一里駆ける間













生まれつき、不思議な力を持っていた。
心の中でそう願うだけで、世界がぴたりと止まる。
俺だけが動ける、俺だけの世界となる。
しかし、そう長くは止めていられぬ上(大体馬で一里を駆けるのにかかるくらいの長さだ)、俺はこのような能力を使って戦をするのは卑怯だと考えていた。
なので、自ら進んでこの能力を使うことはなかったし(余程の危険が迫った時は勝手に発動してしまうのだが)、能力のことを知るお館様や佐助も、これを使うことは勧めてはこなかった。
俺にとってこんな力は必要ない。
そう思っていた。

















「真田、幸村…!」
「伊達…政宗ぇええ…!!」



ある日、俺は運命の宿敵に出逢った。
それは蒼い稲妻の如く、俺の心を撃った。
夢中になるとはこのことか。
初めて逢ったその日から、俺の心は彼の御仁のことで一杯になった。
最初は刃を交えるだけで満足だった。
しかし、段々とそれは違う欲へと道を外れていってしまった。


兜の下のお顔を、もっとよく見てみたい。
唇に触れてみたい。
―――その体に、俺の痕を刻みつけたい。


互いに敵同士。そのうえ、男同士である。
間違った欲求であることは承知している。
だからといって、一度ふつりと湧いた欲求を消すことは出来なかった。





















まるで逢瀬のような決闘は、もう何度目だろうか。
その日、俺はまた政宗殿と二人、槍と刀をぶつけ合っていた。
人目につかぬ山奥。
政宗殿は、六爪を構え挑発的に笑いかけてくる。



「アンタまた腕を上げたな」

「そなたこそ!以前よりも太刀筋に切れが見えまする!」

「…楽しいねぇ、このまま時が止まれば良い……そうは思わねぇか?」

「むろ………あ」



彼の人の言葉がきっかけとなってか、世界がぴたりと静止した。
そこに残されたのは、己だけ。
当然、政宗殿も止まってしまっている。



「あぁ、やってしまった……すまぬ、政宗殿」



まあ、今は刃を交えていた真っ最中というわけでもないし、わざとでもない。
つくづく己にとって不要な力を持ってしまったものだ……と。
俺は、がしがしと頭を掻き溜息を吐く。
そんな時、俺の目に止まったのは、政宗殿のお顔であった。
時が動き出すまでいくらか暇もあるし、これくらい見ていても罰は当たらないだろう。

俺は槍を下ろしゆっくりと政宗殿との間合いを詰め、その顔を至近距離から覗き込む。
影を作ってしまう兜が邪魔なので、それは少々持ち上げさせてもらった。



「……これは…」



力強い切れ長の一つ眼。
よく見れば睫毛は長くて、女のようだとは言わないが、綺麗な顔をしている。
唇も、ふっくらとして中々柔らかそうではないか。
男らしくも気品のあるその顔立ちは、流石国主の血筋といったところか。

鼓動が速くなるのがわかる。
俺は、やがて吸い込まれるように彼の唇へ指を近付けていった。
ふに、とそれに触れれば、俺は我に返り、慌てて身を引く。
それと丁度時を同じくして、世界は、政宗殿はまた動き始めた。
一瞬にしていやに近くなった二人の距離に、政宗殿の片眉が跳ね上がる。



「?」

「あ……っそ、某!失礼致しまする!」

「What!?Wait、待てよ!」



政宗殿が後ろで俺を呼んでいたが、戻る気にはなれなかった。
篭手越しに感じた、柔らかな感触の残る指先が熱い。
何をしているのだ。
封じねばならない欲に、拍車をかけてどうする。

頭ではわかっていても、馬で駆けて切る風は、俺の心を鎮めてはくれなかった。























「は、ぁ………政宗殿…」



あれから一月程の後。
刃を交わしに来たはずの政宗殿は、俺の下で足を開き、その体腔に雄を受け入れていた。
時は止めている。
しかし、行為は一度時を止めただけの短さで終わるわけではないので、政宗殿の時間が時折動いてしまうのは仕方がない。
俺は、彼の姿を見つけると遭遇前に一旦時を止め、背後から近寄って兜を剥ぎ、己の上着でその頭を覆い両の袖を頭の後ろできつく縛ってやることで視界を塞いだ。
更に、鉢巻を使いその両腕の自由をも奪ってやる。
これで、合間合間の抵抗はやり過ごせるし、相手が俺だとはわかるまい。
初めて唇に触れてより何度も頭で思い描き、計画を練った。
あの整った顔を覆うのは惜しいが、こちらの正体を露呈させるわけにはいかない。
想いを伝えることも正体を明かすこともないまま、己の欲ばかりをその体にぶつけるのだ。
何と卑劣なことか。
だが、俺は己を止める手段を持たなかった。
よもや人を犯すためにこの力を使おうとは。



