Break Time

 二度ドアをノックして、船長室に入る。
「お頭」
 呼びかけに対する返事は無い。
 いないのかと思って部屋を見まわす。
 パラ、パラという音が聞こえて視線を下げると、ベッドを背もたれに床に座りこんで熱心に本をめくる船長を見つけた。
「……お頭?」
 シャンクスは本を読むとその世界に没頭して周りが見えなくなる。人の話に至っては、聞いてないどころか聞こえてない。きっと今ベンが入ってきたのにも気付いてないに違いない。
 低く靴音を鳴らして傍らに歩み寄る。煙草は行きがけに机の上の灰皿でもみ消した。
「…静かだと思ったら読書中か。何を読んでるんだ?」
 頭をポンポンと撫でると、ビクッと驚いたシャンクスが見上げてきた。
「ッ!!!…って、オマエかァ…気配殺して近付くなよ!」
「なんであんたの近くに行くのにそんな真似しなきゃなんねェんだ? あんた本読んでたから気付かなかっただけだろ」
「う……」
 言葉に詰まったシャンクスの頭を、犬にするようにわしゃわしゃと撫でる。
「よくのめりこめるな…で? 何読んでたんだ?」
「んっと…どっかの国の戦争物語」
「戦争物語? ガリア戦記か? 三国志演義? 平家物語じゃねェよな?」
「反三国志」
 答えながら、もっと撫でろとベンの脚にすりつく。
「…またマニアなモノを読んでるな」
「読んだことあんの?」
 見上げる頭をまた撫でる。
「実際にはまだ読んでない」
「読んでみろよコレ。三国志演義の方は読んだんだろ?」
「ああ。ガキの頃にな」
「あっちと違いすぎてすげぇウケるから、読んでみろよ。オレが読み終わったら貸してやるからさ」
「ああ、そうさせてもらおう。で…一休みするか?」
「ん。そのつもりで来たんだろ?」
「まァな…今日は何を飲むんだ?」
「このまえ買った”カルカッタ・オークション”!」
「了解…」
「オマエは? またシティブレンド?」
「いや…今日はマイルドブレンド」
「オッケー♪」
 ベンはシャンクスが飲む紅茶を淹れるために。
 シャンクスはベンが飲むコーヒーを淹れるために。
 それぞれその場を暫時離れる。
 自分の飲むものを自分で淹れるのではなく、相手が飲むものを互いに淹れ合う。
 いつの頃からかそうなった、ブレイクタイムの決まりごと。
「…今日のお茶請け菓子は?」
「オレ様特製レーズンクッキー♪」
「そいつはうまそうだ」


 部屋に満ちる紅茶とコーヒーの香り。
 他愛の無いおしゃべり。

 ブレイクタイム。

 平和な1日の、平和な時間。
>>> go back