「貴様か、政宗殿をやったのは…」

「何ぞ用か、小童…」

「政宗殿を傷つけた罪………償ってもらおう!!」

「ふん、弱き鬼が歯向かうというか。是非もなし!」















bloody sweetheart 4


















「いってぇ……」



朝、政宗は体に残る鈍痛に目を覚ました。
腹の傷は勿論、寝ているだけにも関わらずあらぬ箇所がずきずきと痛んでいた。
髪を掻き上げれば手首の痣が目に入る。
これは。



「…っ………」



あの陵辱がありありと思い起こされ、政宗は眉を寄せる。
いくら拒絶しても幸村は政宗を乱暴に揺さぶり続け、終いには中へ種を放つことにより政宗の力を奪ってしまった。
手を握っては開いてと繰り返してみるも、常のような湧き上がる力を感じられない。

上半身を起こすと身なりはきちんと整えられていた。
体の違和感も傷と局部だけで、どうやら幸村が処理まで行ったようだった。

しかし部屋を見渡しても、その幸村が居ない。



「おい幸村!どこ隠れてんだテメェ…出て来やがれ!!」



政宗は痛む傷に顔を歪めながらも声を張り上げ彼を呼ぶ。
だが返答は無く、しんと静寂が保たれたまま。
私宅中を探し回っても、その姿はない。



「………、……幸村」



いつも政宗を笑顔で見守っていた、妙に生真面目な吸血鬼。
政宗を抱いていた時のあの必死な表情は何だったのか。
抵抗しながらも熱い吐息混じりに名を呼ばれる度体を跳ねさせていた己が、馬鹿みたいではないか。



「ッ…何なんだよ…!!」































それから数日が経った。
幸いあの日以来、化け物が出たとの噂はない。

政宗は、牧師として穏やかな生活を送っていた。
礼拝、市民の相談役、そして力を取り戻す術が無いか神学の探究。
その傍らに、幸村の姿は無い。

そんなある日、以前から顔見知りであった風来坊がふらりと教会を訪ねて来た。



「神父さん?聞いてるのかい?」

「Ah?っと、sorry…」

「はは、その様子だと恋のお悩みだね?いいねいいね、人よ恋せよ!ってね!!」

「違う。懺悔する事がねぇなら帰れ風来坊」

「照れんなよ、恋はいいもんだぜ」

「…だーからそんなんじゃねぇっつってんだろ…」

「いいや、俺にはわかるね。今のアンタの目は、恋しくて苦しくて仕方ないって目だ。その証拠に今の神父さんには以前みたいなキレが無い。違うかい?」

「………」



政宗は黙るしかなかった。
苦々しげに舌打ちし、風来坊から目を逸らす。

早く、早く忘れなくては。
しかし忘れようとすればする程、切なさは募る一方で。
今では無理矢理抱かれた時の事を思い出すだけで体が熱くなる始末。

力を奪われたのだ、本当は怒るべきところなのだろう。
しかし大きくなるのは怒りよりも、身を焦がすような欠乏感。

聖職者失格だ。



「その様子だと上手くいってないのかい?」

「うるせぇ。余計なお世話だ」

「あ、認めた」

「……チッ…」

「詳しい事情は知らないが……ま、幸村ならいずれアンタを幸せにしてくれるだろうよ」

「…………あ?テメ!何で…!!」

「んー?はははっ」



目を白黒させる政宗に対し、風来坊は楽しげに笑う。
そして政宗の頭をポンポンと撫で、耳元へ唇を近付ける。



「……俺、狼男なんだ」

「は……ああぁ!!?」

「アイツとは長い付き合いでさ、ある日突然顔見せなくなったと思ったら入れ違いに神父さんから幸村の匂いがプンプンしてくるじゃねぇか」

「な…」

「しかもその幸村の匂いも、神父さんも何だか幸せそうでさ。恋してるんだな〜って」

「んな、事は………」

「あるだろ?逆に今は幸村の匂いが薄れてってるし、神父さん凄い寂しそうだしね」

「………Shut up!」

「いいや、黙らないね。好きなんだろ?幸せは自分で掴み取らないと」

「Ah〜うっせぇうっせぇうっせぇ!出てけ!!」

「わわっ、押すなよー!」



政宗は頬を淡い朱に染め風来坊を教会の入り口まで強引に押しやる。
笑いながら抗っていた風来坊であったが、一筋の匂いが鼻孔を擽ると抵抗を止め大人しく外へ出た。
そして扉の隙間から中を覗きにかりと笑う。



