短い嬌声を上げ、互いに精を吐き出すと、カイルはシーツに震える体を埋もれさせた。呼吸は荒い。呼吸のたびに肩が上下した。互いの息の荒さが行為の激しさを物語っているようで、気恥ずかしかった。
息を整えながらゲオルグを見上げれば、カイルより早く息を整えたらしい彼は金の目をわずかに眇めてカイルを見下ろしている。あまりに見つめられるのは居心地が悪い。両手を伸ばしてゲオルグの体を引き寄せる。力は入っていなかったが、逆らわず屈められた上体にカイルは笑んだ。まだ入れられたままだったのでまったくつらくないわけではなかったが、見られているよりはましだった。
「あんまり見ないで、くださいよー……」
「何故」
「…………なんでも、いいじゃないですか。とにかく……見ないでください」
言いながらゲオルグの頭をぎゅっと抱きしめる。首元に引き寄せたので視線は避けられたが、
「理由を聞かないとわからないんだが?」
耳元で喋られるのは誤算だった。心の中で悲鳴をあげると、ゲオルグの広い背に腕を回す。存外きめ細かい肌はしっとりと汗を含んでいた。
「……もう少し、情緒を理解してくださいよー……」
「ふむ?」
何か考える素振りをするが、少し考えたところでゲオルグに答えがわかるはずがない。情緒をまったく解さないわけではないが、カイルの思考回路はゲオルグにはわかりづらかった。今少々考えたところで解明できるかどうか。
わからないが、わかりたいとは思う。その気持ちは、カイルに伝わるだろうか。
少し身を起こし、汗で額に貼り付いた前髪を指先で払ってやる。ちらりと視線を寄越されたが、横を向かれてしまった。
「……何となくわかったぞ」
「言わなくていーですからね?」
「今更じゃないのか?」
「今更でも何でも、仕方ないじゃ……っ、動かないで下さいよーっ」
ゲオルグが少し身を起こすと銜え込んだままのものの角度が変わる。慌ててゲオルグの肩を掴んだが、彼自身は涼しい顔をしていた。
「足りなかったか?」
しれっとした顔でゲオルグが言えば、しがみつかれている肩に強く爪を立てられる。眦鋭く睨んでいるのだろうが、状況が状況だけに、どこか色めいている。
上体を完全に起こし、片手でカイルの腰を支えてやると、彼の体が緊張したのが繋がったままのところから伝わった。
「……抜かなければ終わらんだろうが」
「そう、ですけどっ……、やだっ、待って……!」
中に入ったままの性器を抜こうとゲオルグが腰を引くのを、力の限りしがみついて妨害する。ゲオルグは顔を顰め、動きを止めてくれた。
「……あのな……」
「わ、わかってますけど、こっちだって辛いんですからねーっ?!」
中途半端な位置でゲオルグが留まっているのも辛いのだろう。カイルは半分涙目になっている。それはそれでそそるものがあるが、これ以上は明日に障ると思い直した。
そうは言ってもなあ、とゲオルグは溜息を吐く。
「このままだと眠るのもままならんだろう。無理矢理でも抜くぞ」
「またしたくなったらどーするんですかっ」
「何度でも付き合う」
「即答しないでください」
「どうしろと言うんだ」
「うー……」
「唸ってもどうにもならんぞ」
気が逸れた間にと、また腰を掴んで今度は一気に引き抜く。短い悲鳴を上げた後、カイルに抱きしめられた。
「も……無茶しないで下さいよー……」
「すまんな……こっちも危ないところだったぞ」
「無茶するからでしょー」
自業自得ですと言いながら、手早く布で互いの体を拭いてしまう。横臥するゲオルグと向き合うように転がると、腕を彼の体へ回す。同じように抱きしめられると満足して胸に頬を擦り寄せた。
男と接触するのはお断りだったんだけどなー、と過去の自分を振り返れば笑いが込み上げる。
「どうかしたか」
「いいえー、何でもないですー」
抱きしめる腕に力を込めれば、同じように返される。擽ったいが、心地良い。額に口付けられ、頭を撫でられると機嫌は上向いた。
「あー……ずっとこーしていられたら幸せだなー……」
カイルの言葉にゲオルグの口の端が小さく綻んだ。
「……そうだな」
ずっと、がいつまでのずっとなのかはわからなかったが、少なくとも夜明けまでなら保証できる。夜が明ければ、ゲオルグは再び出かけなければならない。
たまには朝寝をしてみたい。三千世界の鴉を殺してできるものならそうしてみても構わないと思わないでもなかった。ゲオルグにしてもカイルと過ごす時間はかけがえのないものなのだ。
胸に頬擦りするカイルの頭を撫でているうち、穏やかな寝息が聞こえてきた。
「カイル?……寝てしまったか」
髪に口付け、背を撫でる。手加減したつもりだが、やはり負担はそれなりにあるだろう。明日の予定に支障がなければ良いのだが。
自制するのがこんなに大変だとは思わなかった。いつか手加減なしに抱いてみたいと言ったら、カイルはどんな顔をするだろう。
思いながら、カイルの頭を飽きずに撫で続ける。眠るには惜しい時間だった。