9、こたつがかり
「…寒ィ」
「もう三月ですぞ」
「まだまだ冷えるじゃねぇか。俺がいいって言うまでこれ片すなよ」
ある日の夕方。
幸村のアパートを来訪した政宗は、靴と上着を脱ぐと真っ先にこたつへと潜り込んだ。
古めかしい木造アパートの部屋の中心に置かれたこたつが、政宗の気に入りであった。
貧しい大学生の身である幸村の部屋の、唯一の暖房器具。
赤茶のこたつ布団のかけられたこたつ机の上には、みかんのかごが置かれている。
「Oh,温めておいたのか。気が利くな」
「有難きお言葉!」
「床暖もいいが、やっぱりこたつはいいねぇ」
幸村とは対照的に、大学生になっても尚過保護な保護者故に実家を出ることを許されない政宗は少々贅沢な台詞を零す。
そして背に触れる冷たい空気に身を丸めた。
するとその首筋の髪が、さらりと流れ落ちる。
普段は綺麗に伸ばされた背筋が弧を描くその様が、幸村は好きだった。
可愛らしい、などと口にすれば正されてしまうのが目に見えているので、それはしないでいたが。
「…政宗殿」
「……おい、何してんだ」
しかし間もなく暖かな陽気がやって来る。
今はまだ冷気が残っているが、四月や五月になれば、流石に寒がりの恋人とてこたつに入ろうなどと考えなくなるだろう。
そうすれば、また季節が廻るまで政宗の、その普段の男らしくも綺麗な挙動とは一味違うその様を楽しむことが出来なくなるのだ。
そう考えると、もっと今の政宗を堪能しておきたい。
幸村はやはり心の内は口に出さぬまま、政宗の体を後ろから抱き締めた。
政宗はぴくりと眉根を持ち上げ、軽く後ろを振り返る。
最初こそその顔には不服そうな色しか浮かんでいなかったが、やがて寒さを覚えていた背に感じる温もりに絆されたようで、前を向き大人しく幸村に背を預けるに至った。
「ま、温けぇからいいか」
「そなたの背はまだ冷とうござるな」
「アンタが温か過ぎんだよ」
全身を温もりに包まれた政宗はふあ、と小さく欠伸を漏らす。
無防備なその姿に、幸村の胸は一層高鳴った。
高校の時分に幸村の猛烈なアタックから付き合い始め既に数年経過しているというのに、政宗の挙動は逐一幸村の胸を掻き乱すらしい。
「……しねぇからな」
「え」
いつの間にか政宗の腰をやわやわと揉み始める幸村の手に、政宗は声色を険しくして釘を刺す。
それでも腰から離れようとしない幸村の手に、政宗はその手の甲を思い切り抓った。
「痛うござる…!」
「馬鹿野郎!部屋入れて速攻いただきますとかアンタどんだけ色魔だよ!風呂も入ってねぇのに」
「ぬおおぉ!いただきますなどと何と破廉恥な言い回しか!」
「煩ぇ!早く離……ッ!」
段々と苛立ってきたらしい政宗が声を荒げると、幸村は強硬手段とばかりに政宗の服の内へと手を差し入れた。
黒いセーターの下のシャツの裾を黒のスラックスから引きずり出し、両手で胸元を弄る。
強引に事を進めようとする幸村に政宗は驚きその手首を掴むも、幸村の指先が左右の乳首を摘めば、政宗の体はひくりと跳ねた。
下肢への刺激程ではないが、そこは幸村が性交の際毎回執拗に嬲るおかげで、すぐに芯を持ち政宗に焦れったい性感を覚えさせる程度には敏感になっていた。
政宗は幸村の肌へ出来る限り強く爪を立てながらも、突起をいやらしく弾かれ摘まれる感覚に淡く頬を染め、眉を寄せる。
「某の指が大好きなのだな、愛らしいおっぱいだ」
「やめ…ろ、って……この、発情犬が!」
「…そうですな、もう春故に…発情期なのかもしれぬ」
「あ、っ……おい、何当ててんだよ…!」
背後から今まで以上にべったりと密着してくる幸村の股に違和感を感じ、政宗は語調を強くした。
