キスキスキスキスキ

 眠りから覚めて、30分くらいはボ――っとしてる。威張れたことじゃないが、おれの寝起きは最低だ。頭は起きても体がなかなか起きねえ。起きあがっちまえば動けるんだが…単にグータラなだけかもしれない。
 出入りがあればさっさと覚めてくれるんだがなぁ…毎朝毎朝出入ってんのもちょっと、物騒だよな。
 仮にも海賊団の頭たるおれがこんなでも、ウチの海賊連中がまとまってるのは一重にアイツのチカラによるところが大きい…んだろうなあ…。認めざるをえないよな。だって頭たるおれがこんだけグータラやってんのに、手下どもときたら不平言わずについてきてくれてるもんなー…。
 しっかし、やっぱシーツって気持ちイイよな。この感触が気持ち良くてまた眠りに誘われ…って、ちょっと待て。

 なんでおれ、部屋に寝てんだよ。…しかもおれの部屋。さらに煙草臭ェ…って、これは自分の匂いか? 昨日吸ったもんな。

 昨日の夜は…アイツの部屋抜け出してから甲板に出て…船尾の見張りお追っ払って、一人で自棄酒あおって。…多分そこで眠っちまったハズだ。前後不覚になるまで飲んだもんよ。…あ? そうだよ、外で煙草吸ってたんだよな、おれ。…こんなに匂いが残るわけ、ねぇと思うんだが…。

(…あ―――?…ちょっと待てよ……)

 眠っちまってから、たしか一回目ェ覚ました時あったな。一瞬だけど。
 あん時感じたあの浮遊感…あれ、ひょっとして運ばれてたのか。
 ……誰に?

(って、ひとりしかいねェよ)

   こーゆーことすんのは、アイツっきゃいねえっつーの。
 激しいツッコミを自分に食らわして、寝転がったままぐるっと部屋を見回す。
 ―――――1ヶ所、気になるところがあった。
 だらけてる体を無理矢理起こして、よろよろとデスクまで。

(……なんだよ…おれの匂いじゃねえじゃねーか…)

 普段は椅子側に置いてある灰皿が、ベッド側に置かれていて。そしてきっちり灰ガラが三つ。もちろんおれは部屋では吸ってねえから、コレをココで吸う奴は限られている。ちゅーか、ひとりしかいない。

(あんにゃろう…なんだよ。おれは怒ってるんだぞ…?)

 煙草を三本吸うだけの間、アイツはこの部屋にいたってコト。――――おれに手ェ出してこなかったクセに、何してんだよ。言っとくけどなァ、このおれ様は寝顔だってタカイんだからな?
 かなりフテクサレ気味なおれ。ついでに昨日のアイツを思い出して、ちょっと悲し…って、ノックか。誰だよこんな、人が珍しく物思いにふけってる時に。
 あわててまたベッドに転がる。…イヤ別に寝たフリなんてする必要も無いんだけど、なんとなく。
 おれが応えないでいると、間を置いてからまたノックして、
「お頭、入るぜ」
 入ってきたのは予想通り、アイツ。
「…まだ寝てるのか? とっくに昼は回ってるぜ? 料理人が皿が片付かねェって嘆いてたぞ」
 ム。
 おれを心配するよりもコックに気を使うたァどーゆーことだ。…そーゆー奴だよな、オマエってさァ。
 ゴロッと寝返りうって、アイツを睨み上げてみたり。
「なんだ。起きているなら返事くらいしろ」
 …犬っころにするみたいにおれの頭なでてんじゃねえよ。…撫でられるのは好きだけどさ。
 しょーがねーからしばらく大人しく撫でられて。…止めようとした手をひっつかんで。
「何? まだ撫でられたいか?」
 そうそう。
「生憎、俺は忙しい。早く起きてくれ。あんたの仕事もいいかげんかなりたまっている」
 冷たく言って、おれの手を振り払いやがった。なんて奴だッ。ちくしょッ、服つかんでやる!
 しっかりシャツの裾をつかんだおれに、アイツはかなり呆れ顔。……悪い?

 かまって欲しーんだよ。
 好きな奴にかまわれたいってのは、誰しも思うことだろうが。
 あんまりつれなくすんなよ。…嫌いになるぞ。――――――できないけど。
 …なんでそんなウザそーに見てんだよ。
 泣くぞコラ。
 …そんな遠い目で天井を仰ぐなっつーの。

 わかってんのか?
 てめーだよてめー。
 オマエのことなんだぞ、ベン・ベックマン。






「…っとに、仕方のない人だな…」
 呆れたようにわざとらしく溜息をついたが、内心で俺は大苦笑をしていた。

(このわがまま大王が…)
 皆が散ッ々この人を甘やかしまくってきた結果なのか、本来の性質なのか…どっちもか?
 が…俺も嫌だとは思っちゃいないんだから、相当オワってるのかもしれねえ。

 ……まァ、昨夜はワザとしなかったし? 
 コレくらいは起きたらしてやろうと思ってたから、してやろうじゃないか。

 ―――――だからさっさと起きるんだぜ、シャンクス?





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 (数十分後。)



 ……おれって、踊らされてんのかな?
 だってさ―――さっきまであんなにアイツにムカついてたってゆーのにさー…
「お? お頭ァ、今日はえらく上機嫌じゃねーか。何かイイコトでもあったのかい?」
 お、ルゥ。いつも丸いな!
「まァな♪ 今日のおれは最強だぜ♪」
「あんたァいつだって最強だろうが。その調子で新人にも声かけてやってくれや」
 そういや新人って、任せっぱなしだったな、ヤソップ。すまねーすまねー。
 後で見回りに行くとするかね。
「しっかし、ホントにご機嫌だな、お頭」
 苦笑混じりにヤソップに言われちまうくらい、マジご機嫌なおれ。

 ――――チェッ。

 『オハヨウのチュウ』だけで、こんな嬉しいんだもんな。
 ったく正直だぜ、おれのココロはよぉ!



 ……でも今晩こそえっちしてやっからな。
 見てろよベック! 今日のおれは一味違うぜ!!
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