rise

 かちん。
 ぼっ。
 かち。
 オイルの匂いが鼻腔を掠め、次いで煙草の香りが立ち込める。
 肺の奥まで満たして、ゆっくり吐く。息が白いのは紫煙のせいばかりではない。
 ズボンを引っ掛け、肩にシャツを羽織って窓枠に凭れる。二重窓の外は、水平線の際からじわりじわりと明らんできていた。じきに――年が変わって初めての日が昇る。
「シャンクス」
 名を呼んだ相手は、シーツに埋もれて丸まっていた。声が届いてないのだろう、起きる気配はない。
「シャンクス。夜が明けるぞ」
 初日の出を見たいと言っただろう。
 素足のままベッドに近寄り、肩を揺らしてやる。木の板は冷えており体温を奪ったが、気にならなかった。
「起きるんだろう」
 シーツと毛布を無理矢理剥ぐと、もぞもぞと緩慢に動く。舌足らずな声が「寒い」と苦情を申し立てたが、聞かずに背に触れてやる。びくっと体を震わせて、端へと逃げた。
「何すんだよ…!」
 冷たい、と寝ぼけた目で睨まれても怖くはない。おかげで目が覚めただろう、と笑ってやる。
「感謝してもらいてェもんだな。ほら、今ならまだ間に合う」
 親指で窓の外を指差す。一瞬の沈黙の後、シャンクスは飛び起きて窓辺に駆け寄った。鍵を跳ね、窓を開ける。開けられる窓は小さなものが一つだけだったが、充分用を為した。
「素っ裸で窓を開けるな」
「服着る時間が勿体ねェだろ!」
「風邪を引く」
「大丈夫……」
 言った端から盛大なくしゃみをする。さすがにシャンクスも気まずそうに上目でベックマンを窺った。煙草を咥えたまま苦笑し、毛布を取ると「ほら」と肩から掛けてやった。
「さんきゅー」
「どういたしまして」
「今年もヨロシク」
「こちらこそ、今年も宜しく」
 煙草の味がする口付けの後、朱色に燃える太陽が紺碧から頭を覗かせていた。
 今年もきっと飽きることなく楽しませてくれるのだろうと確信しながら、シャンクスの紅の髪へ口付けた。
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