人魚物語
政宗は人魚の王の長男であった。
色白の肌。
鍛えられた肉体。
腰より下は鮮やかな蒼の鱗。
右目は眼帯に覆われながらもその端整な容貌から海の中では男女の人魚、果ては魚類にまで言い寄られる日々であったが、政宗は見向きもせず奔放に日々を過ごしていた。
しかしある夜の出来事でその人生は一変することになる。
その夜は王族家主催の盛大なパーティーの催されている、地上では酷い嵐の起こっている夜であった。
政宗はそこで舞を披露する予定であったのだが、家に縛られるのに飽き飽きしていた政宗は序盤にこっそりとパーティーを抜け出した。
「ここまで来れば追っ手も来ねぇわな…」
政宗が一人で暗い海底を泳いでいるとひらひらと紅い布が揺れるのが目に入った。
不審に思いそちらへ近付いて行くと、政宗は息を飲む。
「…Oh……こいつァ………」
それは紅の王族着を纏った人間―――海辺の国の皇子、幸村であった。
相手が息が出来るよう一晩かかって海面を泳ぎ来て幸村の国の浜辺へ彼の上体を引き上げ、首元へ指を添えて脈があるのを確かめる。
「Han…大方船が嵐に巻き込まれたってとこか」
半身がずっと海へつかり冷えているのもよくなかろうと諸共に陸へ上がる。
やはり陸上は得意ではないが下肢をびちびちと大きく左右させ前進し、あとは腕力に頼り力ずくで幸村の身体を浜へ寝かせる。
その額に貼りつく茶の髪の毛を横へよけると青年の整った顔立ちが露わになった。
「ったくイイ男だな、相変わらず……」
政宗は感嘆の溜息を吐く。
以前船で沖まで来ている幸村を偶然見かけたことがあった。
一目惚れなど、しかも人間の男に一目惚れなど自分自身信じられなかったが、その時から政宗の心は幸村に捕われていた。
しかし人魚は人の目に触れるのさえ御法度であった。
なので政宗はそれ以来船の影を見つける度海面へと上がりたくなる気持ちを抑え、堪えていた。
その近付きたくても近付けなかった存在が、今目の前に在る。
間近で見つめながらうっとりとその輪郭を辿る。
頬に乗る水滴が朝の太陽にきらきらと照らされ彼の魅力を増進しているように見えた。
いつ幸村が起きるかわからない。
しかし政宗は彼から目が離せず、あまつさえ己の唇を幸村のそれへと近付けていた、まさにその時。
大きな目がぱちりと開いた。
「はっ!ここは!!?」
「Shit…!」
政宗は慌てて海へ身を向けるが、幸村は反射的に起き上がってその手首を捕える。
「なっ…………そなた人魚、か?某を助けてくれたのはそなたか?」
「Ah〜……こりゃヤベェな」
政宗はがしがしと頭を掻きながら幸村を振り返る。
すると、今度は幸村が息を飲む。
「………何と…………驚いた。…人魚とは斯様に美しいものだったか…」
「…死にかけだった奴が起きるなり何言ってんだ、馬鹿」
美しい、などとは聞き飽きる程言われてきた。
しかし今回程胸が高鳴るのは初めてである。
「某の名は幸村。そなたの名は?助けてくれた礼がしたいのだが…」
「…ここの国の王子様だろ。俺ァ政宗だ。別にいい、礼なんざ」
「おぉっ!某を知っておったのか…政宗殿。しかし、それでは某の気が済まぬ」
幸村は空いた側の手をほんのりと染まった政宗の頬へと伸ばす。
すると肌の温度が少し上がるのを直に感じた。
特に抵抗も見せずこちらへ何処か熱っぽい視線を向ける彼に幸村の胸はどきりと鳴る。
そして頬へ添えた手の親指にて政宗の唇へ触れた。
その指をそっと左右へ動かすと、政宗はぎゅっと目を閉じる。
「ンッ……やめろ、って…」
「……人魚は粘膜が人間に比べ物にならぬ程敏感だというのは誠であったか」
「Ha?ちょっ……は、ッむ…んん…」
幸村は政宗の咥内へとそのまま親指をねじ込み、顎裏や舌などの粘膜を擽る。
すると政宗は眉尻を下げ艶含みの声を漏らしながら漸く抵抗を始める。
しかし陸上で、しかも力の入らぬ手で幸村の腕を掴んだところで何にもならない。
くちゅくちゅと唾液を掻き混ぜられると、艶かしく腰をくねらせる。
「…とても愛らしいお声だ……。したい礼が決まった。某の妃の座を…そなたに」
「んァ、…は………そんな、無理…だ……」
「何故?先程そなたは某に口づけをしようとしていた。某のことを、好いてくれているのでしょう…?」
「違っ……、…はぁ…」
口腔粘膜を一通り嬲られ政宗の顔の筋肉が緩み隻眼がとろりと蕩けたところで幸村は漸くその咥内から指を抜く。
唇の端から一筋流れる唾液を指先で掬い、身を乗り出し朱に染まる目許へ口付ける。
「……いや、違わねぇとしても…人間と人魚なんて、どうこうなれるワケねぇだろ」
「…否、某はもう決めた。そなたを妃にする。なれぬと言うのなら力ずくで」
「おい!あっ……駄目だ、っつってんだろ…!ん、ん…っは……!」
幸村は今度は政宗の唇へ己のそれを重ね、舌でまた粘膜を蹂躙し始める。
熱い口づけに政宗は、為す術もなく目を瞑り幸村の肩へ縋るしかなかった。
「ふ、はァ……ゆき、っ………」
