雨の中、あなたとふたり

 ――どこにいるのかと思えば。
 ベックマンの探し人は霧雨降りしきる中、最上後甲板の端で酒瓶を枕に居眠りをしていた。捜索を開始してから30分後のことである。
 ぐっすり眠っているのを叩き起こすのは何故か気が引けたが、こんな所で居眠る方が悪いと気を取り直し、頬を軽く叩く。
「…お頭。起きろ。風邪引くぞ」
 反応はない。
「お頭」
 もう一度、今度は強めに叩いてみる。が、起きない。小さく溜息をついて赤髪の前に膝を折る。平手にしていた手をそっと頬に添えると、
「狸寝入りしてるなら朝までここで寝ろ」
 頬をつねりあげた。
 途端、ぱちっと音がするのではないかと思うほど目を開けた。つねる手をはたく。
「いってェじゃねぇか!」
「起きてたくせに起きねぇからだ」
「もうちょっと色気のある起こし方はできねぇのか?!」
 シャンクスが口を尖らすと、ベックマンは馬鹿にしたような目で見返した。
「海賊にそんなもんを求めるな」
「船長の要求を満たすのが副船長の役割だろー!」
「要求の種類によりけりだ。どんな起こし方をご所望だったのかは知らんが、言われてもねェことがわかるか」
「ちぇっ、つまんねぇの…」
 起こすときはキスって決まってるだろ、鈍感め、などブツブツ言うシャンクスを放って立ち上がる。どこの国にそんな習慣が決定されているのか、知っているなら是非聞かせて欲しいところだった。口に出して言わなかったのは、酔っ払いの戯言に付き合う趣味を持ち合わせていないからだ。
「早く部屋に入らねェと、ほんとに身体が冷えるぞ」
 霧雨は音もなく降り、気付かぬ間に身体を濡らしていく。この程度の雨、と思うが実は、大雨よりもタチが悪い。濡れた意識がないから、濡れているはずの身体を放置してしまいがちなのだ。
 シャンクスの肩を叩けば、シャツ越しに伝わる体温が常より低く思える。ほら、と急かすようにもう一度叩くと、目をこすりながらこちらへ腕を伸ばしてきた。
「…なんの意味がある?」
「起こせ」
 両腕を差し出して、さも当然の如く起こされるのを待っている。何か言おうと思って口を開きかけたが、代わりに溜息をついた。諦めたのだ。
「………」
「へっへっへ♪ ありがとよっ」
 引かれる力に逆らわず立ち上がり、そのまま勢いを利用して体格のいい身体に抱きつく。
「酔っ払いが…」
「んーvあったかいv」
 そのまま自分の体温を奪ってしまいかねないシャンクスを引き剥がして、船長室へ彼を連行できたのは、それから更に20分後の事となる。 <
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