07その言葉で知る無意識の底

 レンの態度がおかしくなった。  これは主にトキヤに対してのみ、当てはまるらしい。  教室で他の女生徒や、翔に対して、あるいはよくつるんでいる者たちに対しては今まで通りだと確認しているので、間違いない。  どうおかしくなったのかと言えば、気が付くと傍にいる。  取り巻きの女生徒たちはどうしたのだと思えば、休み時間や一定の放課後には一緒にいるようだが、気付くと傍にいる。  懐かれるような真似をした覚えはない。  いや、これは懐かれているのか? 「懐かれてんなあ」  翔が朗らかに笑う。朗らかに笑うところではないと思うのだが。 「笑い事ではないんですよ」 「いや、俺から見れば充分笑い事」 「…………」 「ほらほら、アイドル目指してるやつがそんな険しい顔するなって」  綺麗な顔が台無し、と笑われるが、カメラが回っていないところで愛想よく振る舞う必要を感じない。 「おまえら仲悪くはないけど、だからって仲良し! ってわけでもないし。レンなんて特に野郎とつるむのなんて俺らくらいだろ。でもおまえとレンって、水と油ってわけじゃなくて……お茶とコーヒーみたいな感じだろ?」 「どういうたとえですか……」 「どっちも飲み物でカフェインが含まれてるけど違う飲み物ってとこ。似てるけど違うって感じ」 「…………」  レンと自分が似ていると言ったことはある。それをまさかこんなところで翔に似たようなことを言われるとは。 「似たようなところがあるからかなぁ。おまえといて居心地いいことに気付いたんじゃねえの、レンが」 「は?」 「だからアイドルらしからぬ顔するなって」 「カメラが回っていないのでセーフです。それより、なんてことを言うんですか」 「おまえといると落ち着くってこと。俺もそう思ってるとこあるし」 「…………」  そんなことを思われるような真似、まったく身に覚えがない。  何か、勘違いしているのではないか。 「勘違いでも別にいいよ。おまえ、言葉ほど拒絶したり否定したりしないってわかってるから」 「……勝手にわからないでください」 「ふたりとも、人間関係が不器用って感じがするとこ、俺は好きだぞ」 「…………」  当たっているので否定もしかねる。  仕事上の人間関係なら、それなりにあしらうことだってできるようになったのだが。利害が絡まない人間関係は難しい。レンひとりにすら手間取っている。  こんな時、どうすればいいか。それに対する経験値が圧倒的に足りない。いや、音也相手ならなんとなくわかるが、全人類が音也と同じわけはないし、レンや翔を音也と同列にするのは嫌だなと思う。 「何考えてるか、なんて、ほんとのほんとはレンしかわからないからさ。訊いてみろよ。案外おんなじようなこと考えてるかもしれねーぞ」 「おんなじような?」 「おまえが知りたい、って」 「…………」  トキヤは今度こそ黙った。  相手を知りたいと思うのは、ただの好奇心か――それ以外の、それ以上の気持ちに由来するものなのか。  トキヤも同じ気持ちがあると言ったら、あの男はどんな顔をするだろうか。 「……おまえ、熱でもあるのか?」 「は? ありませんよ」 「そうか? でも真っ赤だぞ」 「…………気のせいです」  相手を、レンを知りたいと思うこと。思っていること。  その気持ちの底にある種がなんなのか、そろそろトキヤは気付いていた。
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