僕の常識、君の非常識

 フーシャ村という小さな村に一軒だけある酒場の名前は「PARTY'S BAR」。普段は村民の憩いの場であるが、ここ最近はとある海賊団が大騒ぎする場と化している。海賊団に占領されているとはいえ、彼らが店で問題を起こす事はなかった。海賊達の頭がしっかり釘をさしているからだ。
 もっとも…騒ぎを起こすのはたいてい、その頭本人が中心だったりもするのだが。
 今は海賊達に混じって、なんと子供ふたりもその店に入り浸り。村民みんなに可愛がられている子供たちは、大人たちの忠告も聞かずに海賊達と親しくしていた。
「なあ、シャンクス!船に乗せてくれってば!」
 元気のいい子供のワガママを「やめとけよルフィ」と止めたのも、やはり子供。ただしこちらの方が少しばかり大人びているように見える。
「そんな奴の船になんか乗ってみろ。おまえ何回海に突き落とされて溺れるか、わかったもんじゃねェぞ」
「よくお頭の性格つかんでるじゃねェか、エース」
 頭を揶揄した黒髪の男は、子供ふたりを挟んで座っているキッと麦わら帽子を被った男に睨まれたが、平然と煙草を吹かした。
 ルフィはオレンジジュースで満たされたグラスを両手で掴んだまま、頬を膨らせる。
「なんだよ!エースはいっつも"ダメ"ばっかりでさァ!」
 たまにはおれの言う事聞いてくれたっていいだろ!と主張するルフィの発言に内心で爆笑したのは、四人が座るカウンターから少し離れたテーブル席で酒を飲んでいた、麦わら帽子の男の船の船員達。
 ちなみに彼らの心のツッコミは「六歳児と同レベルだよお頭ァ!!!」だった。
「だいたい、エースだってこの前"俺は海賊になる"って言ってたじゃんか!」
「お。兄弟揃って海賊かー。仲いいなー」
 シャンクスが口を挟むのにも無視をして、
「確かに海賊になるって言ったけどな、俺はこんなだらしねェオッサンの船にだけは絶対ェ乗らねェって決めてんだよ!」
 副船長が船長だったら乗ってもいいけど、まで言うエースに、船員たちはとうとう堪えきれなくなって爆笑した。ギロリと"こんなだらしねェオッサン"こと船長に睨まれるも、笑いが収まる気配はない。
「それに、シャンクスの船に乗ったら俺の夢が叶わなくなっちまうだろ」
「夢?どんな?」
「副船長を仲間にして、その後シャンクスと一騎打ちしてブッ倒して大砲ぶち込んで船ごと沈めてやる」
 大真面目に言い切られた言葉に、数瞬の間。その直後、九歳の子供に似合わぬ物騒なセリフに収まりかけた笑いが再発する。
「お頭ァ!そーとー嫌われてんなァ!」
「エース、大砲ぶち込む時は前もって言ってくれよ!」
「お頭おいて、おれたちゃ逃げるからよー!」
「てっ、テメェら!それでも赤髪海賊団の船員かよ!」
 命をオレに捧げるという誓いは嘘だったのねッと女言葉で嘘泣きしてみせる船長に、船員たちは慰めるどころか追い討ちをかけた。
「だってなー、お頭のために死ぬのはともかく、お頭のせいで死ぬのはカンベンだよなー」
 なー!と同意しあう。このときばかりは団結が強い。
 赤髪はなにぃぃっと歯軋りするが、誰もルゥの発言は間違ってると言い出したりシャンクスを慰めたりしようとはしなかった。
 どころか、
「いいかルフィ。日頃の行いがあんなんだからイザッて時に仲間に見捨てられんだぞ」
 だからシャンクスの船に乗るのはやめとけ!
 そうやってなんとか諦めさせようと言葉を尽くしているエースの姿は、娘に結婚を思いとどまらせようとしている父親のようで、ベンには実に微笑ましい姿に映る。
 が、赤髪には微笑ましいどころではない。彼は子供以上に子供っぽい面があるのだ。
 エースの額を人差し指でつつきながら、
「なんとでも言いやがれッ。言っとくけどな、オマエの夢は絶対ェかなわねェぜ、エース」
 シャンクスの手を小さな手で払いながら「なんでそんなことわかるんだよー!」とエースは怒る。
 この時とばかりにシャンクスは余裕ありげにニヤニヤ笑い、
「決まってんだろ。五千歩くらい譲って、仮にオマエがオレの船に大砲ブチこめるようになったとしても、コイツは絶対ェオレの船を下りないからな!」
「なんでそんなこといえるんだよ!わかんないだろ!」
「言えるんだよ。ジョーシキだからな。わかるか?ジョーシキ。アッタリマエってことだ。まぁ太陽が東から昇って西に沈むくらいには当然、ってトコ?」
「ヘッ、今までのジョーシキがこれからも通用するとか思うなよ。ジョーシキってのはドンドン変わるもんだって、副船長が言ってたんだからな!」
「なんだと?!」
 キッと、幼い兄弟を挟んだ向こうに座る男を睨む。ルフィも顔を上げて、左隣の大きな男を見上げた。
「ジョーシキって結局何?」
「当り前になっちまってること、だな」
「この前シャンクスが"ジョーシキは破るためにある"って言ってたぞ。それって、当り前になってる事を破るってこと?」
「そういうことだ」
「でもシャンクスは常識破りじゃなくて非常識なんだよ。だからみんなが苦労してるんだ」
 自分があたかも赤髪の船員でシャンクスに苦労させられているように言う。この歳に似合わないボキャブラリーの多さは、一体誰の影響なのか。ルフィは更に聞く。今度は兄に。
「非常識って、常識破りと違うのか?」
「常識破りってのは常識の中にいた人間がやることなんだよ。非常識ってのは、もともと常識の中に入ってないヤツのこと。シャンクスが常識の中に入ってると思うか?」
「あ、なるほど」
「納得すんなルフィッ!!!」
 もう絶対ェ、意地でも船に乗せてやんねぇ!
 なにー!このケチシャンクスー!
 るっせェ!生意気言うクソガキなんか乗せるもんか!
 ホントのこと言っただけだろー!
 堂々巡りの言い争いは延々続く。
 不毛には違いないが、誰も諌めようとしない。「ガキの喧嘩にゃ口を挟むな」とばかりに。
 美人の店主はやり取りに口を挟まず、笑いながら彼らを見ていた。


 赤髪海賊団がフーシャ村に帰港した、ある一日のこと。
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3333hitはkana様でした。
リクは「ルヒ&兄&頭+副」デシタ。
…12&9の雰囲気で兄ブラコン気味で、とのことでしたが…
…うーん…(遠い目)
もっと重度のブラコンにしたかったような。
ある意味副またモテモテ。