部屋はまだ暗い。夜明けまでにはまだ間があるらしい。
朝まで時間があるから、と再度目をつぶって眠ろうとするが、何度寝返りをうっても何匹羊を数えても、ちっともまんじりともしない。
体は眠りたがっているのだが…頭が冴えているらしい。昼間に頭を使うような作業をした覚えもないが、眠れないものはどうしようもない。
ばさりと毛布をどかして、むっくり起き上がる。
眠れないなら、眠れるようにするまでだ。
幸い、昼間に襲った商船のお宝の中に遊ぶにはうってつけのシロモノがあったハズ。
ひとりで遊ぶのはつまらないから、もちろん―――アイツも巻きこんで。
「……ちょうど今日は3月14日だから、いーよな…?」
2月14日のお返し、ってことにして…。
考え出すと楽しくなって、いそいそと自室に持ち返った宝箱を漁り始めた。
++++++++++++++++++++
ふと、息苦しさと少しの肌寒さで目が覚める。「あ、やっと起きたな」
「……なにやってんだ、あんた?」
暗がりの中でも誰だかわかる。
アタリマエだ。人が寝てる時に侵入してくる人間など、この船にはひとりしかいない。
「さっき起きたら目ェ冴えちまってさ。オマエと遊ぼうと思ってv」
そう言って笑う楽しそうな表情がすぐ目の前。どうやら毛布をはいで自分の上にまたがっているらしい。それを確認すると、心の底から呆れ果てた声で、
「…その奇妙なナリはなんだ?」
シャンクスの姿を改めて上から下まで眺める。
ドアの横の明かりしかついていないが、そんな淡い明かりの中でも充分にどんな姿なのかはわかる。わからないのは…何故そんな姿なのか、だ。
頭に耳(猫耳…のようだ)、胸にファーのチューブトップ(というか、ストラップレスのブラジャーと言った方が正しいだろうか)、ボクサーパンツもファーで…どうやら後ろには長めの尻尾がついているらしい(猫…だろう)。おまけにご丁寧にも、ファーの手袋まで着用している(猫手だ)。色はどれも黒。黒猫…というところか。
なんだ? と問われたシャンクスは、にやりと笑って答える。
「けっこうイイカンジと思わねェ? 昼の商船の売り物だったヤツだぜ、コレ」
ミョーなシロモノがいっぱいあったもんな〜、金もあったけど、なんて言うシャンクスの声が弾んでいる。…とても楽しそうだ。きっと今は何を言っても無駄だろう。
「………苦しくねェのか? 女物だろう、それ?」
「そりゃ、多少は苦しいけどさ。でも面白さには変えらんねェだろ?」
満面に笑むシャンクス。…とても楽しそうだ。これには、負ける。やれやれ、と小さく溜息を吐く。
「……まあな。面白いモンを見させてもらった」
「…って、おい! さっさと寝るなよ!」
毛布をかぶろうとした男から毛布を剥ぎ取る。
噛みつく勢いのシャンクスに溜息1つ吐いて、
「まだなにかあるのか?」
40時間起きっぱなしで、いい加減眠いんだがな…というベンにかまわず、
「ったり前だろ! こんなカッコして、なんでわざわざフツウに寝なきゃなんねェンだよ! するに決まってるだろ!」
「…なにを?」
「セックス!」
キッパリ言い切ると、キスを仕掛ける。
やや乱暴にくちづけて…くちびるをぺろりと舐めてくる。
「……にゃあ?」
「……………」
一気に脱力。
「アレ?…ベン、どした??」
「……何考えてんだ、あんたは…」
「ン? せっかくこーゆーカッコなんだし、ちょっと遊んでみようかなァって」
「遊んで、ね…」
「こーゆーの、良くねェ?」
「…ごくたまには、な」
「♪ にゃv」
肩口に懐いてくるシャンクスの、黒いファーの胸元に手を伸ばした。
弛緩したカラダから、ズルリと己を抜き出す。ヒクリと震えてベンが出て行くのを拒む反応を示したが、いつまでもつながっているわけにもいくまい。さっさと抜いてやって、零れ出る白液を適当な布で拭ってやる。そうして、なんとなく下着もキチンと直してやった。
腕の中の人の意識は途切れがちで、そのまま寝かせてやろうとゆっくり体を横たえてやる。もぞもぞしていたが、やがてベンの腕の中でおさまりが良い所を見つけたらしく、こちらをむいたまま抱きついてくる。猫耳はついたままだ。抱き返してやりながら、後ろ頭を優しく撫でる。
「やれやれ…結局猫で通したな…」
イク時に名前は呼ばれたけれども。後の喘ぐ声はすべて、猫言語だった。
苦笑混じりに煙草に手を伸ばし、1本とると火をつける。
「なんでまたこんな奇妙なことを思いつくんだか…」
目の端にカレンダーが映った。何とはなしに日付を見て…合点がいく。
3月14日。
ホワイトデー、と呼ばれる日。
「………先月のお返し、ってことか…?」
それともたんに気分だったのか。
まあいい、と煙を吐く。
「…起きたら着替え持ってきてやらねェとな…」
こんな格好で船内をうろつかれてはたまらない。
本人に自覚があるのかどうかはわからないが…シャンクスのそういう格好・肌は、あらゆる意味で目の毒なのだから…。
起きて1番にする仕事が見つかったベンは、根元まで吸った煙草をもみけし、愛しい人を抱え直して、中断された眠りへと落ちていった。
珍しく寝坊したベンが船内の騒ぎで目を覚ましたのは、昼前のことになる。