しかしそれは逆効果なようで、幸村は嬉々として自らの股間を政宗の腰へと寄せ、軽く体を揺する。
勃起しかけた雄を擦り付けられる感覚に政宗は唇を噛むも、その身に走るは嫌悪感ではなく、性感への期待であった。
胸への刺激と相俟って、政宗の陰茎は僅かずつ布を押し上げ始める。
「Ha…アンタ、年中発情期じゃねぇか」
「そなたこそ、お体は年中淫らなようで」
「ッ…誰のせいだと思っていやがる」
尚も悪態を吐く政宗ではあるがどうやら観念はしたようで、幸村の肌を攻撃するのを止め、己の腰を囲うように伸びる幸村の脚へ両手をついた。
そして胸への断続的な刺激に時折体を揺らしながらも、指の腹で幸村の腿をジーンズ越しに撫でる。
滑らかに誘う手つきと擽られるようなもどかしい感触に、幸村の雄は一層硬さを帯びていく。
「…はは、アンタこそ随分破廉恥じゃねぇか」
「ぬ……」
耳に届いた勝気な台詞に、幸村は負けじと政宗のスラックスを引きずり下ろしにかかった。
布の下りる感覚に、政宗は少々躊躇を見せた後腰を持ち上げ脱衣を促す。
幸村の手の届かない場所までスラックスが下りれば、こたつの中もぞもぞと腰を捩って中途半端なところに引っかかった布を脱ぐ政宗の姿に、幸村はごくりと喉を鳴らす。
前を向く彼の顔は見えないが、髪から少しだけ覗く耳先が赤くなっているのは外が寒かったからだけではないだろう。
こうして未だ恥じらいを見せてくれるのも、何度彼を抱いても飽きぬ要因なのだと、幸村は思った。
幸村は早速その形の良い尻に手を伸ばすが、政宗は体を捩りそれから逃れ、こたつの傍らにある小物入れの方へと手を伸ばした。
そしてティッシュ箱とタオルを近くへ手繰り寄せた上で、小物入れの中からローションと二つの銀色の包みを取り出し、片方の包みを幸村へと渡す。
「……ほら、ゴム。服汚さねぇように、アンタももう付けとけ」
数分後。
部屋には先と殆ど変わらぬ体勢ながら絶え間なく体を揺する二人の荒い呼吸とぬちゅぬちゅという粘着音、政宗が掴まったこたつの天板ががたがたと揺れる音が響いていた。
媚筒を絶え間なく陰茎で擦られる政宗はその口端から飲み込みきれなくなった唾液を零しながら、嬌声を押し殺す。
「ん…っく!」
「はあ……政宗殿。もっと、お声が聞きたい」
「う……断、る…」
「素直になって下され。おまんこの方は斯様に気持ち良さそうにしております故…」
女性器の名称で喩えられたそこは、下からの突き上げに合わせてきゅうきゅうと収縮を繰り返す。
こたつの中での行為だからか、内部は普段以上に熱い。
多量のローションに濡らされた淫孔は、まさに性感を享受する女性器のようにぐずぐずに濡れそぼり、蹂躙し来るペニスに歓喜を示しているようである。
結合部から漏れたローションは幸村の下肢を伝い、下に敷かれたタオルへと染み込んだ。
様々に奏でられる卑猥な音と己の剛直により腕中の最愛の恋人が体を震わせる光景に、幸村の興奮は増していく一方である。
幸村は、更に下からのピストンを大きく激しいものとする。
「あぁっ…!あ、っ、は…」
「お美しい声だ…、すぐにでも出てしまいそうになる」
「ン、ぁ……ッ!」
数分こたつの中に入ったままひたすら動いているため、二人の下肢は常の性交以上に汗ばんでいた。
狭い中わざわざ不自由な体勢にて行為を行っているという事実に加え、熱いこたつの内湿った肌同士を合わせるのも互いの性感を増幅させるらしく、二つの息遣いは益々荒くなっていく。
アナルを出入りする幸村の魔羅だけでなく、こたつを汚さぬようコンドームを装着した政宗の陰茎も、ぱんぱんに勃起しきっていた。
幸村が突き上げる度、そう高さのないこたつ机に雄の先端が軽くぶつかるのも、政宗の快感の一因となっているらしい。
