嫌がっているのは言葉や態度でわかっている。だからといって止めようとも思わず、自ら距離を詰めて追い詰めた。
いや、まだ追い詰めきってはいない。ある一定の、ゲオルグが大丈夫と見極めたラインは越えていない。ぎりぎりに追い詰め、糸が切れる前で止めるのだ。それを繰り返すうち、さあ彼はどうなるのだろう? それを考えると楽しみで仕方ない。
早く堕ちればいいとも思うし、このままゲオルグを憎み続けてどうなるのかが楽しみでもある。寝首でも掻いてくれるだろうか。それも緊張感があって良い。
どうあっても、この男を手放す気は毛頭ない。そうでなければフェリドいわくの「守銭奴」であるゲオルグが、多額の報酬の大部分を受け取らないわけがない。何しろ金さえあれば暇潰しの相手に事欠きはしないのだから。
気を失ったカイルの頬を指の背で撫でる。疲労が滲んでいるのは当然だろう。飢えていた触手にせよゲオルグ自身にせよ、一度や二度で終わらせてやる気は毛頭なかった。何度も最奥まで抉ったし、触手は飽きずにカイルに精を吐き出させた。
途中からはもう、抵抗の動作も拒絶の言葉もなかった。快楽に染まっていてもゲオルグに屈しようとはしない蒼い眼が、ぞくぞくするほど美しかった。
これからは何度でも見られる。それも好きな時にだ。
ひっそりとほくそ笑みながら、荷物の中からシンプルなデザインのチョーカーと、揃いに見えるブレスレットを取り出した。茶の細い革紐に濃い青の貴石。一見、何の変哲もないアクセサリだ。チョーカーを、カイルの首に付ける。裸にチョーカーだけというのも、なかなか悩ましい姿だ。首筋に口付けて離れると、ブレスレットを自分の手首に付けた。
何の変哲もないアクセサリに見えるそれらは、実は魔法でリンクしている。チョーカーを付けた人間がある一定の距離以上に離れようとすれば、ブレスレットを付けた人間はそれを察知できる。元々は迷子対策として幼い子供がいる親向けに開発された商品だが、今では奴隷や捕虜等にも使われている。チョーカーは、装着した(させた)人間にしか取り外しができないとなれば、尚更軍事目的にも使用された。
ゲオルグがそれを持っていたのは、先の戦争で支給されたものを返していなかったからだ。こんなところで役に立つとは思わなかったが、持っていて正解だったと言える。
そうしてカイルの頭をひと撫ですると、体を綺麗に拭ってやり、衣服を整えさせた。部屋の中をぐるりと見回し、当面必要そうなもの――着替えを何着かとか、彼の愛剣らしいものだとか――を無断でまとめると道具袋の中へ突っ込み、カイルと共に肩に担ぐ。
今は小さくなった触手も従えて、ゲオルグはカイルの部屋を出た。
これでは人攫いのようだ。
カイルの意識があったところで、連れて行こうとしても拒まれるに決まっている。やはり強引に連れて行っていたに違いないと思えば、結果は同じだ。
それに――今は憎まれていても、この先どう転ぶかはわからない。なるようになる。
待っているのが喜劇だろうと悲劇だろうと、ゲオルグにとってはどちらでも良かった。ただカイルが自分の傍にいるという、その事実だけが大切なことだ。それ以外はどうでも良い。
「楽しみだな……」
カイルの部屋の近くに止めていた小型船に乗り込むと、カイルをベッドへ寝かせて早速船を動かす。
起きた時には帰る場所はないのだと知らせたら、一体どんな顔をするだろう?
その表情もまた、自分を楽しませてくれるのだろう。これからも、ずっと。
そうして二人は二度とそこへ戻ってくることはなく、広大な宇宙を様々に巡るのである。