喜びのうた


辰っちゃんといると、楽しい。
それは、他の三人とちょっと違った感じで。
やっぱりどうしても女というだけで、ほんの少し特別扱いをされているよう
に思えるのだ。
もちろん彼らに聞いたところでそんな事はないと口を揃えて言うだろうが。
だって猥談には参加させてもらえないし、つか…したくないし。
それに大切にされているというのも、コレだけあからさまだと、自意識過剰
でなくてもわかる。
特に小太郎さんは一番酷い。
最近は特に病気みたいで、箸より重いものを持っただけで、大騒ぎされる。
みんなが戦いに出ている間には怪我人を抱えて動かしたりしてるのに。
他の二人も上記の人ほどあからさまではないが、アレはダメだコレはダメだ
とうるさい事の方が多い。
もちろん辰ちゃんも優しいけど、対等に接してくれているのは彼が一番だと
思う。
荷物も持たしてもらえる。
もちろん重い時は助けてくれる。
だから嬉しい。
アレもコレもソレも…と箱に入れて育てられたわけではないのだから、ダメ
だと言われるとちょっと悲しい。

「辰っちゃん」
「ナンじゃ?
「いつも、アリガトね」
「なにゆーとーがか!あたりまえじゃろー。 はわしらの大事な仲間
じゃけんそげなコトちぃとも気にせんでええんじゃー」
「うん!」

大好きよ。辰ちゃん。










優しいうた
 

小太郎さんは、誰よりも誠実。
真っ直ぐで(もちろんソレは他の三人も一緒だが)真面目なのは彼が一番。
落ち着いていて、いつも冷静で。
でも私が落ち込んでいるときは慌てふためきながらも一生懸命慰めてくれる。
すごく頼もしい、お兄ちゃんのような存在。
ただそれは大変なことで…。
常に気を張ってばかりだと、いつかきっと疲れちゃう。
それなのに、自分には優しく出来ない。
とっても不器用な人。
いつかゆっくり出来るようになったら、小太郎さんも少しは楽になるのかな。
そのお手伝いを少しでも出来たら良いのに。

「小太郎さん。アイス食べたい」
アイスアイス。と強請るワタシが、ホントはアイスが食べたいのではなく
て、ただ構って欲しいだけなのだという事をきっと小太郎さんは知らない。
、アイスばかり食べては栄養が偏る。今日のおやつはそこらへんを考
慮して焼き芋だ。好きだろう?」
「うん!」
大きな背中に抱きつく私の頭を撫でて優しく笑った小太郎さんは、ふと思案
顔で首を傾げた。
「しかし何故女子は焼き芋に殊更好意を示すのだろうか?」
「えー。…それは本能です」
「そうか。やはり俺にはまだまだ勉強しないといけない事が山積みだな」
「…がんばって」
「ああもちろんだ。…ん?どうした?目頭を抑えて。…疲れたのか?」
「ええ、ちょっと」

ホントに困ったところも多いけど、誰よりも憎めないカワイイ人。










悲しいうた


晋さんはとても優しい人。
簡単にそうとは分からせないけれど、側にいるとよくわかる。
そして誰より純粋な心を持っている。
でも、その心は綺麗すぎて不純物を許せない。
だからいつも痛くて悲しい物がその周りにまとわりつく。
アレを消せないものだろうか。
怖いよ。いつか壊れてしまいそうで。
その心が麻痺してしまって、痛みを感じなくなった時、彼は一体どうなって
しまうのだろう。

「晋さん」
「なんだ?」
「晋さんの夢はなに?」
「…夢なんてねぇよ。俺の中にあるのは後悔と絶望だけだ」
「……」
「なぜそんなに悲しそうな顔をする」
「だって…」
「お前は笑ってろ」
「晋さん…」
「俺は夢や希望なんてモンはいらねえが、…。お前が笑ってるのを見る
のは悪くねえ」
そっと触れてくる優しい手。
言葉を詰まらせる私を抱き寄せ背中を子供にするみたいに軽く叩いて宥める。
その掌が、あまりに暖かくてポロリと涙がこぼれた。

あの人を失った時、人として生きるのに必要なモノはすべて意味をなくした。
それはもう俺にはいらないものだから、お前にやる。
この先、俺が人並みに得る筈だった幸せや希望やそういったモンを。

と、その人は透明な笑顔を浮かべた。
「だって俺の代わりに泣いてくれてるんだろ?」
「……」
「涙だけなんてケチくせぇこと言うなよ。笑顔も幸せも、全部持ってけ」

願うなら、あの悲しい瞳に、安らぎを。










あまいうた


銀時は強い人。
他人だけでなく…自分の弱さも包み込んで抱えてしまう強い人。
いつもは飄々とした態度でそれを隠してしまっているけれど、いざという時
はみんなが頼りにしてしまうほどに。
此処にいるすべての人にとって必要な人。
それほど、彼の側は心地良い。
だから、私の中で銀時がとても大きな存在になっていくのに、たいした時間
はかからなかった。
いつの間にか心に入り込んで、銀時はその真ん中に居座ってしまったのだ。
ずっと一緒にいられない人と分かっているのに。
側にいるとドキドキする。
触れられると、そこが熱い。
見つめられると嬉しい。
…のに、苦しいのはどうしてだろう。

さわりと風が吹く。

物思いに耽るその横顔は、いつもの銀時からは想像出来ないくらい真剣その
もので、思わず足が止まった。
普段はふ抜けた表情と仕草でまわりを欺くかのようにだらしない振りをして
いるけれど、本当の彼はそうじゃない。
人一倍みんなのことを思っていて、この先のことを見据えている。
特に最近の彼は良くこうやって考え込んでいることが多くなった気がする。
その視線の先に見えているのは、どんな明日なんだろう。
そこに私は居るのだろうか。
いつか、その手をつないで欲しいと思った。…叶わぬ願いでも。
側にいれるだけで、幸せなはずなのに。
どんどん欲張りになっていく自分が嫌になる。
「銀時」
「ん?」
「…なんでもない」
呼べばこちらを振り返る。手を伸ばせば触れられる。
こんなに近くに居るのに、遠く感じる。

「…なあ、。 嬉しいのに、苦しいって思う事あるか?」

誤魔化すように笑った私をどう思ったのか、考え込むようにしていた銀時は
呟くようにそう言った。
「え?」
真っ直ぐ射抜くような瞳に貫かれて、気づいてしまった。
…気がつきたくなかった。のに。

ああ、嬉しいのに、苦しいのは…

「……あるよ」
「そうか」

私が、銀時に恋してるからだ。








2009.09.06 ECLIPSE






アトガキ

姫からみた、四人のお話でした。
そろそろ、お話も終わりに近づいてきています。
だらだら続いていたので、さっさとケリつけたいところですが、
今暫くお付き合いください。