そんなふうに見るのは反則だ。
哲雄は心の中で呟く。
口に出して言わないのは、自分をじっと見つめる蓉司がやけに神妙な顔をしているからだ。
「……ダメ、なのか?」
叱られた子供のようにうなだれないで欲しい。すぐに抱きしめたくなってしまうから。
声を震わせないで欲しい。そんな声を聞きたくなくて、唇を塞いでしまいそうになるから。
蓉司からの申し出は嬉しさの反面、困惑を哲雄にもたらした。
「なんで、いきなり」
「……前から、思ってた」
背けられた顔、頬はほんのり赤い。
「俺ばっかりされるのは、不公平なんじゃないかって」
「……気にしなくていいだろ、そんなの」
「気になるだろ、普通」
ほんのわずかに口を尖らせるのは子供のようだ。抱きしめて頭を撫でたくなる衝動を、手のひらを握って堪える。
本当に、気にしなくていいのに。哲雄はいつも、したいからしているだけなのだから。蓉司がしたいと思わないのであれば、強要するつもりもなかった。
「だから、いいだろう? 俺も……したいと、思うから」
蓉司の表情は必死で、縋り付く犬か猫のようだ。邪険に扱えばたちまち耳と尾を力無く垂らしてしまうのは目に見えていた。
だからというわけではないが、哲雄は蓉司の提案を受け入れることにした。蓉司は妙なところで頑固な一面がある。今も、提案を受け入れなければ互いに半裸のこの状態であっても、頑なに拒否されただろう。
それに、悪いことをされるわけではないのだ。むしろ哲雄にしてみれば良いことなわけで――つまり断る理由はなかった。
「……わかった」
溜息混じりに告げると、蓉司の顔がぱっと輝く。
頬を撫でると、手のひらにすり寄るように顔を寄せてくれた。親指で蓉司の唇を軽くなぞる。
その唇で今から。果たしてどんな表情で――と考えると、それだけで兆してしまいそうだった。