サッシュを片手で器用にほどき、もともとキチンと着ていないシャツをとっとと肌から滑り落とし、ズボンを下着ごと脱ぐ。すっ裸になった所でふと、洗面台の上に取り付けた鏡の中の自分と目が合う。
頬の横に夕食の名残を発見し、う、みっともねェと思いながらこする。と、別の跡も発見した。
鎖骨のライン、肩に近いところ。
いつつけられたものだったかと記憶を辿りながら、改めて自分の体を見下ろす。昨日や一昨日には気にならなかったものが、どうして今日に限ってこんなに目につくのか。
ベンに吸われた跡は始め赤っぽかったように記憶していたが今は青黒くなって、まるで打ち身の後の痣みたいに見える。
(こんなトコ打ったりしねェけど、な…)
思いながら暇に任せて他の個所も探してみると、案外たくさん見つかった。
鎖骨以外にも、上腕のやわらかいところや腕と胸の境のあたり、臍の周り、はては内股にまでうっすらと紫色やら消えかかって黄色っぽくなっている跡を見つけた。
なんでこんなトコにッと首をひねるようなところにもうっすら残る跡を見つけ、自問してすぐに理由に思い至り、
「…のヤロウ…」
気恥かしさのあまり、その場にしゃがみこんでしまった。見える場所ですらこの状態なのだから、自分で見えない場所は推して測るばかり。
跡がある場所はどこも、ひどく感じるポイントだった。
ベンはもともと跡をそうそう残すタチではない。稀に気分がノッた時と最中にシャンクスが請うた時にだけ、強く残してくれた。食いちぎる勢いの時がないわけではない(おかげで打ち身の跡のようになってしまうのだが)。
(…改めて見るとスゲェ恥かしいな、オイ…)
明るい所で素で見ているからだろうか。妙に生々しい。その分、情事の最中の自分がとても淫らでどこかおかしいような気がする。いや実際どこかおかしいのかもしれない。
(…だとしても、オレをオカシクさせてんのはアイツだよ、な)
人のせいにしながら鎖骨のあたりにつけられた跡、上腕につけられた跡、下腹周りにつけられた跡、とキスの名残を辿る。それぞれの場所に花弁を散らした時に、彼の武骨な指は自分のどこに触れていたか。―――知らず思い出して体が火照る。
振り切るように蛇口をひねり、少しためらって、でも思い切ってまだ湯になりきってないシャワーの下に入る。
「つっめてェ…」
瞬間的に体の表面は冷えても、中心の熱までは取り払ってはくれない。徐々に熱くなる水に合わせて体がまた疼くように熱を帯びていく。
(ちッ、しょーがねぇなァ…)
ぼやいて、手早く体を洗い始める。アイツは今頃優雅に読書タイムかな、あがったら覚えてろよ、などと物騒なことを思いながら。