「おやすみ」
と触れるだけのキスをくれたのはベンだったが、離れる唇を追いかけて、より深く口付けたのはシャンクスだった。
うっすら色を変えた瞳に逆らえず、シャンクスを昂め、シャンクスに昂められる。
ベンの腰をまたいで座っていたシャンクスは、長いキスの間にぺたりと1mmの隙間もないように抱きついてきていた。
腹を汚したシャンクスの放ったモノを指に絡めて、彼の内部をやわらげていっても、右腕はしっかりベンの首に回されていた。
どうやら今日は特に、スキンシップをご所望らしい。
最近はべたべたと触れるようなセックスをしていなかったから、だろうか。
シャンクスが、体に触れられるのが嫌いじゃない事は知っている。むしろ行為の最中ならば好きだろうということも。知っていて、ここ最近は触れるのを最小限に留めていた。そうすればシャンクスの方から触れてくるのが解っていたから。
求めて欲しいのは自分が求めているから。それがわかっているから…求めて欲しい。
決して自分のものになり得ない人を、こうしてまぐわっている時だけは意のままにしたい、なんて―――なんて、傲慢。
けして細いとは言いがたい指を三本入れたまま体位を変えてやると、短い声があがる。しがみつく腕にいっそう力がこもったのがわかった。その腕を無理矢理はがしてうつ伏せにさせ、両膝を立たせる。後ろからは嫌だと振り返って睨む潤んだ目を無視し、左手の指二本で欲を咥えこむ穴を軽く開かせ、壁に沿わせて右手の指二本を挿れて前後に動かしてやると、抗議の声はすぐに蕩けて嬌声へと変わる。
おそらくシャンクスの意志とは無関係に揺れているのであろう腰に口付け、そのまま背骨を舌と唇で辿って褐色の項に口付ける。愛しさをこめて。
食いしばった歯の間から漏れる嬌声に混じって、イヤダとかヤメロとか聞こえたが、こんなに腰を振ってちゃあ説得力はねェな、と耳元に低く囁いてやると思い切り罵倒される。指をことさらゆっくり抜いてやるとビクビクと体を震わせた。
だいたい、いつも別にバックが嫌だなんて言わねェじゃねェか。なんで今日に限ってそんなに嫌がるんだ?
答えがわかっていることを、後ろから抱きしめてやりながらあえて聞くと、器用にもベンの額を狙ってわざわざ逆エビゾリをして軽く頭突きをかましてきた。そうして小声でボソリと、ベンが満足する言葉を寄越す。
きっとこの人は、俺がそんな言葉を求めていたなんて解らないかもしれないだろうけれど。
ヘッドボードに背を預け、四つ這いなったままのシャンクスの髪を梳くように撫でて微笑む。
―――おいで?
ことさら優しく言うと、赤らんだ顔でベンを睨み――恥かしい事言ってんじゃねェよと言いながら、それでも素直に跨って抱きついてくる。形の良い耳にキスしてやりながら、ベンは充分な硬度の自身を、腰を支えてやりながらシャンクスの中へ埋めていく。
胸を擦り付けるように身悶えるシャンクスの両足を抱え、軽く揺すりあげながら打ち込んでいくと、そのたびに言葉にならない声がベンの鼓膜を、体を刺激する。声だけでこんなにも煽られる。
アンタも俺に煽られているかい?
口には出さず、シャンクスの声が枯れて意識を飛ばすまで、体を貪りつづけた。
**********
ふと意識が浮上して、目を開けてみれば、ベンは自分を包むように腕の中に抱き込んでいた。穏やかな寝顔を上目で見ながら、男の肌に触れぬようこっそり吐息する。
意地悪く抱かれたのは今日が初めてではないけれど。何をそんなにイラついているんだろうね。
普段取り澄まして、そんな所はおくびにも出さないだけに尚更可笑しい。かわいい、というか。
とりあえず、起きたら喉に優しい飲み物でも作らせよう。ついでに朝食も、オマエが作ったのじゃないと喰わない、と駄々をこねてみよう。
オレがそんな風に言うのはオマエだけなんだけどね?
小さく笑って薄い頬を撫でる。
月光が男の顔に落とす影に紛れて、掠れた声でオヤスミと囁き、首を伸ばして柔らかな唇に口付けた。キスで始まった夜は、キスで締めくくる。いつも。儀式のように。
そうして心地よい体温に包まれて目をつぶった。
手放すつもりはサラサラないから、そのままオレに捕われていろよ?
口付けに含まれた呪言は、窓から覗く北斗だけが聞いていた。