政宗は虚ろな隻眼に目の前のみかんとそれの入るかごが揺れる様を映している。
近付く絶頂に、政宗は思わずこたつの中へ手を潜り込ませ、自らのペニスを掴んで激しく上下に扱き始めた。
彼にしては珍しいその行動に幸村は目を丸めるが、いかんせんこたつの中で行われている自慰らしいそれは、幸村の目に映ることはない。
「ぬあっ…何をなさっているので!?」
「はあ……ッ…さあ、何だろうな…」
「自らおちんちんを擦っておられるのか…!?み、見せて下され!」
「ん、駄目…だ。あ、っ…こたつの中でヤってみたいっつったのは、アンタだぜ…?」
「うおおおおぉ…!」
挿入の際こたつを出ようとした政宗を止め男の浪漫の詰まった懇願をしたのは、幸村以外の何者でもない。
暑い中で火照る粘膜同士を擦り合わせるのも、ガタガタと揺れ続ける天板も、激しい突き上げの時にかごの中に詰み上げられたみかんが崩れるのも、まさに理想通り。否、理想以上であった。
しかし、肉筒に陰茎を受け入れながら自慰をする政宗が目の前に居るのに、それを見ることが出来ないなど。
幸村は口惜しげに眉根を寄せ、小刻みに揺れる政宗の腕へ恨めしそうな目を向ける。
「…見せて下さらねば…これが終わったらこたつを実家に送りまする」
「What!?」
「某の目からそなたの痴態を遮るものなど、必要ござらぬ」
「ぐ…ッ…このガキが!」
幸村はピストンを止め、口を尖らせながら目を逸らす。
後ろを振り向いた政宗は、子供のように拗ねたその様に不覚にも愛おしさを覚えたことなど言えるはずもないが、ぐ、と口を噤んだ。
そして少々の逡巡の後、自慰をしているのと逆の手でこたつ布団を捲り、幸村に自らのペニスを見せるように体を捩る。
「は……これで、いいんだろうが…!」
「…!」
「だからさっさと、動け!」
「おまんこを満たされながらおちんちんを擦るのは、やはり格別なのだろうか?」
「あーあー格別だよ!ちんこだけでイッちまいそうになる、から早く……ッんあぁ!」
半ばやけ気味の政宗が目許の染まった顔をこたつの側へと戻し右手を忙しなく動かし幸村に自慰を見せつけていれば、幸村の陰茎はどくりと大きく脈打ち、再度政宗の中を出入りし始めた。
自慰を見られながら過敏になった肉壁を雄に犯され、政宗は目尻に生理的な涙を溜めながら首を振る。
「あ、ぁ…ゆ、きむら……ッ!も、駄目…だっ……」
「某も、そなたの恥ずかしいお姿が、愛らし過ぎて…眩暈がして参った」
「んくっ…死ね、馬鹿……っあ、あ……ああぁっ!」
「う、ぁ……政宗、どの…!」
上下に揺れる睾丸同士をぶつけ合いながらの激しいピストンの末、先に吐精したのは政宗であった。
淫孔を張り詰めたペニスで貪られながら一層素早く右手で自らの雄を扱き、掠れた声を漏らしながらコンドームの中へと精液を放つ。
その手の上下は鈴口から二度、三度と精液を吐き出しても止まらず、恍惚とした表情にて前と後ろの両方から得る絶頂感に浸っているようであった。
そして射精に伴う内壁のきつい収縮に、剛直を政宗の孔へ挿したままの幸村も政宗の体を強く抱き締め、コンドームの内へと白濁を吐き出す。
精液は感じないものの逞しい男根が己の深くでびゅくびゅくと震える感触に、政宗は白い喉を反らして足先を丸めた。
―解説―
・こたつがかり
座った幸村の上に、同方向を向いて政宗がまたがり、こたつ板に手を突いて体を支える。
危うくこたつの時期が終わるところでした…(※3月中旬)
オチてないけど、天板ガッタガッタとみかんころりんが書けたので満足です!
ところでこたつ「がかり」なのかこたつ「かがり」なのか、調べてみたけど両説ありました。一体どちらが正しいのか…。
戻る