「エルク」
呼ぶ声は小さく幼い。

 その唇に、己の唇を重ねた。ただ貪り尽くすような口づけを、アベルトがどう感じるかなど
考えもせず、滑らかで薄い肌に唇を押しつける。
「もっと、もっとして、エルク」
幼い声が欲情を煽る。
「アベルト様、アベルト様…」
激しくいきり立った己のものを薄い腹に押しつけた。柔らかい肌を突き破り達する様さえ思い浮かべる。
ひとしきりアベルトの身体に口づけると、ドメルはいったん顔をあげ、アベルトの全身を見やった。

 幼い身体に情欲の痕を付けた己を軽蔑しつつも、欲望は膨れあがるばかりだ。
アベルトの未成熟な性器が僅かながら上向いている。
手をのばし、そっと触れた。乱暴に扱えば壊れてしまいそうだった。
「あ……」
幼い声が甘い艶に濡れる。


 指の腹で優しく摘み、愛撫した。
「なんだか…くすぐったいよ……」
ふるふると震えながらアベルトが潤んだ瞳を向けてくる。乱れた金色の髪が眩しい。汗ばむ肌からは
柔らかな匂いが立ち、ドメルの鼻腔をくすぐる。
「これが、好いのですよ」
そう言ってやりながら、ドメルはアベルトのものとは反対に醜悪なほどに逞しくそそり立つ己の
ものを手に握り、きつく扱く。
「ん、、ねえ、エルクの…僕に、やらせて……」
喘ぎながらアベルトが言うものの、ドメルはその命令には従わなかった。

「もう、先程……十分に癒していただきました。これ以上は、いけません」
ドメルは真剣な眼差しでアベルトを見つめる。
「これ以上…あなたに触れられたら、私は……人で無くなってしまう」


 今だってじゅうぶん非道い行為をしているくせに。

「アベルト様。私に…跨って」

 アベルトは無言で頷き、ドメルの腹に乗った。その小さな身体を自分の胸へと引き寄せる。

「ああ、……アベルト様、あなたが良く見える」
「……エルク……」
「このまま、私を見下ろしていてください。醜い肉欲に屈し、貴方を汚さんと欲する私を。醜い私を」
「エルクは醜くなんか無いよ。ねえ、僕にも触らせて。君の熱いものを」
アベルトはそう言い、後ろを振り返ろうとする。
「駄目です!」
荒い息を吐きながら、ドメルはアベルトの細い手首を握る。
「あうっ」
強い力で掴まれ、アベルトの淡くなだらかな曲線を描く眉が歪んだ。
「駄目です、見ては…見てはいけません」
「ひどいよ、エルク」

 もう、見られたくなかった、その美しい瞳に。貴方の瞳を汚したくない。
必死に止めているのだ、貴方のその細い身体を蹂躙せんとする、恐れも知らぬ淫らな欲望を。

「アベルト様……」

 自虐の念はむしろ己をますます昂ぶらせる。
美しい裸体が今目の前にある。
ああ、貴方の全てを手に入れられるなら、私は悪魔に魂を売り渡しても構わない。

「綺麗です、アベルト様。貴方は私の憧れだ。私の宝だ」
「エルク」
ドメルの熱が伝わったのか、アベルトもまた頬を上気させ、うっとりとドメルを見下ろした。

「君はいけない人だね、エルク」
「アベルトさま、……」
「でも、僕は君にご褒美をあげるよ」


 アベルトは膝立ちになると一層ドメルの身体を這い上がり、その下あごのあたりまでやってきた。

「ほら。舐めて」

 ドメルの前に突き出されたのは、愛らしい、まるで菓子のようなアベルトの性器だ。

ドメルは僅かに上体を起こし、舌をのばす。目はアベルトから一瞬たりとも離さない。
アベルトもまた、天使のような微笑みを浮かべたままドメルを凝視している。

「ああ……エルク、……くすぐったい……」

胸に少年を乗せ、その中心を口に含み舌で転がす。
アベルトのうわずった喘ぎ声がドメルの心を蕩かせる。

「変に…なっちゃう……っ……!」

泣き出しそうな声をあげたアベルトが激しく身体を震わせた瞬間、ドメルは口の中に僅かながら
精液らしき液体が拡がったのを感じた。

「エルク……エルク…僕……」

 ひくひくと震え続けるアベルトの頬に手をやり、「いいのですよ」とドメルは囁く。
貴方にならば、何をされても構わない。


「エルク、…好きだよ……」

はにかみを見せつつ、アベルトはふう、と力が抜けたようにドメルの身体にしなだれかかり、
肩と首の間に顔を埋めた。

「……アベルト様……」


汗の匂いを嗅ぎながら、ドメルは手を動かし続けていた。

「ねえ、エルク、気持ちいいのかい?僕の裸を見て、興奮しているの?」
「はい、アベルトさま、私は……」
「……それなら、僕から離れないで。僕の傍にいるんだよ、エルク。君は僕のものだよ。いい?」
「はい、……はい」

 アベルトは嫣然と微笑み、ドメルの物欲しげな唇に自分の唇を重ねてゆく。
小さな舌を差し込み、ドメルの舌へと絡めてゆく。

「う…っ……ふ……っ!」

絶頂を迎えたその瞬間、ドメルはアベルトを抱く腕に力を込めた。
彼の性器から噴出した精液がアベルトの腰に散る。

「エルク……済んだの?」
達し、どこか呆然とした表情のドメルの頬を舐め、アベルトは囁きかけた。
ドメルはそれに言葉で答えず、緩慢な動作で頷いてみせる。
「そうなんだ。エルク、君は本当にいけない人だね」
甘い非難が耳に心地良い。今はどれほどの罵倒も私には甘美な愛の囁きにしか聞こえない。
「アベルト様」
ペロペロと動物の子どものようにドメルの顔を舐めていたアベルトの頬を両手でくるむ。
「……どうぞ、私を連れていってください。貴方の描く世界に。貴方の行くところならば、
どこまでも付いてゆきます。……」



「そうだよ」

 ドメルの胸に跨るアベルトは輝かしかった。その光が神のものなのか、悪魔のものなのか、もはや
ドメルには判断は出来なかった。

 その美しい貌がドメルへと下りてゆき、ドメルの唇に軽く口づける。と、その唇の端にアベルトは
歯を立てた。
「うっ」
鋭い痛みにドメルは身体を緊張させる。
次第に口の中に血の味が拡がっていった。

「忘れるな、エルク・ドメル。お前は私のものになったことを。生涯変わらぬ愛を私に捧げたことを」


それはアベルトの声のようで、そうではないようだった。
どこか遙か高いところから聞こえてくる気がした。


「はい、アベルト様……はい……」


ドメルは自我を失ってしまったかのように遠くを見つめたまま、アベルトの小さなからだを
両腕に抱き取りいつまでも離そうとはしなかった。




────────終────────