「…幸村、こっち向かってるみたいだ。いい恋咲かせるんだぜ!!」

「え……あ、嘘だろ…!?」



政宗は顔を青くさせたり赤くさせたりしながら、風来坊の背中を見送った。


































その夜、政宗はそわそわしながら私宅の中を歩き回っていた。
キッチンには手製のトマトスープ。

しかし、幸村は中々現れない。
もう、日付が変わる頃である。

政宗は居ても立っても居られず、蝋燭を持って真っ暗な教会へと足を運んだ。
ステンドグラスの前の大きな十字架に向かって、自嘲めいた笑みを浮かる。



「……おい、神さん。やっぱりアンタは、力を失った野郎の願いなんざ無視ってことか?」

「――ま、仕方ねぇか…」





ドサリ。





不意に鼓膜を揺らした不審な音に、政宗はビクリと肩を揺らす。
唾を飲み込んで意を決したように振り返ると、そこには待ち望んだ相手の姿があった。

しかし彼は以前のような明朗な様子は一切なく、白いシャツを真っ赤に染め、目を瞑り弱弱しく息をしているだけだった。



「…幸村!」

「ま…さむね、殿………」



政宗は蝋燭を床へ置き、幸村へ駆け寄る。
幸村は瞼を持ち上げ、その姿を眼に映す。
瞳の色は紅で、唇はカタカタと震えている。



「…オイどうしたんだよ、死にそうじゃねぇか!」

「はは……、某…慢心していたようです。上級悪魔を、一人で……倒そうなどと…」

「お前………」

「安心…して下され。あやつは、っ…どうにか…葬りました…」



幸村は政宗に上半身を抱き起こされると、青白くなった手でその頬に触れる。



「申し訳ありませぬ。そなたを、これより先ずっと…守るつもりでしたのに……」

「…Ha……?んだよそれ…」

「…もう、守れそうに…ない」



政宗の腕に身体を包まれ薄く笑みを浮かべる間にも、幸村の身体は冷たくなってきていた。
床に敷かれた赤絨毯は幸村の血を大量に吸い濃い紅に変色していっている。



「アホ!力奪っておいて無責任なこと言うな!!」

「っつ……政宗殿、愛して…おりました」

「何で、過去形なんだよ……」

「最後に一目お逢い出来て、よかった…」

「…おい、幸村!!死ぬんじゃねぇよ!!」



「血なら、どれだけでもやるから―――…」




瞼を落としていく幸村に、政宗は切なる声を浴びせる。
そして己の唇をギリ、と噛んで出血させ、色を失いつつある幸村の唇へ重ねた。












すると。








「…ンッ……んんんんん!?ちょ、ちょっと待て…!」

「っは……!政宗殿、もっと…!!」

「うあっ、痛ぇ!こら幸村、ぁ……」



幸村は政宗の血の味にカッと目を見開き、今まで弱っていた様が嘘のように政宗の唇を貪り始めた。
余りの豹変ぶりに驚いている政宗を抱き寄せ、今度は首筋へ鋭い歯を立てて血を摂取する。
終いには次第に力の抜けていくその体を床へ縫い付けて、少しずつ血を吸いながら服の中へ手を差し入れ肌へ愛撫を施していく。



「おい…さっきまで死にかけだった野郎が何してんだ……?」

「…知りませんでしたか?某ら吸血鬼にとって愛し合う者の血は、どの薬よりも効く、万能薬のようなものなのです」

「!!」

「…政宗殿も、某のことを…好いて下さっていたのだな」

「……………、………好きじゃねぇ」

「ほう?では、ここがこうなっておるのは何故でしょう…」

「あ、っく……………馬鹿野郎…!!」



政宗は悪態をつきながらも愛しい吸血鬼の背へ腕を回し十字型の火傷の痕の残る首筋へ顔を埋め、ひっそりと歓喜の涙を流した。





























「政宗殿!危のうございます、下がって下され!」

「Ha!誰に物言ってんだアンタ…YA-HA!!」

「あああぁ…これでは力を奪った、意味が……」

「Ah?何か言ったか!?」

「…いえ、何でも…」



それ以後は魔物が出たと噂の場所には、銃を持った神父と、口許を布で覆いスーツにマントを纏った不審な男が度々目撃されるようになったとか。



































ハロウィンを大幅に過ぎてしまって申し訳ないです。
そしてmy設定まみれ万歳です。

吸血鬼について色々調べていたら日焼け止めを塗って昼間に街を歩くツワモノが居るという情報があり、是非ともその素敵設定を生かしたかったのですが……クッ!(悔)

何だか描写不足も多い気が致しますが、お粗末様でした。





戻る