7、首引恋慕
政宗は、行為の最中に顔を見られるのを嫌っていた。
閨では大抵後ろを向いて幸村を誘ったし、幸村が前から求めようとした時には容赦なくその頭を引っ叩き、外へ放り出した。
幸村が政宗の感じる顔をよく見たいと何度も懇願しようと、政宗はそれに応じることはなかった。
幸村はふと、幸村の屋敷での閨事の後、政宗にその話を持ち出してみる。
「あれはあれで昇ぶるのだが…口を吸うことも出来ませぬ」
「昇ぶるならいいじゃねぇか。口も他の時になら吸ってやるし」
「何故隠されてしまうのでござるか?」
「Ha!アンタにゃ関係ねぇ」
政宗は幸村の問いを一笑に付すと、枕へ頭を預け布団を被ってしまった。
その様に、熱く語っていた幸村の眉はしゅんと八の字を描く。
中々口に出したがらないところからしても、原因は右目のこと以外思い当たる節がない。
確かに政宗の右目には幼い頃患ったという疱瘡の痕がある。
これだけ何度請うても拒むということは、それを事の最中にはあまり見られたくないに違いない。
しかし、右目の痕も含め、幸村は政宗の全てを愛しく想っている。
それを見たところでどうして閨事に支障が出ようか。
未だ政宗は己の全てを信じてくれたわけではないのか。
幸村の心は悲しみに満たされると同時、それならば政宗の全てを手に入れんという闘志をふつりと灯した。
「Humn……?何か、苦……」
「おはようございまする!政宗殿!」
政宗が目を覚ますと、幸村の顔が息がかかる程間近にあった。
よくあることなので、それはいい。
それはいいのだが、政宗は首裏に紐の食い込むような感触を覚えた。
自らに覆い被さる幸村の肩を押してみると、その紐らしきものは更に政宗の肌に食い込んだ。
そこで漸く政宗は、互いの首を纏め縛っている赤い布の存在に気が付く。
「んだよこれ。新手のplayか?」
政宗は、呆れたように半目で幸村を見遣る。
二人の間をつなぐ布は、幸村の鉢巻。
硬く結んであるらしく、少し政宗が引っ張ってみたところで解けそうにない。
しかし、幸村の妙な嗜好にはとうに慣れている政宗は、胸元を撫でられようと落ち着き払っていて。
「後々のお楽しみにござる」
「Haa……まあ何でもいいが」
抵抗されぬのをいいことに、幸村は嬉々として、政宗の着物の襟を割り開き、その肌を堪能していった。
昨日幸村が吸い上げた箇所は少し赤くなっていて、白い肌に浮かび上がるそれは、あたかも華のようである。
それが幸村の興奮を更に煽り、幸村の手は更に下へ下へと伸びていく。
緩く勃ち上がった陰茎を少しばかり扱いた後、後孔の入り口へ指先を滑らせる。
昨晩幸村の男根が何度も出入りしただけあって、そこは未だ柔らかく、幸村の中指と人差し指を難なく呑み込んでしまった。
「政宗殿のおまんこ、柔らかいですな」
「……ン…ぁ、昨日…アンタが散々太ぇので拡げてくれたからな」
「は、破廉恥!」
「どっちがだよ、このエロpappy」
政宗が淡い性感に少しばかり眉を歪めながら口端を持ち上げれば、幸村の頬はかあ、と朱に染まった。
しかしその指先は止まることなく、政宗の体腔を蹂躙する。
数刻前中に出した幸村の精液のおかげで潤う内部は、幸村が指を抜き差しする度にぐちゅぐちゅと卑猥な音をたてた。
その音を耳にすると流石に羞恥を感じたのか、政宗は自らの唇を柔く噛む。
そしてその羞恥を散らすように、それまで敷布を掴んでいた手を、幸村の夜着の内の魔羅へと絡ませた。
下帯に包まれぬそれは、既に大きく勃起し脈打っている。
「ぬあっ……」
「ガチガチじゃねぇか」
「…ぐ……」
「…つうか、この紐どういう意味があるんだよ?ヤりにくいんだが」
「これは……ですな」
片手の内の男根を扱きつつ空いた手で鉢巻へ触れながら政宗が問うと、幸村はにこりと笑んでは政宗の両足を左右の腕で抱え大きく開かせた。
そして白濁に濡れる孔の入り口に、雄の先端をくちゅりと寄せる。
そこで政宗はハ、と息を飲み、すぐに間近にある幸村の面へ鋭い目線を向けた。
「…アンタ……」
「政宗殿のお顔を見ながら致したい一心で」
「何を馬鹿なことを始めたかと思えば……。駄目だ、このままならしねぇ」
政宗は小さく舌打ちをし、幸村の陰茎を強く掴む。
急所を握られる痛みに幸村はびくりと肩を揺らし眉を寄せるも、政宗の脚から腕を離す様子はない。
すれば、政宗の視線は更に厳しいものとなった。
「Han……アンタ、このまま潰されてぇのか?」
「政宗殿は斯様なことは致さぬ」
「どうだかな。アンタのちんこなくなったなら俺が上になりゃいい話だし」
「んなっ!?…政宗殿、どうしてもこの幸村の願いを聞いては下さらぬのですか…?」
