Friday midnight blue

 シャワーからあがって頭を拭きながら勝手知ったる台所に寄り、冷蔵庫からポカリのペットボトルを出して飲む。ぺたぺたと足音をたてながら、ソファに座って煙草(LARK)を吸うスモーカーの隣…にではなく、足元に座る。
「なあ、あの話、ホント?」
 ちょこんと膝に顎を乗せて、目線だけスモーカーの顔の方に向ける。
「…?あの話?」
「犬好きのオッサンが言ってたコト」
「…ガープのおっさんのことか」
「そうそう」
「…何か言ってたか?」
「俺が入ってる日にわざわざ店に来るって」
「ああ…」
「ホント?」
「まァな」
「…………」
 無言で頭を膝に押し付けてくる黒髪をわしゃわしゃと撫でる。
「…?どうした?」
「…バカ。わかんねェの?」
 頬を膨らませて睨まれても、生憎スモーカーにはわからなかった。曖昧な表情からスモーカーがわかってないことがわかって、わざとぶっきらぼうに、
「嬉しいんだよ!」
「…そうか」
 そう!と言って、床から喫煙中の男の膝へと座る場所を変える。
「…な、明日…もう今日か。起きたらさ、映画行こ?」
「映画?今面白いのやってるか?」
 エースの背中を支えながら前かがみになって、低いテーブルに置いた灰皿に煙草を押し付ける。
「ん。この前封切りされたヤツなんだけどさ。映画好きな友達が観に行って、面白かったって言うからさ」
「かまわねェが、ラブロマンスは勘弁だぞ?」
「大丈夫♪上映中でも眠れねェ、サスペンス物だってさ♪」
「…サスペンス…」
「いーじゃんかよー!…ヤダ?ダメ?」
 膝の上に座ったまま上目で伺ってくるエースに、溜息ひとつ。
「…ま、久しぶりに映画ってのもいいかもしれねェな…」
「デートっぽいだろ?」
「なんだ?デートっぽいことがしてェだけか?」
「だぁってさァ…あんた、出張とかいって5日くらいいなかったじゃん…」
「仕方ねェだろ、愛知県警との合同捜査だったんだ」
 子供のように抱きついてくるのを抱き返して、ふと気付いた。まさかな、と思いながら生乾きの後ろ頭を撫でてやる。
「……寂しかった、とかいうか?」
「っ!」
 スモーカーの言葉に反応して、ガバッと顔を起こす。その顔は…熟したトマトもかくや、とばかりに赤かった。
「ばっ…ンなわけ、あるかっ」
「エース…おまえ、いっつも(おおむね)素直なのに、こういう時だけは素直じゃねェんだなァ…」
「うっさいよスモーカー!もう…いいから脱げ!」
「…朝の6時になろうとしてるぞ?」
 壁にかかった時計を見ながら、ややうんざりした様子で言うのに、ガッと顔をつかんで正面から見つめる。
「5日ぶりに会った恋人と、したくねェっての?」
「映画に行くんじゃなかったのか…」
「昼前に起きて、昼から行くの!いいだろ、それで」
「まぁ…いいけどな…」
 エースの表情を見るに、それはすでに決定事項なのだろう。だとしたらそれを覆すことはスモーカーには困難だ。なぜなら…カワイイ恋人にはやっぱり弱いものなのだ。厳つい顔でもスモーカーだって人の子、ということ…誰ですかそこで「似合わねェとか言ってる人は。
「♪んじゃ、ベッド行こうベッド♪運べよー♪」
「……………」
「ったく、こういう時は素直じゃねェんだからなァ…あんたも…。5日ぶりに会えて嬉しいくせにーv」
「…そういうことにしといてくれ」
 およ、珍しい。素直に認めた。と思った時には、一人暮らしには不相応に大きなベッドに下ろされた。覆い被さってくるスモーカーの首に両腕を絡めて、キスを求める。
 頭の端で、ブランチのメニューを考えながら。
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