いい加減日も高くなったし、船員に示しもつかないし、叩き起こしてやろうと思って(この時点で既に示しがついてない)部屋に入ってきたのだが。
「…………」
ほにゃららと幸せそうに眠っている寝顔を見たら気がそがれた。
以前に買ってやった黒いクジラの抱き枕を抱えてシーツの海に丸くなって。まるで猫みたいに。
――これが海賊団の頭か?
思わなくもないけれど。
寝顔だけは邪気がないのでついつい。
「…………」
見入ってしまって、はたと我に返って「何してるんだ俺は」と自分に溜息ついて、何故か罪悪感に見舞われながらもナマの肩を掴む。
「ほら。いい加減起きろ」
「…………」
反応はまったくない。寝息も立てずにぐっすり。
そりゃそうだ。
寝たのはお互い夜があけた頃。…そんな時間まで何してたか、なんて無粋な事は聞かないように。
「お頭。起きろ。昼飯喰いっぱぐれるぞ」
カーテンを開けて日の光の直撃を受けても、小さくムニャムニャ言うだけでまったく目が覚める気配もない。
小さく溜息ついて、肺一杯に空気を吸い込み、腹筋に力をこめた。
「敵襲!!!!」
「……何ッ?!」
ガバッと起き上がる赤髪の眼はパッチリ。条件反射を利用した起床方法、見事成功。さすが頭脳明晰の副船長。
「やっぱりアンタにはこの起こし方が一番みたいだな」
慌ててズボンを穿こうとした赤髪は、ややあってから傍らに立つ男の笑顔に気付いた。
「……嘘?」
「勿論」
騙された事を知って赤髪がもう一度シーツの海に身を投げかけたのを、大きな手が妨害する。
「なんだよー! 眠いんだよー!」
「それは俺も同じだ。さっさと起きろ。夜まで何も食べられなくなるぞ」
「それでもいい。眠い…」
語尾は欠伸に滲んで不明瞭。
寝癖のついた紅い紅い髪をくしゃくしゃに撫でて、「起きろ」と言うと、赤髪は仕方なさそうに伸びをした。そうして差し出されたコップの水を一気に飲み干し、コップを返しながら人差し指で男の顔を間近に呼ぶ。
「オハヨ」
「ああ、おはよう」
もうとっくに昼なんだけどな、と思いながら軽いキスを返してやって離れた。
着替えを手伝う気はないが(片腕がなくてもそれくらいひとりでできるものだ)、再びシーツに溺れないように見張るつもり。
「…天気いいなァ…」
こんな日は腕試しがいいかな?呟きながら白い綿のシャツを着込み、髪の色に似たサッシュを存外器用に巻くのを男は見守る。
ぬるい日差しが南天に達しようとしていた。