「Shut up!とっとと……ッあ!?」
幸村の悲痛な声色での懇願も躊躇なく却下した政宗に、幸村は勢いをつけ男根を突き立てた。
無論、茎は政宗が握っているためその手がつっかえとなり、孔内へ押し込めたのは亀頭の部分だけであったが。
予想外の強行に、政宗は眉根を寄せ、中の不届きな雄を腸壁で締め付けると同時、手の内のそれをも一層強く握った。
「ぐっ……テメェ本当に女になりてぇのか!抜け!」
「そなたこそ離して下され!」
「Damn it!何でいきなりんな我が儘…!」
「いきなりではござらぬ!……某に御身を全て委ねて頂けぬこと…ずっと、ずっと悲しゅう思うておったのだ!某が右目のことを気にするとでもお思いなのですか!?」
「右目?…ッ……」
頑なな様子の政宗に、幸村は感極まったように訴えかける。
強い口調と強引な行為に反しその瞳の奥は揺れ、寂しげな色を浮かべていた。
それには政宗もぐ、と閉口する。
少々の逡巡の後がしがしと自らの頭を掻き、やがて大きく溜め息を吐いた。
そして今まで指をめり込ませていた幸村の性器から、戸惑いがちに手を引く。
「……何か一気に馬鹿らしくなっちまった……わーったよ。好きにしろ」
「!」
「Cuteな恋人を悲しませるなんざcoolじゃねぇからな」
政宗は困ったような笑顔を見せ幸村の頭を撫でる。
いくら悪態を吐いたとて、結局のところ、政宗は幸村に甘いのである。
すると幸村は一瞬驚いた顔をした後満面の笑みを浮かべ、政宗の中へ深く楔を打ち込んだ。
政宗の唇からは呻きが漏れるが、幸村の目にした政宗の表情は、とても気持ちの良さそうなものであった。
男らしくも色の白いその面には、淡い桜色が広がっている。
とろけた隻眼はうっすらと開かれ、幸村だけを映す。
同じく少しだけ開かれた唇からは甘い吐息が零れ、唾液に濡れる唇の奥では赤い舌が幸村を誘っていた。
「あっ……ぁ、幸、村…」
「政宗殿、この上なく艶めかしい」
「う…そ吐け。……俺、自分で見た時…相当気持ち悪かったんだぜ」
「そのようなことは」
「こんなムサい男が自分よか何倍もcuteな恋人に突っ込まれて感じまくって、女みたくpinkに頬染めて喘いでる。……この世の終わりかと思ったぜ」
「なっ…お待ち下され!原因はお顔だと?誠にそれはご自身のお顔を見られたのですか?」
「当たり前だろ。…偶然、姿見に映ったとこ見ちまったんだよ」
「いや……しかし」
政宗は快感に顔が歪みそうになるのを堪えながら述べた。
あらぬ見当違いに幸村は暫し唖然としていたが、やがて自嘲を重ねるその唇へはむ、と甘く噛みついては、目を細める。
「…確かにこの世の終わりかと、思うやもしれませぬな」
「………だろ」
「余りにお美し過ぎて…そなたは天女なのだろうか」
「!……っ…あ、待て…動、くな…」
「天女を犯すなど、罪とわかっていようと…やめられぬ」
「いっ……!?あ、く…っ、は…」
幸村は政宗の表情を間近でしかと眺めながら、布団から抱き起こした。
繋がったままの局部は政宗の体重がかかることによって更に深く結合することとなり、本来の用途ではなくも男を知って久しい媚筒はそれだけで痺れるような性感を拾う。
それに耐えきれぬよう政宗が腰を捩れば、幸村の雄は更に大きさを増し、容赦なく政宗の中を貪り始めた。
下からの力強い律動に、政宗は互いを繋ぐ紐につかまりながら、柳眉を寄せ幸村を睨む。
「ッ…俺が天女、とか……アンタ、ほんとにcrazyだな…」
「その不服そうなお顔も、麗しゅうござりますぞ…」
「は……っ、戯言を」
客観的に聞けば色々な意味で堪え難い形容でも、幸村がそのような言葉を吐く度、政宗の中はきゅうと締まり、勝気な表情は淫らに蕩けていった。
己の腕中で性感に溺れる想い人の体に加え、今まで殆ど見ることの出来なかったような表情までをも堪能することに成功し、幸村は体も心も満たされていくのを感じた。
「某の天女殿…全て、受け止めて下され……ッ」
「ばっ……阿呆かアンタ…っ、ン……あぁ……!」
果てるきっかけとなった幸村の言葉は、政宗を更なる自己嫌悪へ突き落としたという。
―解説―
・首引恋慕
紐を使用した対面座位のこと。
政宗が幸村の上に向き合うようにして座り、輪にした紐を互いの首にかけながら挿入。
先人は何がきっかけで紐なんて首に括って事に及んだのでしょうね…。
そしてやはり右目のこととか全く気にしてないような気概の政宗が好きです(ただし喘いでる顔は気にする)。
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