MY OH MY

 賑やかな(というより騒々しい)夕食が終わり、片付けと翌日の仕込みが終わる頃にはゾロが寝酒を求めてキッチンへやってくる。
 どうせ晩酌の相手をするならナミさんやビビちゃんの方がいいに決まってるんだが、日課になっちまってることに文句をいっても仕方ないので、簡単なツマミを作ってやる。ルフィはとっくに寝ちまってるだろうから、それだけで静かだ。
 ゾロは酒だけでも飲めるらしいが、俺はどっちかっていうとツマミがあった方がいい。酒を飲みながら何か食べる方が好きだ。その方が悪酔いしないし。今日のツマミはシメジのバター炒めとチーズ。これだけでどれだけの量の酒が空くんだろうな。
 シンプルなツマミをテーブルに置くと、ゾロは箸を器用に使ってバター炒めをつまむ。最近気付いたが、コイツは手の込んだ料理よりこういうシンプルな料理の方が好きらしい。腕の振るい甲斐がないことこの上ないが、かえってシンプルな料理ほど食材本来の味によるところが大きい。塩加減とか間違えたら即ばれる。ごまかしが利かないから、かえって難しい。
 …シンプルね…コイツの生き方とおんなじだな。そんな生き方をバカにする気は毛頭ない。虚飾にまみれて生きるより、そっちの方が難しいような気がするから。

「テメエに惚れられた女はきっと、幸せだな」
「あン?」
 俺の唐突な言葉に怪訝な表情。…そりゃそうだよな。いくらなんでもイキナリすぎたよな。脈絡ねェもんな。ていうか、沈黙を破った言葉がそれじゃあ、フツー変に思うか。
 とはいえ、言った言葉は無かったことには出来ないわけで。俺は言葉を続けた。思わずつぶやいちまった言葉が、不自然にならないように。
「生涯ずっとその女を護って、愛し続けていくだろうってのがわかるからさ」
「…………」
 すンげェ複雑そうな表情してやがる。…わかってるさ、柄にもねェこと言ってるって。…なんか反応しろよ。どうしていいか俺の方がわかんねーじゃねェか…。
 俺の祈りが通じたのかどうかはわからないが、ゾロは飲み干したグラスを置いた。
「…そうゆうオマエはどうなんだ?」
「俺?……俺は…ダメだろ」
 苦笑。
「なにしろホレっぽいからなァ…」
 これでも俺は自分のこと、つかんでるんだぜ?
「女の子は大好きだし、護らなきゃなんねーとか思うけど…ひとりの子をずっと護っていけるかどうかは、正直…わかんねえ…」
 自嘲交じりの言葉を「わかってんじゃねェか」とでも笑われると思ったが、ゾロは笑わなかった。どころか、やに真剣な顔してやがる。…酔ってる…わけじゃなさそうだけど。コイツこんなヤツだったっけ?
「女の方がずっとオマエを追いかけてきてもか?」
「……は?」
「だから、女の方がずっとオマエを好きでもダメなのか?」
「……考えたこともねェ…」
 …長い人生、そんなこともあるかもしれねェな、確かに。でも今まで、そんなこと思いもしなかった。女の子の方から、俺を好きに、ね…ずっと?…ずっとっていつまでだろ。わかんねェ。…わかんねェよ。
「………俺が女の子を追いかけることはあっても、追いかけられたことって無ェからなあ」
 目が泳いだ事に気が付かれただろうか。
 言葉に混ぜた溜息に気付かれただろうか。
 …どうしてコイツにそんなことを気付かれたくないんだろうか。
 わかんねェ。…わかんねェことだらけだな…
 ゾロは俺のそんな気持ちを知ってか知らずか、そうかと言っただけで、それ以上何も言ってこなかった。
 気遣いができるヤツとも思ってなかったが、正直ありがたかった。たぶん…それ以上何か言おうとしたら、俺は泣いたに違いない。
 理由なんかわからない。けれど、多分…泣いた。
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