拍手御礼03

 神宮寺レンは、一ノ瀬トキヤの作る食事を頂くのが好きだった。  最初は『誰かと一緒に食べるから楽しい』もので、やがて『トキヤが一緒だと、彼が普段より食べてくれるから嬉しい』『トキヤと食べると嬉しい、楽しい』に変わり『ワガママを言うと料理を作ってくれる、渋々だけど』『食事を作ってくれるのが当たり前になってきた』と劇的な変化を遂げた頃には付き合い始め、今では『トキヤが作ってくれたトキヤとの食事をトキヤと食べるのがいい』になった。  だからというわけではないが、トキヤと家デートの時は彼が作ってくれて、レンと食べる。それが当たり前の幸せの形になっていた。  今まで何の疑問も浮かばなかったその状況を疑ったのは、女性誌のインタビューがキッカケだ。 「パートナーとは対等であるべき」という話から発展したのだ。 「近頃は料理ができる男性も多いですし、神宮寺さんも料理がおできになられますよね。やはり恋人には手料理を作りたいと思いますか?」 「そうだね、オレは相手に喜んでほしいから、喜んでくれるならもちろん料理もするし、それ以外のこともするよ」  神宮寺レンらしく答えはしたが、内心では衝撃を受けていた。 (どうしてイッチーには貰うばかりだったんだろう?)  それだけトキヤがレンに与えることが上手いのだろうか。たしかにトキヤの料理は美味しいしずっと食べていたい。けれどそれだけでは神宮寺レンの名が廃る。もともと与えられるだけではなく、与えることだって好きだったのだから。  そうと決まればメニューを考えよう。  いつもトキヤはどんな料理を振る舞ってくれていたか。 「……オレが好きなものばっかりなんだよね……」  もちろん最初から好きだったわけではなく、一緒に食べていくうちに好きになった料理もある。それも含めて好きなものばかり作ってくれていた。  トキヤの好みはどうか。 「イッチーは……わりとさっぱりしたものとか、薄味のものとか好きだよね……」  それこそ好みは和食だろうか。けれどレンに作ってくれる時は洋食ばかりだ。自分の分は味付けを変えているかもしれないが、レンの好みに合わせてくれている。  日頃から体調や体型管理を怠らないトキヤだが、レンと食事した後はいつもよりメニューを増やしていないか。唐突に気になった。 「学生時代は食後にトレーニングに付き合ったりしたっけ」  レンの食事の量にも驚かれたりもした。  誘う時は断られるかもと思ったが、正当な理由以外で断られたことはない。それも次にもまた誘おうと思えた。 「……喜んでくれるといいな」  喜んでもらうために、どんなものを作ろう?  和食寄りのメニュー、と思うと、ちらりと脳裏を横切る男もいるが、最初からあの男を頼るのは癪だ。  ひとまず和食のメニューは検索しておこうと、スマホを手に取った。
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