「………ン、…ほら、こうして人間と人魚でも繋がれるではないですか」
政宗が尾ひれをもどかしげにうねらせては小さく震わす程になるまで口を合わせていたが、名を呼ばれたことで漸く唇同士を離す。
しかし政宗は下を向いて首を横へ振る。
幸村はそれを見に溜息を吐き、己の股間へと手を伸ばし濡れた衣服を手間取りながら寛げて勃起した雄を取り出す。
政宗はいくら人間は目にしたことはあれど流石にそれは初見のもので、全体は赤黒く先端からはだらだらと体液を零すグロテスクなその様相に大きく目を見開く。
逃がれようと身を捩るが何時の間にやら幸村の腕の中へ抱き込められておりそれも叶わなかった。
「なっ……にする気だ、それで……!?」
「もっと深く繋がりましょう、政宗殿…」
「わ、やめっ…んんぅ――!?」
幸村は政宗の頭をぐっと股間へ押し付け、唇をこじ開けると腰を突き出してその咥内へペニスを挿入する。
突然の暴挙に驚いた政宗は幸村の体を殴りつけながらヒレをばたつかせ暴れる。
しかし幸村は構わず政宗の頭を固定し己の腰を動かして喉奥を突く。
もう一度強めに突いてやると唇がきゅっと窄まり雄を包んだ。
その心地よさに幸村は息を上げて繰り返し政宗の口を犯した。
そうしてやれば、やはり粘膜を粘膜で擦られるのが気持ち良いのか嗚咽を含んでいた政宗の声にはすぐに色が混じり始める。
「んっ…は、ッ、く、ぁ……!」
「気持ちよくなってきたようですな…、あぁ。こちらはどうです?」
「あ………」
唇から滾る男根を抜き出すと政宗は名残惜しげな声を漏らし、先走りとも唾液ともつかぬもので濡れた唇を舌で舐める。
快感に呑まれかけているらしきその様子に幸村は小さくほくそ笑む。
そしてうつ伏せになっていた政宗の体を反転させ、ぷくりと膨れる乳首へ手を伸ばす。
「あ、そこ…駄目だ、ッああ……!!」
「そんなにおっぱいが気持ち良いので…?」
政宗は突起を捻られただけでヒレを大きくしならせる。
目へ薄らと涙を浮かべ体では抵抗せずも口では健気に理性を保とうと努めるその様子がいじらしく、一層幸村の加虐心を煽った。
片側の乳首を親指と中指できゅっと挟み人差し指で先端を細やかに掻いてやりながら、もう片方へはペニスの先端を擦り付ける。
政宗は白い喉を反らせ両腕で顔を覆って快感に耐えるが、幸村はそれさえ許さずその腕の間へ手を差し込みまたしても政宗の咥内へ三本もの指を突き入れる。
「は、む…!!ん、んん!…ふぅ…!!」
「はぁ…おっぱいと一緒におクチも弄って貰えてとても嬉しい、というような声だ」
「ひがっ…う!も、…んン……やめ…!!」
幸村は腰を前後させ、くぐもった声で抗議する政宗の胸へ容赦なく猛りを押し付ける。
先程の口淫のおかげで達する寸前にまでいきり立っているそれに人間よりも数倍敏感な乳首をくにくにと押し遣られ、しかも口中は出入りする指に蹂躙されて政宗は悦楽に喘ぎ体を痙攣させる。
「っク……もう、出しますぞ…!?」
「ん、なに……はぁ、ああぁ―――ッ…!!!」
幸村は何かを上り詰めるような、感じたことのない種の快感に戸惑いを覚え瞳を震わせている政宗の乳首へ鈴口を押し付け白濁とした精を放つ。
濃厚な雄の香りのする熱い飛沫を胸へ浴びせられ、政宗も大きな嬌声をあげ身体を跳ねさせて絶頂を迎えた。
しかし、足りない。
これだけでは満足出来ない。
全部欲しい。
肩を上下させ見詰め合う二人が抱えるは同じ、もっと溶け合いたいという願いであった。
「政宗様………、遅い。宴を抜け出した上一体これはどういうことか…」
政宗無しの宴がどうにか終わった後、海底では王族の執事である同じく人魚の小十郎の指揮のもと政宗の大捜索が行われていた。
日も高くなった頃、そこへ何処かぼうっとした様子の政宗がふらりと帰って来た。
「政宗様!!探しましたぞ…一体何をしておられた!?」
「…小十郎……ワリィ。俺、人間になるわ」
「は!?何を言っておいでで…!?」
「これからは人間と人魚も仲良く交流していこうや。じゃ、魔女んとこ行ってくるぜ!YEAH!!」
「ままま政宗様!!その首筋に浮かぶ紅い痕は何なのです!?お待ちをっ…!!」
半泣きになりながら追いかけてくる小十郎を振り切った政宗はタコである魔女の元親を脅し、何の不利益も被ることなく二本の脚を得た。
「…これ、ちっと太過ぎやしねぇか?」
「タダでやってやってんだから文句言うな!早く俺のピィちゃん返せ…!!」
「まぁいいか、thank
you!」
握っていたタツノオトシゴを解放した政宗はその後地上へと戻り、幸村の妃となり幸せに暮らしたのであった。
完
人魚の粘膜が敏感とか云々は勿論フィクションです。
多分ね。
でも事実もそうだったら萌える。
幸村の着衣はりとるまーめいどの王子様の服の赤バージョンと思って下さい。
名称がよくわからない…。
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