「っ……ん…」

「ぐあっ!」



時を止める合間に聞こえるのは、狼狽と悲鳴の混じったような声。
気がつけば視界を奪われてのし掛かられ、次の瞬間には下肢に纏う服を剥かれ、また次の時には尻に異物を挿入されているなど。
何が起こっているか、わからぬだろう。
体だけでなく、その心も傷つけるだろうことは目に見えている。
けれど俺は、その身を蹂躙し続けた。

硬い地面へ押し倒した後、袴は一番に脱がせた。
防具を外すのに手間取ってしまったおかげで、下帯を剥ぐ間も惜しいくらい昂ぶってしまい、下帯は少しばかり緩めただけで傍らにずらし、脇から指を挿入した。
時を止めているとはいえ、刺激を与えれば体自体は反応を示す。
性急に指を動かしてみると、内壁は軋み、俺の手には血がついた。
しかしそんなことには構わず、その血さえも利用して中をぐちゅぐちゅと掻き混ぜてやった。
卑猥な音に耐えかねた俺は、急ぎ自らの袴と下帯を寛げ、未だ血で少し濡れただけの狭い肉筒へ、硬く勃起した陰茎を挿入した。
挿入する側でさえ痛みを覚える程の強烈な狭さ。
政宗殿の体への負担は、計り知れない。
それでも性欲に従うまま腰を動かし続けることで、中のきつさは段々と和らぐ。



「っ……ン、……」

「ひ…」



温かでぬるついた粘膜に性器を絞られるのは、堪らなく気持ちが良い。
それが切望していた竜の体の内と考えれば、俺の魔羅は更に大きくなる。
風さえもない静寂な空間には、俺が政宗殿の孔を貪るぬちゃぬちゃという粘着質な音と、浅ましく上がった己の吐息だけが響いていた。
時を止める合間の一瞬でもどうにか抗おうと体を捩る目下の彼。
無論、そんなものは俺を煽るだけに過ぎない。

最後は彼の人の体を俯せにして後ろから腰を掴み、自分の一番悦い角度で何度も粘着を擦り合わせる。
これが己が本当に望んでいたものかはわからないが、腰は止まらない。
動物のように、目の前の孔を使って性感の充足を求めた。



「うっ……」



やがて、俺は政宗殿の一番奥へ、精液を注ぎ込んだ。
流石に外に出してやろうという僅かばかりの気遣いの算段も吹き飛び、その時の俺はただ、目下の竜に種を付けてやりたかったのだ。
孕むことはないけれども、その中に己の男を注いでやることで、竜を支配出来るような気がした。

























「…政宗殿」

「……さ…なだ…」



手前勝手にその体を使って、中に三回程出してやった後。
俺は彼の着衣を直し両腕の拘束を解き、最後にその頭に巻き付けていた己の上着を取って、一度その場から姿を消した。
最後に見た政宗殿の表情は険しく歪められていたが、その隻眼には涙が滲んでいたと思う。
木の陰にて上着を纏い鉢巻をして、心で念じて時を動かした。
彼の人の呻きが聞こえた。
異国語で、罵るような言葉を口にしているのも。

少し間を置いて俺が姿を見せてみると、戸惑うように眉根を寄せ俺の名を呼んだ後、傍らに転がしておいた兜を被り、重いであろう腰を地面から持ち上げ立った。



「どうか致しましたか?お顔が青いようですが…」

「…いや、何でもねぇ」



その体に纏わりつく感触は、今の出来事を幻で済ますことを許さないだろう。
見知らぬ何かに汚された屈辱と、未知の存在への恐怖。
カタカタと震える手で一刀を構える彼を見て、俺の中でまた新たな感情が芽生えた。































DIO様のザ・ワールド……ではなく、最近よく見かける携帯広告の破廉恥バナーをインスパイアです。
時間を止められるとか凄くロマンがあっていいと思う…!
本家の方では止められるのは1分間だけらしいですが、今回幸村が止められるのは多分2〜3分ぐらいです。
書いてみたらシリアスになるわ「百合が舞う先まで」と流れが被りまくってるわで計算と違いましたが、折角書いたので載せてみます。
時止め設定はまた違う雰囲気とかでリベンジしてみたいです。






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