8、御所車
ある夜のこと。
幸村は、同じ大学の先輩であり恋人でもある政宗のマンションへと来訪していた。
「あ、あの…政宗殿……?」
政宗の目は、真剣にテレビ画面へと注がれている。
幸村はそんな政宗に控え目に声をかけるが、どうやら聞こえていないらしい。
画面に映るのは、端整な顔立ちの俳優と女優達。
全員外国人のようで、耳に届く声も吹き替えではなく英語のまま。
いきなり銃撃戦が繰り広げられたかと思いきや、濃厚なキスシーン、次いで炎上した車から飛び降りるスタントなど次々と場面が移り変わり、幸村には到底展開がわからない。
しかも。
「うっ……」
政宗が座っているのは、床に仰向けに寝そべった幸村の腹の上。
しかも幸村の少しだけ下ろされた茶のスラックスの上部からは性器が剥き出しで、腿のあたりまで脱いだ政宗の後孔がそれをずっぽりと咥え込んでいた。
だが幸村に動くことは許されていないのか、幸村はペニスを断続的に襲う甘い圧迫感に呻きを漏らすしかない。
「政宗殿ぉお……」
「煩ぇ、静かにしろ」
「しかし!こ、これは…あんまりにござる!」
「アンタがどうしてもっつーから相手してやってんのに、文句言うな」
海外ドラマが観たい。
破廉恥なことがしたい。
毎週観てるんだ。終わってからにしろ。
嫌でござる。
邪魔するな。
無理にござる。もう勃ってしまった。
……仕方ねぇ。気が散らねぇよう俺のpaceでするから、動くの厳禁。
不可能でござる。
明日の朝食抜き。
申し訳ござりませなんだ。
…そんな経緯で、今に至った。
政宗の脅しに呆気なく屈した幸村は、顔を真っ赤にしながら目を潤ませている。
政宗は相変わらずドラマに夢中だ。
でもせめて、腰を跨いで座るぐらいして欲しい。
傍らから脇腹や腿のあたりに腰を下ろされて、まるで己がソファのようではないか。
「っく……動いて、下され…」
「………」
そんな棒付きソファの切なさもつゆ知らず、相変わらず政宗はドラマの展開に夢中である。
政宗の媚筒に食まれているだけで達しそうなまでに追い上げられた幸村は、いよいよ堪らなくなって政宗の腰へ震える手を伸ばした。
もういい。
たとえほかほかの美味しい朝ごはんが抜かれようと、今はこちらを抜く方が先決だ。
掴んで倒して揺すぶって。
政宗の温かい粘膜で全体を擦って。
驚きながらも言いようのない性感に涙する恋人を見下ろしながら、愛しい熱に包まれて射精したい。
意を決した幸村が政宗の腰を掴む―――その直前。
「What!?」
「ひっ……!」
画面の中の予想外の展開に隻眼を見開き、政宗は前へ身を乗り出した。
するとコンドームを被せられた幸村の雄は、政宗の胎内からずるりと漏れ落ち、その避妊具の中へ白濁を吐き出し始める。
興味津々にテレビにかじり付く政宗。
身体をビクビクと震わせて吐精する幸村。
――― 一人寂しく射精する様は、あまりに虚しい。
「マジかよ……まさかそう来るとは」
「……ッ…」
尚も己を気にもかけない政宗に、幸村の切なさは頂点に達した。
射精を終えればゆらりと立ち上がり、政宗の背後に立つ。
「……政宗殿…」
「待て、もうちょっとでだな……あぁっ!?」
「もう我慢ならぬ!」
政宗の腰を後ろから引っ掴み、未だに萎えぬペニスを無遠慮に挿入した。
乱暴な結合に、流石に政宗も驚きの声をあげる。
しかし、幸村はそれも構わず腰を打ちつけた。
「やっ…めろ!オイ!待て…ってこの野郎!」
「酷うござる!テレビと某とどちらが大事なのか!」
「あ、ッ、…は……何、言ってんだ…」
「某は、…某はぁ……政宗殿と沢山触れ合えると、楽しみにしておりましたのに…!」
断続的に肉同士がぶつかる音に、ぐず、と幸村の鼻をすする音が混じる。
毎日会ってはいるけれど、泊まりに来られるのは互いのサークルやバイトの関係で週に一度だけ。
それなのに、あまりの仕打ちではないか。
構って欲しい。
あんなことや、こんなことや、そんなことだってしたい。
「…政宗殿ぉお…」
「っ、ン…は…、…Sorry…」
政宗は片手で身体を支えながら軽く振り返り、他方の手で幸村の濡れた目許を拭ってやる。
その口からは、吐息混じりの謝罪が漏れた。
「わかっ……た、構って…ッ、やる、から……泣くな」
「!」
「…アンタも、アンタのちんこも纏めて…ッア、…う…!」
「…かたじけないぃ…!」
「まあ…これ、録画…してるしな…ッあ、……いいぜ…」
「………、…録画?」
政宗をぎゅうと抱き締めた幸村であったが、最後に聞こえた台詞にぴしりと固まった。
内壁を擦られ少しずつ乗り気になってきていた政宗は、不満げに眉を寄せる。
「オイ、何で動……」
「………」
「?ゆきむ……うあぁッ!?」
政宗が後ろを振り返ろうとしたその時、幸村はただでさえ狭い政宗の内へ、今収まっている陰茎に加え指を二本挿入した。
そしてその尻に向かって腰をぶつけながら、腸内の指を雄の動きに合わせるよう抜き差しし始める。
後孔を凌辱するあまりの質量に政宗は、隻眼を丸めてそこへ涙を滲ませた。
体を支えていた腕もかくりと力を失し、幸村に恥部を差し出すような姿勢になる。
「あ、ぐ…、それ、いや…だ……抜け!」
「断る」
「んっ…でだよ!ほ、んとに…暫く、飯作ってやらねぇぞ…!」
「構わぬ。…週に一度睦める恋人よりも、録画しておるテレビなぞをとった仕置きです」
「うっ……わ、るかった……って…あ、っ、く…!」
常日頃受け入れている以上の太さを受け入れ、政宗の体は小さく痙攣する。
しかしそれが痛みから来るものでないことは、その声が甘くなってきていることからも明らかであった。
仕置きと言いつつも何処か優しく緩やかなピストンに、朦朧とする意識の中、政宗は舌を打ち、少しだけ笑った。
―解説―
・御所車
騎乗位した政宗が幸村の男性器を支点としてクルクル回転する体位のこと。
流石にクルクル回転する状況までは思いつきませんでした。
政宗が嫉妬とかお仕置きを仄かに期待しながら幸村にこういう意地悪とかしてたら、凄く可愛い…。
ずっと前に途中まで書いてあったものを書き上げたので、ちょっと今とは時代のズレを感じますね。
きっとその時には24とかが流行ってたんだろう。
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