認識と知覚

「大丈夫か?」
 視界に入った男が、咄嗟にわからなかった。
 誰だった?
 数秒凝視し、数度瞬きしてようやく気付いた。己の副官だと。
 思い出して安心し、大きく息を吐き出す。身を起こして胡坐をかいた。掻き揚げた髪の根元は湿っていた。汗をかいたらしい。そういえば体中が不快だ。
「……わかんなかったよ。今。おまえが誰だか」
「うなされてたぞ」
 コメントに答えは寄越さず、気遣いの言葉をくれる。オレは黙ったまま、夢を反芻した。
 厭な夢だった。
 内容は覚えていないが、厭だった。割り切れないもどかしさが残る夢。
 起きた時に現実と錯綜する程度には、リアルなものだったのだろう。
 溜息をつき、鬱たる気分を吐き出してから、上体を起こした隣の男に抱きついた。何とも言わずに抱き返してくれる手は暖かい。
 腕も胸も。男は暖かかった。そして気付く。見た夢の正体に。
 情緒も感じられぬ荒い勢いで添う男の唇を奪うと、彼の腰に跨った。悪戯な瞳で見下ろすと、意図を悟ったのだろう、苦い笑いを寄越す。が、反抗する意志を見せないあたり、流されてくれるらしい。
 改めて口付けるとあやすように背を撫でてくれた。
 それで目的の半分が達成できたのだとは、言わないでおく。
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