始まりの日。
桜の舞う季節、竜に出逢った。
猛々しい中にもしなやかさのある竜だ。
それは真っ直ぐに俺を見据えて吼えた。

「かかって来いよ、真田幸村…」

刃を交えればこれまでに無い程に心地良い。
良き好敵手を見つけたと思った。
だが、それ以上でも以下でも無かった。





















咲かせ思いと轍





















戦明け。
戦は、二軍の留守に織田が甲斐と奥州を仕留めんとしているという報告で幕を閉じた。
不穏な動きを見せた織田に対抗すべく同盟を組む事になり、竜が武田に顔を出した。
戦装束のそれよりは幾分か落ち着いた色の蒼の裃がよく似合っていた。

「あんなに熱くなったのは初めてだ。…ま、ちょくちょく手合わせしろよ」

戦場よりは少々柔和な、しかし勝ち気な笑みを見せた。
鼻を擽ったのは香の匂いか、それとも仄かな劣情か。




















宴の夜。
二つの大国の同盟とあって、大規模な宴が開かれた。
酒に酔い淡く頬を上気させた竜が俺に近寄り耳元へ唇を寄せた。
低く、しかし鼓膜に悦楽混じりの振動を与える声。

「なあ…、抜け出さねぇか?」

つまらぬ宴よりも、俺は竜との戯れを選んだ。
泥酔した将達は、主賓の不在に気付かぬまま。




















夜明け前。
ふるりと震える白い腿、背へ絡み付く常は六爪を操る腕。
竜は俺の下で鳴いていた。
髪を振り乱し、ふくりと色付く唇からは切なげに嬌声と俺の名を漏らす。

「あ……っぁ、ゆ…きむら……!」

強く突き上げてやれば一層の歓喜に咽び泣いていた。
甘く響くその声色から己への恋慕の情を見出し、俺は良い遊び道具を手に入れた。




















初夏。
俺は玩具遊びを続けていた。
燦々と照る太陽の下、白昼から肌を合わせる。
竜の肌は己同様筋肉ばかりで硬くも冷たくて、抱いていると心地が良い。

「あっちいんだよ、くっつくなバーカ」

腕の中で身を捩り、軽く俺を罵る。
それでも幸せそうな笑顔を浮かべて、嗚呼何と白痴で可愛らしい竜なのだ。




















晩夏。
いつもどちらかの城でばかり逢っていたが、俺の気に入りの甘味処へ案内した。
精一杯に鳴く蝉を余所に、甘味を口にした。
俺と外を出歩くのが嬉しいのか、竜は妙に上機嫌だ。

「城の外で逢うなんざ、戦以来だな。…アンタに惚れたあの戦」

形の良い唇へ円弧を浮かべ、一つしかない眼を細める。
戦場のそれとはかけ離れた優しい眼を向けられる事が、次第に心地よくなっていた。




















秋口。
彼の手作りの団子を頬張り共に月見をした。
竜の作るものは至極美味かった。
この頃から、少し前より抱いていた違和感が段々と大きくなってきた。

「…I love you」

そう言われ口を吸われると胸が熱くなるのだ。
玩具相手におかしいではないか。




















晩秋。
竜に感じた違和感を振り払うため城、色街問わず闇雲に女を抱いた。
心は一向に晴れぬ上、丁度上田へ来た竜に女中に手を出しているところを見られた。
彼のそれとは程遠い柔らかな肢体を組み敷き腰を揺らす様───言い訳は出来ない。

「………どういう、ことだ…」

良い機会だ、己がただの玩具である事を告げてやった。
頬を流れ落ちた透明な涙と絶望の色を呈する隻眼は、美しいとさえ思った。




















冬。
隣に笑う竜は、居ない。
こんなにも寒い冬は初めてだと思った。
あれを手放したことを酷く後悔しているという事実を、認めたくなかった。

「旦那ぁ……好きなら好きって言えばいいのに、なーに意地張ってんだか」

気付けば奥州へ向かいそうになる自らの足を、必死に止めた。
そんなことをして今更何になるというのだ。




















竜と出逢った季節。
とうとう織田との戦が始まり、武田と伊達で迎え撃った。
織田より何より、久々に竜を目の当たりにして愛おしさが俺の全てを支配した。
もう認めざるを得ない。

「……オッサン、気合い入れていけよ」

好きだ、愛しい、愛している。
しかし竜は俺と目も合わせようとしなかった。




















勝ち戦の後。
俺は織田陣営の陰で竜を貪っていた。
縛り上げた手首をしならせながら必死にこちらを睨み付けるがその体は俺の事を覚えており、快感にうち震えていた。
良いところを擦る度きゅっと締まり悦を示す竜の穴は、やはり格別に気持ちが良い。

「何なんだ…やめろ!玩具遊びは、ぁ……もう十分だろ…!?」

確かに玩具遊びは十分だ。
愛してしまったのだから。




















乱暴な情事の末。
愛している。
いくら囁いても竜は以前のような優しい笑みをくれなかった。
しかし鼻で笑いながら、一つの希望を落とした。

「……今度はアンタが、俺の玩具になってみるか…?」




























玩具でも奴隷でも、喜んでなってやろう。
もう俺は、貴方無しでは息も出来ない。


































悪い真田でした。
そんな真田でも、うちの真田は政宗殿に惚れずにはいられないです。



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