戦闘のあった夜と満月前後には、シャンクスが必ず部屋に来る。
夜眠る前に本を読むのが、少年のころからの俺の習慣だった。――その日の夜も例外ではない。
そしてこの時に煙草を吸わないのも習慣。
その時間だけは昼に何があっても穏やかで、心地いい時間だった。
夜更けと言っていい時間。
コンコン、とノックされ、俺の返事を待たずにドアが開かれる。ひょっこり姿を見せた赤い髪。無論、シャンクス以外のヒトであるわけがない。
「…いい?」
それだけ聞いてくる。
「…ああ…」
本から目も上げずに応えると、シャンクスがベッドにもぐりこんでくる。
「へへ…あったけぇ…」
嬉しそうに笑ってすり寄って来る。その表情は子供さながらではあったが、俺の視界は文字で占領されていたために見えない。…見なくてもわかる。その声音で、どんな表情をしているのか。
だが、それが気に食わなかったのだろう。
「…本なんか読んでないでさぁ…」
俺の手から本を取り上げてベッドサイドに置き、シーツの中で動いてまたがってくる。
「やろーぜ」
イタズラ小僧のように笑い、顔を寄せてくる。ちゅ、ちゅっと口付けて、自分から舌を挿し入れる。すぐに応じて絡めてやる。シャンクスはくぐもった声を吐きながら自分でも絡めてくる。
俺は自分の付き合いのよさに半ば感心、半ば呆れながら大きな手でシャツをはだけさせて、褐色の素肌をまさぐる。
右胸の小さな突起を引っかくように触れる。
「ッん…、…」
何度か引っかいてそこを立ちあがらせると、右手でシャンクスの肌をなでながらズボンに手をかける。
「ホラ…あんたが脱がねぇと、触れねぇぜ?」
「わぁってるよ…」
溜息に似た息を吐き、体を起こすとすぐにズボンをベッドに下に脱ぎ捨てた。そしてもう一度、俺の上に四つ這いでまたがる。
その間に俺は自分のシャツを脱いでいた。シャンクスはこの胸に口付け、小さく痕を残す。
「…痕つけられんのは嫌いなクセに、つけるのは好きだな、あんたは」
「なんだよ…別にオレにつけられるのは嫌いじゃねぇんだろ?」
「ああ。ただ、つけられるのも好きだが、つけるのはもっと好きだぜ?」
クス、ッと笑って少し上体を起こし、シャンクスの左腕の付け根をきつく吸い上げ、軽く噛む。
「バァッカ…! つけんなって…ッ、ん…」
咎めの言葉は口唇をもって塞ぐ。
「…機嫌とりのつもりか?」
「いいや? どちらかと言うと、さっきの続きのつもりだ。
……するんだろ?」
俺の問いに、ニヤリと笑う。
「アタリマエだ」
知りすぎた体にいくつか花弁を散らし、舌と指で充分に濡らしたシャンクスの中へ、俺自身を沈める。
初めて寝てからずいぶん経つが…最初に入れようとする時にはいつも、蕾が震える。
背と喉を軽くのけぞらせて…内部が俺の侵入を歓迎する。待ち望んでいたと言わんばかりに。
なめらかな褐色の肌が、わずかに朱に染まる。
「ッ・あ…ッ」
隠そうともしない嬌声。
その声に煽られる俺。
体だけでなく声までもが俺を誘うヒト。
雫を溢れさせながら頭をもたげるシャンクスの中心に指を絡め、形をなぞるように触れる。
ぴくりと腹筋を震わせて、シーツを握りしめる手にいっそう力が加わったのがわかる。
「…、ッもっと…寄越せ、よ…!」
痛みに対してではない涙を浮かべ、悦楽に滲む眼で俺を見つめる。
ぞわり、と体の奥から何かが湧きあがる感覚。それを誤魔化すように口元だけで笑う。
「…前?後ろ?」
「……両方に決まってんだろ…ッ」
軽く俺を睨みながらの素直な要求。
いつでもこの人は素直で正直だ。初めて体を重ねてからどれくらいになるのか…それでも変わらない。
この世に不変なんてものはないってことを知っているが…この人だけは、本当に不変だと思う。
あの頃と少しも変わることなく…いや、あの頃以上に…俺を捉えているヒト。
「あんたが望むなら…」
嘯く。
本当に望んでいるのは俺の方だろうに。
もっと寄越せ。
もっと見せろ。
もっと喘いで。
もっと俺の名を呼んで。
もっと求めろ。
今よりもっと。
キリのない欲。
だが口に出すことはない。
このヒトを、俺なんかの欲で縛っていいわけがない。いや…俺ごときがこのヒトを縛れるわけがないと知っているのだが。―――浅ましい姿を晒したくはない。
奔放で自分に素直に生きる、この綺麗なヒト…
このヒトと並んで、ふさわしい男でなければならない。だから汚い所は見せられない。
己の本音を悟られぬよう、徐々にシャンクスを追いこんでいく。
「ァッア…ン・ッあ、ベン…ソ、レッ…もっ、と…!」
片方しかない腕で、今度は俺にしがみついてくる。
もっと繋がりたいのか、自分から俺の腰に脚を絡め、体を揺らし…熱っぽい眼で俺を見つめる。
昼間とは違うまっすぐな視線。俺の奥にある欲まで見透かされているような気がする。
「ハ、ァッ・ア、ン…ッ!もっと…お、く…ッ」
快感を押さえきれぬ涙を流しながら……天然の媚態。それでも綺麗。
求めてくるのは彼の方なのに、欲にまみれていくのは俺だけのような錯覚。
満月前後と戦闘のあった夜はいつもこうだ。
より激しく…より深く。
壊すほどの要求をされる。
戦いの熱を引きずっているかのように。時に明け方まで。無論一度や二度で終わるわけがなく。
そして俺は…そんなシャンクスに引きずられる。いや…堕とされる、か…。
「シャンクス…」
低い声で耳元に囁き、腰を抱えて再奥に穿つ。
意味を成さぬ言葉が部屋に高く響く。
ただ仮初めにでもカラダを繋いでいるこの時だけ…俺とこのヒトしかいない。
俺のことしか考えられないように。
シャンクスのカラダが俺で一杯になるように。
夜明けには、まだ…早い。